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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第二章 物流を制する者は商業を制する

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第17話 前金は全部使えません

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 ベルカ商会の机に、銀貨が並んでいた。


 南区管理所から受け取った前金だ。


 七日間の正式配送。

 その基本配送料の半分。


 今までのベルカ商会なら、これだけでしばらく息ができる金額だった。


「……多いですね」

「多いな」

「少し安心してもいいですか」

「駄目だ」

「早い!」


 クロードさんは、銀貨を見ても顔を変えなかった。


「前金は儲けじゃない」

「わかっています」

「これから使う金だ」

「わかっています」

「使い方を間違えると、七日目の前に止まる」


「わかりたくありません!」


 ロイが帳簿を開いた。


「商会主、前金を分けます。豆と塩の仕入れ予定額、木椀の追加分、人件費、馬代、倉庫代、予備費です」

「予備費も必要ですか」

「必要です」


 クロードさんとロイが同時に言った。


「二人で言わないでください」

「急な追加が来る」

「回収品も増えます」

「馬が遅れることもある」

「壊れた小樽が混ざることもあります」

「……わかりました。予備費を残します」


 わたしは銀貨を分けた。

 机の上では多く見えたのに、分けると急に心細くなる。


「クロードさん」

「なんだ」

「前金って、手元に来ると増えた気がするのに、分けると消えますね」

「消えていない。役目が決まっただけだ」

「役目が決まると、自由が消えます」

「自由に使う金ではない」

「正論が重いです」


 ロイがうなずいた。


「商会主、残った分は動かさない方がいいです」

「はい。残します」


 自分で言って、少し驚いた。

 前なら、支払いに追われて、残すどころではなかった。

 今は、残すことを考えている。


「悪くない」


 クロードさんが言った。


「今のは褒めました?」

「半分くらいな」

「半分から増えませんね」

「まだ早い」

「厳しい!」


 その時、トマが店先から顔を出した。


「商会主、外に木椀屋が来ています」

「木椀屋?」

「はい。ベルカ商会が木椀を買ってるって聞いたらしくて」


 早い。

 話が回るのが早すぎる。

 外へ出ると、荷車を引いた男が頭を下げた。


「ベルカ商会さんだね。木椀、必要なんだろ? 少し安くするから、まとめて買ってくれないか」


 今までなら、こちらから探しに行っていた。

 でも、今は向こうから来ている。

 仕事が増えると、人も物も集まってくる。

 それは便利なようで、少し怖い。


「見せてください」


 わたしが言うと、木椀屋は嬉しそうに荷を下ろした。

 きれいなものもあれば、少し薄いものや、縁が荒いものもある。

 クロードさんが木椀を一つ持った。

 すぐに戻す。


「全部は買うな」

「え」

「半分でいい」


 木椀屋の顔が少し変わった。


「全部じゃ駄目かい? 安くするよ」


 安い。


 その言葉は強い。

 でも、今朝分けた前金を思い出した。

 自由に使える金ではない。


「半分なら買います」


 わたしは言った。


「残りは、明日の注文を見て相談します」

「全部持ってきたんだけどな」

「全部は買えません」


 自分でも、はっきり言えたことに驚いた。


 木椀屋は少し渋ったが、結局うなずいた。


 代金を払う。


 銀貨がまた減る。

 でも、全部ではない。


「なぜ半分なんですか」


 木椀屋が帰ったあと、わたしは聞いた。


「質が混ざっていた」

「見ただけで?」

「割れやすいものがある」

「それも見えるんですか?」

「見ればわかる」

「見れば、の範囲が広すぎます」


 クロードさんは、何でもないように言った。


「必要なものを、必要なだけ買う」

「全部買えば安心、ではないんですね」

「安心のために買いすぎると、次に動けなくなる」


 前金をもらったばかりなのに、もう次に動けなくなる話をしている。

 でも、それが商売なのだろう。


 ロイが木椀を確認しながら言った。


「商会主、買った分は老人寮と共同炊事場向けに分けます」

「お願いします。割れやすそうなものは?」

「予備にします」


 予備。


 今日、何度も出てくる言葉だ。

 余らせるのではなく、止まらないために残す。

 少しだけ、意味がわかってきた。


 昼過ぎ。

 南区便が戻ってきた。

 老人寮から木椀の追加。共同炊事場から塩の追加。施療院から空樽回収の増加。

 全部、想定内ではない。

 でも、慌てなかった。

 追加は追加、当日分は割増、回収は数で計算。

 決めておくと、迷いが減る。


「商会主」


 ロイが夕方の帳簿を広げた。


「七日間の予定表ができました」


 南区管理所分、各施設の追加分、回収品、木椀の在庫、馬と御者の予定。


 紙いっぱいに文字が並んでいる。

 読むだけで疲れる。


 でも、朝よりは怖くなかった。


「七日間は回せます」

「本当ですか」

「はい。ただし、問題があります」

「やっぱりありますか」

「八日目以降です」


 わたしは固まった。


「七日間の話をしていたのでは?」

「七日間がうまくいくと、八日目も依頼される可能性があります」

「未来の問題まで来ました」


 クロードさんが言った。


「次は継続契約だな」

「まだ七日間も始まったばかりです!」

「始まった時点で、次を考える」

「考えたくありません!」


 その時、店の外から声が聞こえた。


「ベルカ商会さん」


 低い男の声だった。


 さっきの木椀屋ではない。

 外へ出ると、身なりのいい男が立っていた。


 その隣に、ダリオがいる。

 嫌な組み合わせだった。


「南区に椀を流しているのは、うちでしてね」


 男は薄く笑った。


「ベルカ商会さん。ずいぶん、南区に入り込んでいるようですね」


 わたしは背筋を伸ばした。


「ベルカ商会のミリアです」

「ガリオ商会のベルトンです」


 ガリオ商会。


 木製品や安い食器を扱う、中堅の商会だ。

 ダリオが横で笑っていた。


「木椀を買うなら、相手は選んだ方がいいぜ」


 ベルトンは、ゆっくりと店の中を見た。

 机の上には、七日間の予定表がある。

 前金の残りも、帳簿もある。

 見られたくないものが多すぎる。


「南区で商売をするなら、仕入れ先とも仲良くした方がいい」


 言葉は丁寧だった。

 でも、声はまったく優しくなかった。


 クロードさんが、わたしの横に立った。


「来たな」

「来たな、じゃありません」


 わたしは小声で返した。


「次の問題ですか」

「そうだ」

「七日間の心配をしていたら、仕入れ先の心配が来ました」

「仕事が大きくなったからな」

「大きくなると、敵も増えるんですか」

「増える」


「そこは否定してください!」


 ベルトンが、薄く笑った。


 ベルカ商会は、七日分の前金を守った。


 同時に、南区へ物を流す商人たちに名前を覚えられてしまった。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

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