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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第四章 分けて考える

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第29話 銀貨三十枚を切り分けます

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 ベルカ商会に戻ると、ロイが見積書を見た。


 最初の一行で、目が止まる。


「銀貨三十枚」

「はい」

「高いですね」

「ロイまで即答ですか」

「高いので」


 強い。


 数字を見るロイは、本当に強くなった。


 クロードさんは椅子に座り、見積書を机の中央へ置いた。


「分ける」

「ですよね」

「分けないと見えない」

「見えてる人が言うと、説得力がありますね」

「見えても、書かないと伝わらない」


 それは、その通りだった。


 わたしだけが納得しても、西区施療院には出せない。


 ロイが新しい紙を広げた。


「では、項目ごとに分けます」

「お願いします」

「新品。修理。予備。保管。手数料。不要分」

「最後、強いですね」

「不要なので」


 ロイは淡々としていた。


 わたしは見積書を読み上げる。


「新品小樽二十、新品桶十五、輪金予備五十、緊急配送費、保管料、管理手数料、優先契約料」

「多い」


 クロードさんが言った。


「どこがですか」

「全部だ」

「それは雑です」

「だが、多い」


 ロイが小さくうなずいた。


「まず、西区施療院がすぐ必要としているのは、小樽五、桶三でしたね」

「はい。来週までに同じくらいです」

「なら、新品小樽二十は過剰です。新品桶十五も過剰です」

「でも、足りなくなる可能性はあります」

「可能性と即時購入は分けます」


 ロイがさらっと言った。


「ロイ、今の言い方いいですね」

「ありがとうございます」


 クロードさんが短く言った。


「悪くない」

「ロイには甘くないですか?」

「今のは八割」

「わたしより高い!」

「内容がいい」


「悔しい!」


 ロイは表情を変えずに続けた。


「まず新品は、すぐ必要な分だけで小樽五、桶三。来週分は予約ではなく確認枠にします」

「確認枠?」

「修理できるものを見てから、足りない分だけ追加します」

「なるほど」


 ロイが金額を書いた。


 銀貨三十枚の横に、新しい数字が並ぶ。


「この時点で、銀貨二十六枚前後まで下がります」

「もう四枚下がったんですか」

「過剰な新品を外しただけです」

「すごい」

「まだです」


 ロイは次の項目へ線を引いた。


「保管料」

「これは不要だ」


 クロードさんが即答した。


「まとめて買わないからですね」

「そうだ」

「優先契約料は?」

「不要」

「先に回してもらわなくていいんですか?」

「すぐ必要な分だけ押さえる。全部を優先にする必要はない」


 ロイが書き込む。


「保管料と優先契約料を外すと、銀貨二十三枚前後です」

「三十枚から、もう二十三枚……」


 わたしは見積書を見比べた。


 数字が軽くなっている。

 でも、物が消えたわけではない。

 必要な分だけ残っている。


「管理手数料はどうしますか」


 ロイが聞いた。


「全部は消せない」


 クロードさんが言った。


「管理は必要だ」

「ですよね」

「ただし、高い」

「高いんですね」

「高い」

「本当に高い時は二回言いますね」


 管理手数料の欄には、まとめ買い、保管、配送調整、優先枠の管理が混ざっていた。


「これも分けましょう」


 わたしは言った。


「修理品の記録、確認者、用途分け。そこは必要です。でも、保管と優先契約に関わる管理は外せます」


 ロイがこちらを見た。


「商会主、その分け方でよいと思います」

「本当ですか」

「はい」


 クロードさんも言った。


「悪くない」

「何割ですか」

「八割半」

「さっきより上がった!」

「息を止めていない」


「そこは見なくていいです!」


 ロイは管理手数料を分けて、必要分だけ残した。


「ここまでで、銀貨二十二枚前後です」

「二十二枚」


 銀貨三十枚が、二十二枚。

 差は銀貨八枚。

 大きい。


「八枚あれば、何ができますか」


