表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第二章 物流を制する者は商業を制する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/45

第15話 馬を止められても運びます

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 南区試験配送、三日目。


 ベルカ商会の前には、荷物がいつもより早く並んでいた。


 豆、塩、小樽、木椀。

 回収用の縄と、空箱を積むための隙間。


 昨日のうちに分けておいたものだ。


「……準備が早いですね」

「早くした」


 クロードさんは当然のように答えた。


「なぜですか」

「今日は遅れる」

「朝から不吉なことを言わないでください!」

「遅れても間に合わせる」

「さらに不吉です!」


 ロイは帳簿を開いている。


「商会主、本日の配送は、共同炊事場三か所、施療院、老人寮、簡易宿です。食堂組合分は一台目で先に出せます」

「二台目は?」

「馬と御者待ちです」


 わたしは東門の方を見た。


 借りている馬と御者が来る時間は過ぎている。


 まだ来ない。


 そこへ、ダリオが歩いてきた。


 馬も御者も連れていない。


「おはよう、ベルカ商会」


 嫌な笑い方だった。


「おはようございます。馬と御者は?」

「ああ、それなんだけどさ。馬の足を確認してる。南区は道が悪いからな。無理に出して馬を痛めたら困るだろ?」


 やっぱり。


「契約では、今朝から使えるはずです」

「馬を壊していいとは書いてないだろ?」

「それはそうですが」

「御者もまだ支度中だ。まあ、半刻くらい待てば出せるんじゃないか?」


 半刻。


 南区管理所の確認が入る日に、それは致命的だった。


 ダリオは、こちらの反応を楽しむように笑っている。


「馬がなきゃ、定期便は無理だろ?」

「もう出す」


 クロードさんが言った。


 ダリオの笑いが止まった。


「は?」

「一台目を出せ」

「食堂組合分では?」


 わたしが聞くと、クロードさんは荷札を指した。


「食堂組合分は半分だけ一台目。残りは昼前でも間に合う。共同炊事場一番と二番を先に積め」

「南区分を一台目に?」

「昨日、分けておいた」

「いつの間に!?」

「昨日の夕方」

「言ってください!」

「今言った」

「遅いです!」


 でも、迷っている時間はなかった。


 わたしは帳簿を開き直した。


「トマ、共同炊事場一番と二番の豆と塩を一台目へ。エド、食堂組合分は急ぎの半分だけ積んでください。ニクス、木椀は小分けにして手押し荷車へ」

「はい!」


 三人が一斉に動いた。


 ロイがすぐに帳簿を書き換える。


「商会主、施療院分は?」

「手押し荷車で先に出します。小樽と塩だけなら運べます」

「老人寮は?」

「木椀だけ先に。豆は二台目が来たら追いかけます」


 言ってから、自分で少し驚いた。


 考える前に、指示が出た。


 クロードさんが小さくうなずく。


「悪くない」

「今は褒められても反応できません!」


 ダリオが眉を寄せた。


「待てよ。馬なしで南区を回る気か?」

「全部は回りません」


 わたしは答えた。


「遅れたら困る分から先に出します」

「そんなつぎはぎで回るわけないだろ」

「回します」


 言い切った。


 怖かった。


 でも、言ってしまった。


 ダリオの笑みが少し消えた。


「出発します!」


 一台目の馬車が動いた。


 トマとエドが乗る。

 わたしも乗ろうとしたが、クロードさんに止められた。


「君は手押しだ」

「商会主が手押し荷車ですか!?」

「施療院は君が行った方が早い」

「なぜですか」

「信用されている」


 言い返せなかった。


 わたしは小樽と塩を積んだ手押し荷車の横に立った。


 ニクスが押し手につく。


「行けます、商会主」

「行きます」


 ベルカ商会は、二方向に分かれて動き出した。

 一台目は共同炊事場へ。

 わたしとニクスは施療院へ。

 クロードさんは倉庫に残った。


「あなたは来ないんですか!」

「二台目が来たら動かす」

「ずるい!」

「必要だ」

「わかってますけど!」


 施療院までは、馬車より早くはない。

 でも、手押し荷車なら細い道を抜けられる。

 ニクスは思ったより足が速かった。

 施療院に着くと、管理人が驚いた顔をした。


「馬車はどうした?」

「少し遅れています。先に必要な分を持ってきました」

「小樽と塩か。助かる。これがないと仕込みが止まるところだった」


 間に合った。


「豆は追って届けます」

「わかった。先にこれだけでもありがたい」


 施療院、遅れなし。


 その頃、一台目は共同炊事場一番と二番を回っていた。

 戻ってきたトマが、息を切らして報告した。


「一番、二番、時間内です! 食堂組合の半分も下ろしました!」

