第18.5話 止まっているものが見える
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最初は、値段だけだった。
豆が上がる、塩が上がる、樽が動く。
そういうものが、少し先に見えた。
次に、足りない場所が見えるようになった。
南区、共同炊事場、施療院、老人寮。
どこで何が足りなくなるのか。
はっきりではない。
だが、前より見える。
そして最近、もう一つ見えるようになってきた。
止まっているものだ。
売れないまま倉庫に残っているもの、使われないまま棚に積まれているもの、捨てるには惜しいが、表には出せないもの。
古い宿の木椀は、それだった。
食堂の欠けた椀も、それだった。
新品の木椀が足りなくなるのは見えていた。
だが、全部を新品で埋める必要はない。
新品を百個買えば、金が止まる。
金が止まれば、豆も塩も動かせない。
豆と塩が止まれば、南区の昼が止まる。
だから、新品だけでは足りない。
止まっているものを探す。
ただし、止まっているものは、そのままでは使えない。
割れているもの、汚れているもの、見た目が悪いもの。
相手が嫌がるものもある。
見えるのは、使えるかもしれないものだけだ。
本当に使えるかは、確かめるしかない。
洗えるか、削れるか、割れが深くないか。
それから、受け取ってもらえるか。
そこは、俺だけでは決められない。
ミリアは、エルマンに言った。
「配布用ではありません。予備です」
あれで決まった。
中古の椀ではなく、予備の椀になった。
最初のころのミリアなら、たぶん古椀を見ただけで止まっていた。
中古ですか。
売るんですか。
怒られませんか。
そう言って、俺を見る。
だが、今日は違った。
エルマンに説明した。配布用ではなく予備だと。洗浄と選別をすると。強い欠けは使わないと。
判断はまだ揺れる。
それでも、止まらなくなった。
悪くない。
そう思った。
口に出すと、たぶん半分くらいしか褒められない。
全部と言うには、まだ早い。
だが、前よりずっと商会主になっている。
同じものでも、使い方で意味が変わる。
俺には、止まっているものが見える。
だが、それを相手に受け取らせるのは俺ではない。
ベルカ商会の名前で話すミリアだ。
ガリオ商会のベルトンは、新品を百個売ろうとした。
それも、間違いではない。
金があり、置き場があり、時間もあるなら、それでいい。
だが、今のベルカ商会には全部はない。
金も足りない、置き場も足りない、人も足りない、馬車も足りない。
だから、必要なものを、必要なだけ。
足りないものを見て、止まっているものを探す。
その間を、ベルカ商会が運ぶ。
たぶん、この力は変わっている。
値段を見るだけではなくなった。
足りない場所が見える。止まっているものが見える。
それをどう流せばいいかも、少しだけ見える。
ただし、全部ではない。
信用は見えない、人の気持ちは見えない、洗った椀を本当に使ってくれるかも、聞くまではわからない。
だから、確認する。
だから、ミリアがいる。
古椀を洗う作業は、面倒だった。
ミリアも、ロイも、トマたちも、文句を言いながら手を動かしていた。
商会らしくなってきた。
そう思った。
言えば、またミリアは全部褒めてくださいと言うかもしれない。
それは、まだ早い。
でも、昼食に出た豆の煮込みはうまかった。
なら、まだここにいる理由はある。
止まっているものは、まだある。
空樽、空箱、半端な布、余った薪、古い荷車。
どれも、今はどこかで邪魔になっている。
だが、別の場所では足りないかもしれない。
まだ、はっきりは見えない。
でも、見えるようになってきている。
ベルカ商会は、たぶん次にそれを拾う。
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