表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第三章 サーキュラー・エコノミー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/45

第27話 太い道だけが道ではありません

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 ベルカ商会の店先に、ベルトンさんが立っていた。


 相変わらず、薄く笑っている。

 今日は一人ではない。

 後ろに、昨日のガリオ商会の男もいる。

 嫌な組み合わせだった。


「ベルカ商会さん。ずいぶん、北で動いているようですね」

「必要な確認をしているだけです」


 わたしは答えた。

 帳簿はロイが奥に下げている。

 荷札も見えない場所に移した。

 昨日より、少しだけ準備ができている。


「規格外の鉄材まで買ったとか」

「はい」

「なかなか面白いことをされる」

「ありがとうございます」

「褒めてはいません」

「そうですか」


 少しだけ、言い返せた。

 ベルトンさんの笑みが薄くなる。


「ただ、気をつけた方がいい。北門の問屋も、鍛冶場も、昔からの付き合いがあります。急に入り込むと、相手も困る」

「昨日も同じような話を伺いました」

「なら、わかるでしょう」

「はい。付き合いは大事です」


 ベルトンさんが満足そうに笑う。

 そこで、わたしは続けた。


「なので、うちも付き合いを作ります」


 笑みが止まった。


「……何ですって?」

「ベルカ商会も、ニール鍛冶場さんと付き合いを作ります。北門の問屋さんとも、規格外鉄材の取引をしました」

「それは正式な取引とは言いにくいでしょう」

「小口ですが、取引です」

「小口では、流れは作れませんよ」


 クロードさんが横で言った。


「作れる」


 短い。

 強い。


 ベルトンさんがクロードさんを見る。


「あなたは、ずいぶん口を挟みますね」

「必要な時だけだ」

「では、今は必要だと?」

「ああ」


 ベルトンさんは、少しだけ目を細めた。


「ガリオ商会は、輪金を正規の品として扱っています。品質も数も保証できる。南区や西区のような場所こそ、きちんとした品を使うべきです」

「それは正しいです」


 わたしは言った。


 ベルトンさんが、少しだけ勝ったような顔をした。


「ただし、全部を新品にする必要はありません」


 その顔がまた止まる。


「修理用なら、使える鉄材で足ります。新品が必要なところには新品を使います。継ぎ輪金で足りるところには、継ぎ輪金を使います」

「見栄えが悪い」

「見えない場所です」

「信用に関わる」

「止めない方が、信用に関わります」


 言えた


 少しだけ、声が強くなった。


「南区の共同炊事場も、施療院も、必要としているのは、止まらないことです。見せるための新品ではなく、使える道具です」


 ベルトンさんは黙った。

 でも、すぐに笑みを戻した。


「なるほど。では、その使える道具とやらを、どうやって保証するのです?」


 来た。

 嫌なところを突いてくる。

 わたしは息を吸った。


「桶職人に確認してもらいます」

「その職人が忙しくなれば?」

「確認の順番を分けます」

「それでも追いつかなければ?」

「急ぎと予備を分けます」

「それでも?」


 詰めてくる。

 嫌な詰め方だった。

 でも、前より怖くない。

 なぜなら、もう考えてある。


「ガリオ商会さん。うちは、全部を一度に受けません」


 ベルトンさんの眉が動いた。


「南区は正式配送。西区は調査。鍛冶場は小口。鉄材は規格外だけ。全部、分けています」


 ロイが奥で帳簿を開いた。

 見せるためではない。

 でも、そこにあるだけで心強い。


「できるところまで受けて、できないところは受けません。必要なところだけ買って、使えるものだけ回します」

「ずいぶん細かい」

「細かくしないと止まります」


 でも、今はそれでいい。


「ガリオ商会さんは、大きな荷を扱えます。うちは、細い荷を止めないようにします」

「それで対等だと?」

「対等になる必要はありません」


 自分で言って、驚いた。

 でも、止まらなかった。


「うちは、うちの仕事をします」


 店先が静かになった。


 ベルトンさんの後ろの男が、少しだけ顔をしかめる。

 ベルトンさんは、ゆっくり笑った。


「小さい商会が、自分の仕事、ですか」

「はい」

「では、その仕事を見せていただきましょう。南区管理所に確認します。規格外の鉄材で直した小樽を、本当に使うのか」


 嫌な流れだった。


 でも、クロードさんは動かない。

