表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第三章 サーキュラー・エコノミー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/45

第19話 古い荷車にも仕事があります

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 翌朝。


 ベルカ商会の裏庭には、古椀が並んでいた。

 洗ったもの、削り直すもの、使えないもの。


 それを見て、わたしは思った。


 昨日より、確実に商会らしくない。


「……木椀屋ですか、うちは」

「違う」


 クロードさんは、古椀を見ながら言った。


「では何ですか」

「止めない商会だ」

「急にそれっぽいことを言わないでください」

「事実だ」


 ロイが帳簿を開いた。


「商会主、古椀のうち使えるものが三十二、削り直しが十九、使えないものが十一です」

「使えないものは?」

「売れる」


 クロードさんが言った。


 わたしとロイが同時に見た。


「割れた椀ですよ?」

「火付けに使える」

「ついに割れた椀まで売るんですか!?」

「売るとは言っていない。共同炊事場に回す」

「同じでは?」

「少し違う」

「便利な言葉ですね!」


 トマたちは、古椀を布で拭いている。

 エドは欠けた縁を確認し、ニクスは使えるものを箱に入れていた。

 文句を言いながらも、手は止まらない。

 商会らしくなってきた。


 そう思った瞬間、クロードさんが言った。


「次は荷車だ」

「今、椀の話をしていましたよね?」

「荷車が足りない」

「馬車ではなく?」

「馬車は南区の路地に入らない」


 嫌なほど正しい。


 馬を待てなかった朝、わたしとニクスは手押し荷車で施療院へ行った。


 馬車より遅い。

 でも、細い道を抜けられる。


 あれがなければ間に合わなかった。


「手押し荷車を買うんですか」

「新品は買わない」

「でしょうね」

「古い荷車を直す」

「古椀の次は古荷車ですか」

「使える」

「なんでも使えるって言いますね!」


 その時、店先から声がした。


「ベルカ商会さん、少しいいかい」


 昨日の古い宿の主人だった。


 後ろに、壊れかけた手押し荷車を引いている。


「これ、処分しようと思ってたんだが、いるかい?」


 片方の車輪が傾いていた。


「来ましたね」

「来たな」

「見えてました?」

「少しだけ」

「便利すぎます」

「壊れている」

「そこは見えてます!」


 荷車は古かった。

 板も傷んでいるし、車輪も片方が浮いていて、持ち手も少し割れていた。


 普通なら、買わない。

 でも、最近のベルカ商会は、普通なら買わないものばかり見ている。


 クロードさんがしゃがんだ。

 車輪を回し、軸を見て、荷台を叩く。


「直る」

「本当ですか」

「軸を替えれば動く。荷台は補強。持ち手は布を巻けばいい」

「簡単に言いますね」

「職人に頼む」

「つまり、お金がかかる」

「新品より安い」

「またそれです」


 ロイが帳簿を見た。


「修理費次第です。ただ、使える荷車が一台増えれば、南区の細道用に回せます」


 ロイまで、すぐ用途を考えるようになっている。

 前なら止めていた気がする。

 今は止めない。


 計算する。


「いくらですか」


 わたしが聞くと、宿の主人は手を振った。


「持っていってくれるなら安くするよ。邪魔だったからな」


 クロードさんが言った。


「銅貨八枚」

「安すぎませんか!?」

「壊れている」

「そうですけど!」


 主人は少し考えたあと、うなずいた。


「まあ、処分代が浮くと思えばいいか」


 決まった。


 壊れた荷車を買った。


 また、止まっていたものがベルカ商会へ来た。


「商会主、これ、本当に使うんですか?」


 トマが聞いた。


「直れば使います」

「直らなかったら?」

「部品になる」


 クロードさんが答えた。


「壊れても使うんですか」

「板と車輪は残る」

「もう怖いです!」


 荷車の修理は、南区の桶職人に頼むことになった。

 桶職人なのに荷車も直せるのかと思ったが、クロードさんは当然のように言った。


「木と輪を扱える」

「そういうものですか」

「そういうものだ」


 桶職人の店は、共同炊事場二番の近くにあった。


 木桶、小樽、取っ手、輪金。


 職人の男は、荷車を見るなり顔をしかめた。


「ずいぶん古いな」

「直りますか」

「直るが、安くはないぞ」


 嫌な言葉だ。

 最近よく聞く。


「どれくらいですか」

「軸交換、荷台補強、持ち手の巻き直し。銅貨二十枚」


 買値と合わせて二十八枚。

 新品よりは安い。

 でも、安いとは言い切れない。


「クロードさん」

「なんだ」

「買ってから聞く話でしたか?」

「先に聞いても、たぶん買っていた」

「そういう問題ではありません!」


 職人が少し笑った。


「急ぎか?」

「急ぎです」

「なら、さらに高い」

