第16話 七日分は多すぎます
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翌朝。
ベルカ商会の机には、南区管理所からの正式依頼書が置かれていた。
七日間。
共同炊事場、施療院、老人寮、簡易宿。
豆、塩、木椀、小樽、空樽回収。追加分は前日夕方までに相談。
読むだけで、胃が重くなる。
「……七日分って、多いですね」
「多いな」
「三日でも大変だったんですよ?」
「だから七日になった」
「成功すると増える理屈、そろそろ嫌いになりそうです」
ロイが帳簿を開いた。
「商会主、正式依頼として受けるなら、支払い条件を決める必要があります」
「支払い条件?」
「七日分を全部後払いにすると、こちらの資金が持ちません」
わたしは固まった。
仕事が増える。
売上も増える。
でも、代金が後で入るなら、その前に仕入れ代を払わないといけない。
「前金をお願いできますか」
「できます。ただし、相手は管理所です。条件をきちんと出す必要があります」
きちんと。
その言葉が重い。
今までのベルカ商会は、頼まれた仕事を必死に受けていた。
でも、今回は違う。
こちらから条件を出さなければならない。
「クロードさん」
「なんだ」
「こういう時、どうすればいいんですか」
「全部同じ条件で受けるな」
「え」
「七日分をまとめて受けると危ない」
「でも、正式依頼ですよ」
「だから危ない」
クロードさんは依頼書を指した。
「量が変わる。時刻も変わる。追加も出る。回収品も増える」
「はい」
「なら、固定する部分と、変わる部分を分ける」
「固定と、変わる部分」
「基本配送料、商品代、追加料金、回収料金、急ぎ料金」
急に商会っぽい言葉が並んだ。
「……これ、うちが出していいんですか」
「出さないと潰れる」
「言い方が怖いです」
「潰れる方が怖い」
「それはそうですけど!」
ロイがすぐに書き取り始めた。
「基本配送料は七日分で固定。商品代は実数。追加分は前日夕方までなら通常、当日追加は割増。回収品は数で計算」
「ロイ、早いですね」
「必要ですので」
「本当に強くなりましたね」
「必要ですので」
同じ返しだった。
少しクロードさんに似てきている。
「では、管理所に条件を出します」
わたしは言った。
「商会主が?」
「はい。ベルカ商会の仕事ですから」
言ってから、少しだけ背筋が伸びた。
こちらには実績がある。
三日間、遅れなかった。
馬を止められても、配送を止めなかった。
それを材料にできる。
「木椀はどうする」
クロードさんが言った。
「まだ頼まれていません」
「頼まれる」
「またですか」
「基本依頼には入れない方がいい」
「え?」
「増え方が読みにくい。管理所分に混ぜると危ない」
わたしは少し考えた。
「木椀は追加商品として扱います。管理所の基本依頼には入れず、各施設からの注文で出します」
「いい」
「また合ってますか」
「ああ」
「怖いです」
「慣れろ」
「慣れません」
南区管理所へ向かう前に、荷積みを確認した。
トマ、エド、ニクスはもう慣れた様子で動いている。
豆と塩。
木椀は少量だけ。
空樽回収用の縄。
小樽は施療院分。
「トマ、今日は管理所へ寄ってから共同炊事場です」
「はい!」
「エド、老人寮の木椀は聞かれるまで出さないでください」
「了解です」
「ニクス、回収品は使えるものと壊れているものを分けます」
「昨日と同じですね」
「はい。ただし、数は増えます」
「増えるんですね」
「増えます」
言ってから、自分で少し笑いそうになった。
最近、増えることに驚く前に、先に言うようになってきた。
南区管理所では、ガレム副管理官とエルマンさんが待っていた。
「ベルカ商会さん。昨日はよい対応でした」
「ありがとうございます」
「では、七日間の正式配送について話したい」
わたしはうなずいた。
帳簿を開く。
「お受けします。ただし、条件を分けさせてください」
ガレムさんの眉が少し動いた。
「条件?」
「はい。基本配送料は七日分で固定。豆や塩などの商品代は実数。前日夕方までの追加は通常扱い。当日追加は割増。空樽や空箱の回収は数で計算します」
言えた。
途中で詰まらなかった。
ロイが隣で小さくうなずいている。
クロードさんは何も言わない。
それが少し心強かった。
「理由を聞いても?」
「七日間ですと、日によって必要量が変わります。全部を固定にすると、足りない時も、余った時も、どちらかが損をします」
「なるほど」
「追加分の扱いを決めておけば、急な依頼にも対応できます。ただし、当日追加は人手と馬車の予定を変えるので、割増にさせてください」
ガレムさんはエルマンさんを見た。
エルマンさんは書類に何かを書き込んでいる。
「しっかりしているな」
「ありがとうございます」
「では、その条件で七日間依頼したい。支払いは?」
ここだ。
わたしは帳簿を握った。
「基本配送料の半分を前金でお願いします。残りは三日後に一度精算、七日目に最終精算で」
言えた。
言えてしまった。
ガレムさんは少し考えた。
「よいだろう」
決まった。
七日間の正式依頼。
しかも、前金付き。
わたしは頭を下げた。
「ありがとうございます」
管理所を出たあと、足が少し震えた。
「クロードさん」
「なんだ」
「今の、通りました」
「通ったな」
「前金も」
「取れたな」
「……少し、商会主っぽかったですか」
「ああ」
「本当ですか」
「半分以上だ」
「全部ください!」
「まだ早い」
「厳しい!」
でも、少し笑えた。
正式依頼が決まった。
七日間。
前金付き。
ベルカ商会は、もう頼まれた仕事をそのまま受けるだけではない。
条件を出して、仕事を受ける商会になり始めている。
そう思うと、怖いのに、少しだけ背筋が伸びた。
ただし、ひとつ問題があった。
七日分の仕事は、七日分の仕入れを意味していた。
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