「残りは?」

「昼前で間に合います!」


 そこへ、ようやく二台目の馬と御者が来た。


 予定よりかなり遅い。


 ダリオも一緒だった。


「悪い悪い。確認に時間がかかってね」


 まったく悪いと思っていない顔だった。


 ダリオは、商会の前に残った荷を見て眉をひそめた。


「……もう減ってるな」

「出しましたから」


 わたしは答えた。


「共同炊事場一番と二番、施療院は時間内です」

「馬がないのに?」

「一台目と手押しで」


 ダリオの顔から、少しだけ余裕が消えた。


 クロードさんが二台目の荷台を指した。


「残りを積む。共同炊事場三番、老人寮、簡易宿。帰りに施療院の空樽を回収する」

「はい」


 わたしはすぐに指示を出した。


「トマ、豆を奥に。エド、塩は取り出しやすく。ニクス、木椀は老人寮で十個、残りは聞かれるまで出さないでください」


「はい!」


 御者が驚いたようにわたしを見た。


「ずいぶん慣れてるな」

「慣れないと間に合いません」


 二台目が出発した。


 今度はわたしも乗る。


 クロードさんも乗った。


「さっき、来ませんでしたよね」

「必要なかった」

「必要でした!」

「君が間に合わせた」


 その一言で、少し黙った。


「……そうですか」

「ああ」

「では、あとでちゃんと褒めてください」

「半分くらいな」


「全部ください!」


 共同炊事場三番には、予定より少し早く着いた。


 エルマンさんが待っていた。


「馬が遅れたと聞きましたが」

「先に必要な分を分けて出しました」

「では、一番と二番は?」

「時間内です。施療院も先に届けました」


 エルマンさんは目を見開いた。


「そうですか」


 その声は、少しだけ変わっていた。


 三番の納品も終える。

 老人寮では、木椀を十個出した。

 簡易宿では、塩を少し増やした。


 これも時間内。


 最後に施療院へ戻り、空樽を回収した。

 遅れて出たはずなのに、帰りの便まで成立している。


「クロードさん」

「なんだ」

「これ、最初から二台目が遅れる前提でした?」

「遅れる可能性は高かった」

「なぜですか」

「ダリオは嫌がっていた」

「性格の問題ですか」

「性格も、商売の条件だ」

「嫌な条件ですね」


 ベルカ商会に戻ると、店の前にガレム副管理官がいた。

 隣にはエルマンさんもいる。

 ダリオもいた。


 わたしは荷台から降りた。


 足が少し震えていた。


「本日の配送、確認しました」


 ガレムさんが言った。


「共同炊事場三か所、施療院、老人寮、簡易宿。すべて時間内です」


 ダリオの顔が固まった。


「……全部?」


 ガレムさんは、ダリオを見ずに続けた。


「馬の到着が遅れたと聞きましたが、それでも遅れなかった。よい対応でした」


 よい対応。

 その言葉で、胸の奥が熱くなった。


「ありがとうございます」


 ダリオが小さく舌打ちした。


「運がよかっただけだろ」


 クロードさんが言った。


「準備だ」

「……何?」

「遅れる前提で分けた。運ではない」


 ダリオは言い返せなかった。


 ガレムさんは書類を取り出した。


「三日間の試験配送は、十分な結果でした。南区管理所として、七日間の配送を正式に依頼したい」


 七日間。

 正式に。

 わたしは一瞬、言葉が出なかった。


「受けます」


 声は、思ったより落ち着いていた。


「ただし、条件を確認させてください。量、時刻、支払い、回収品、追加分の扱い。今日中にまとめます」


 ガレムさんはうなずいた。


「それで構いません」


 決まった。

 決まってしまった。


 ダリオの嫌味を受けても、馬を遅らされても、配送は止まらなかった。


 むしろ、仕事は正式になった。


「クロードさん」

「なんだ」

「妨害されたのに、仕事が増えました」

「守ったからな」

「守ると増えるんですか」

「信用が増える」

「また大きい話です!」


 クロードさんは、少しだけ笑った。


「今回は、君が回した」


 わたしは口を閉じた。


 そう言われると、反応に困る。


 でも、悪い気はしなかった。


「……では、夕食は少し良くします」

「重要だな」

「そこは本当に重要なんですね」

「重要だ」


 ロイが帳簿を開いた。


「商会主、七日間分の予定を組み直します」

「はい」

「人手が足りません」

「はい」

「馬車も足りません」

「はい」

「置き場も足りません」

「はい……」


 わたしは目を閉じた。


 勝った。


 たしかに、今日は勝った。


 でも、勝ったぶんだけ、また足りないものが増えている。


「えぇぇぇぇ!?」


 ベルカ商会は、馬を止められても配送を止めなかった。


 その結果、南区管理所から七日間の正式依頼を受けることになった。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