「ですよね!」


 クロードさんが荷車の車輪を指した。


「急ぎではない」

「え?」

「今日は使わない。明後日まででいい」

「明日ではなく?」

「明日は、今ある荷車で足りる。足りなくなるのは明後日」


 わたしは黙った。


 まただ。

 明後日の話をしている。


「……見えてます?」

「少しな」

「少しで明後日まで言わないでください」


 職人は首をかしげている。


「明後日でいいなら、銅貨十八枚でやる」

「お願いします」


 わたしは即答した。

 少しだけ、早く決められた気がする。


 クロードさんがこちらを見た。


「悪くない」

「何割ですか」

「半分以上」

「伸びませんね」

「まだだ」

「厳しい!」


 荷車を預けると、職人が小樽を指差した。


「そういえば、ベルカ商会は壊れた小樽を回収してるか?」

「しています」

「輪金だけ直せば使えるものがある。捨てる前に持ってこい」


 わたしは目を開いた。


 壊れた小樽。

 今まで、使えないものとして分けていた。


 でも、直せば戻るものがある。


「クロードさん」

「なんだ」

「これも、止まっているものですか」

「そうだ」

「また増えましたね」

「増えたな」

「もう驚きませんからね」

「そうか」


 その時、桶職人が続けた。


「ただし、最近は輪金が高い。北の鍛冶場からの荷が遅れてるらしい。樽も桶も、これから直しにくくなるぞ」


 クロードさんの動きが少し止まった。

 ほんの少しだった。

 でも、わたしは見逃さなかった。


「輪金が?」

「ああ」


 輪金、桶、小樽、荷車の車輪。

 全部、南区配送に関わる。


 嫌な予感がした。


「クロードさん」

「なんだ」

「今、何を考えました?」

「輪金は、上がる」

「どれくらい?」

「まだ、はっきりしない」


 はっきりしない。


 クロードさんにしては珍しい言い方だった。


「でも、上がるんですね」

「ああ」

「買いますか?」

「全部は買わない。ただ、押さえる」

「何を?」

「古い輪金だ」


 わたしは少し黙った。


「また、止まっているものですか」

「そうだ」


 胸が少しざわついた。


 これは、木椀や荷車より大きいかもしれない。

 小樽が直せない、桶が足りない、荷車の車輪も直しにくい。

 配送そのものが詰まる。


「ベルカ商会だけの問題ですか」


 わたしが聞くと、クロードさんは首を振った。


「南区だけでもない」

「え」

「輪金が止まると、桶と樽が止まる。桶と樽が止まると、保存と配送が止まる」

「……大きい話にしないでください」

「大きい話だ」

「否定してください!」


 桶職人が不思議そうに見ている。


 わたしは咳払いした。


「壊れた小樽は、今日の便からこちらに回します。修理できるものを見てください」

「いいぞ。直せるなら直す」

「それと、古い輪金だけでも買い取れますか。こちらで集めます。使えるものがあれば、修理用に回してください」


 職人は腕を組んだ。


「面白いことを言うな。いいぞ。輪金だけでも使えるものはある」


 決まった。


 古い荷車を直す話から、壊れた小樽の修理、古い輪金の回収まで広がった。


 また増えた。


 でも今回は、何かの前触れに見えた。


 ベルカ商会に戻ると、ロイが帳簿を見て固まった。


「商会主」

「はい」

「荷車の修理費が増えました。壊れた小樽の修理予定も増えました。古い輪金の回収項目も増えています」

「はい」

「……南区配送の話でしたよね?」

「そうでした」


 ロイは静かに帳簿を閉じた。


「項目が増えすぎです」

「わたしもそう思います」


 その時、エルマンさんが商会へ来た。


「ベルカ商会さん、少しよろしいですか」

「はい」

「南区管理所で、保存用の小樽が足りなくなるかもしれないという話が出ています。共同炊事場だけでなく、施療院でも必要になりそうで」


 わたしはクロードさんを見た。


 クロードさんは、特に驚いていない。


「……今、その話をしていました」

「そうなのですか?」


 エルマンさんが目を丸くした。


 話が速すぎる。


「確認します。小樽の新規調達だけでなく、壊れた小樽の修理も含めてよろしいですか」

「修理できるのですか?」

「できるものがあります。桶職人に見てもらいます」


 エルマンさんは少し考えたあと、うなずいた。


「それは助かります。新品だけでは数が足りないかもしれません」


 まただ。

 新品だけでは足りない。

 止まっているものを戻す。

 それが次の仕事になろうとしている。


「クロードさん」

「なんだ」

「これ、南区の配送ですよね?」

「今はな」

「今は?」

「次は、修理と回収も仕事になる」


「えぇぇぇぇ!?」


 ベルカ商会は、古い荷車を買った。


 そのついでに、壊れた小樽と古い輪金まで集めることになった。


 そして、南区管理所から保存用の小樽不足を相談されることになった。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