 わたしが聞くと、ロイはすぐに答えた。


「南区配送の数日分の補助に回せます。小樽修理の追加費にも使えます。人手を雇うこともできます」

「つまり、無駄に出していい金額ではない」

「はい」


 胸の奥が少し熱くなった。


 銀貨八枚。

 ただの差額ではない。

 止めないために使える金だ。


「輪金予備五十はどうしますか」

「十でいい」


 クロードさんが言った。


「少なくないですか」

「足りなくなりそうなら、小口で足す」

「ニール鍛冶場ですね」

「ああ」


 ロイが帳簿を確認する。


「ニール鍛冶場から、細い輪金の納品予定があります。継ぎ輪金の品質確認も桶職人へ回しています」

「では、予備五十は多すぎます」

「多い」


 クロードさんがうなずく。


 わたしは見積書に線を引いた。


 五十を十へ。


 それだけで、紙の圧が減った気がした。


「修理できる小樽と桶は?」


 ロイが聞く。


「西区で確認が必要です」

「現時点では、修理可能数を見込みで入れますか」

「入れすぎると危ないです」


 わたしは少し考えた。


「最低限だけ入れましょう。確実に直せる二つ分だけ。残りは確認後に反映します」


 クロードさんがこちらを見た。


「慎重だな」

「駄目ですか」

「いや」

「何割ですか」

「八割半」

「据え置き!」


「悪くない」


 ロイが計算をまとめる。


 新品小樽五、新品桶三、輪金予備十、修理確認分、必要な管理手数料、保管料なし、優先契約料なし。


「概算で、銀貨二十一枚から二十二枚です」


 ロイが言った。

 部屋が少し静かになった。


 銀貨三十枚から、二十一枚か二十二枚。


 大きい。


 だが、ただ削っただけではない。


 小樽も桶も止めない。

 必要な予備も残す。

 修理できない分は新品で買う。


 残ったのは、必要な金だった。


「安くした、とは言いたくないですね」


 わたしは言った。


「安くはした」


 クロードさんが言う。


「そうですけど」

「だが、削ったのは必要なものではない」

「はい」


 わたしは新しい見積書を見た。


「不要な不安を外したんです」


 ロイが手を止めた。

 クロードさんも、少しだけこちらを見た。


「それがいい」

「え」

「西区へは、そう言え」


 クロードさんが言った。


「安くしたのではありません。不要な不安を外しました」


 声に出す。


 言いやすい。


 意味も通る。


 強い。


「それ、使います」

「使え」


 ロイが清書用の紙を出した。


「では、再見積もりは三段にします」

「三段?」

「今すぐ必要な分。来週確認分。予備と管理分です」

「わかりやすいです」

「西区施療院が判断しやすいようにします」


 ロイの筆が進む。

 クロードさんが数字を見る。

 わたしが用途を書く。


 三人で一枚の見積もりを作る。


 前なら、たぶんできなかった。


 クロードさんが高いと言い、わたしが驚き、ロイが困る。

 それで止まっていた。


 今は違う。


 分けられる。

 書ける。

 説明できる。


「商会主」


 ロイが言った。


「これを西区へ出しますか」


 わたしは新しい見積書を見た。


 銀貨三十枚より軽い。

 でも、責任は軽くない。


 この金額を出すなら、ベルカ商会が本当に止めないと証明しなければならない。


「怖いですね」

「怖いな」


 クロードさんが言った。


「でも、出さないと?」

「銀貨三十枚が出ていく」

「ですよね」


 わたしは息を吸った。


「出します」


 ロイがうなずいた。


「では、西区提出用に整えます」

「お願いします」


 クロードさんが短く言った。


「悪くない」

「何割ですか」

「九割」

「九割!」


 思わず声が上がった。


「あと一割は?」

「出してからだ」


「厳しい!」


 でも、今はそれでよかった。


 まだ通ったわけではない。

 ただ、切り分けただけだ。


 銀貨三十枚の見積もりは、銀貨二十一枚から二十二枚になった。


 安く見せたのではない。

 必要なものだけを残した。

 不要な不安を外した。


 次は、それを西区に出す番だった。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

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