 わたしを見ている。

 たぶん、ここはわたしが言うところだ。


「どうぞ」


 わたしは言った。


「確認してください」


 ベルトンさんの笑みが、ほんの少しだけ揺れた。


「よろしいのですか?」

「はい。南区管理所にも、施療院にも、共同炊事場にも説明しています。配布用、保管用、予備用を分けています。強い欠けや深い割れのあるものは使いません」


 その時、店先に別の声がした。


「その件なら、確認済みです」


 エルマンさんだった。

 手に書類を持っている。

 少し息が上がっていた。


「南区管理所として、ベルカ商会さんの修理品の扱いは確認しています。新品、修理品、予備品は分けて記録され、強い破損品は除外されています」


 来た。

 来てくれた。


 わたしは、思わず息を吐きそうになった。


 でも、まだ我慢した。


 エルマンさんはベルトンさんへ向き直った。


「ガリオ商会さんの新品も必要です。ただ、現在は品数と価格に変動があります。管理所としては、ベルカ商会さんの修理・回収案も併用します」


 ベルトンさんの表情が、初めてはっきり変わった。


「管理所が、規格外品を認めると?」

「規格外品をそのまま使うわけではありません。修理、確認、用途分けをした上で使います」

「それで問題が出たら?」

「そのための記録です」


 エルマンさんは書類を見せた。


「ベルカ商会さんには、数、用途、確認者、修理先を記録してもらっています」


 ロイが奥で、静かに帳簿を掲げた。

 ベルトンさんはそれを見た。

 見たが、何も言えなかった。


 胸の奥が少し熱くなった。


 積み上げてきた細かい項目。

 増えすぎた帳簿。

 何度も面倒だと思った記録。


 それが、今、盾になっている。


「……なるほど」


 ベルトンさんは、ゆっくり言った。


「ずいぶん丁寧なことで」

「必要ですので」


 ロイが言った。


 まさかのロイだった。


 わたしは横を見た。

 クロードさんも、少しだけロイを見ていた。


 ベルトンさんは笑みを戻そうとした。

 でも、少し遅かった。


「では、ガリオ商会としては、正規品のご相談があればいつでも承ります」

「ありがとうございます。必要な分だけ、相談します」


 ベルトンさんの口元が固まる。


 必要な分だけ。


 その言葉は、今日はこちらの言葉だった。


 ベルトンさんたちは帰っていった。

 店先に残った空気が、ふっと軽くなる。

 わたしは、そこでようやく息を吐いた。


「……勝ちました?」

「勝ってはいない」


 クロードさんが言った。


「今くらいは勝たせてください」

「止めた」


「え?」


「押し込まれるのを止めた」


 それは、勝ちよりもベルカ商会らしい言い方だった。


「じゃあ、止めました」

「ああ」

「今のは何割ですか」

「九割」

「九割!」


 わたしは声を上げた。


「あと一割は?」

「息を止めていた」


「そこまで見ないでください!」


 エルマンさんが小さく笑った。

 ロイも、珍しく少しだけ笑っている。

 トマたちは、店の奥でこっそり手を叩いていた。


「商会主」


 ロイが言った。


「帳簿をつけておいてよかったです」

「本当にそうですね」

「ただし、項目はさらに増えます」

「余韻が短い!」

「必要ですので」


 いつもの言葉だった。

 でも、今日は少し頼もしい。

 エルマンさんが書類を差し出した。


「それと、南区管理所から正式に追加依頼です」

「追加依頼」


 嫌な予感と、少しの期待が同時に来た。


「修理品と新品を分けた小樽管理を、七日間だけ試験運用したいとのことです。西区についても、調査だけなら同じ形式でお願いしたい」


 ロイの帳簿が開く音がした。

 トマたちが「あ」と言った。

 わたしはクロードさんを見た。


「増えましたね」

「増えたな」

「でも、これは」

「仕事だ」


 クロードさんが言った。


「取れ」


 短い。


 でも、背中を押された気がした。


 わたしはエルマンさんに向き直った。


「お受けします。ただし、南区分と西区調査分は、契約と帳簿を分けさせてください」


 言えた。

 今度は震えなかった。


 エルマンさんがうなずく。


「もちろんです」


 ベルカ商会は、大きな商会を倒したわけではない。

 ただ、押し込まれそうになった細い線を守った。

 その線は、南区の正式な仕事になり、西区へ伸びる調査になった。


 太い道だけが、道ではない。


 ベルカ商会の小さな道も、たしかに仕事になり始めていた。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