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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第二章 物流を制する者は商業を制する

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17/45

第14話 南区全体はまだ早いです

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 翌朝。


 ベルカ商会の机には、南区管理所から預かった書類が置かれていた。


 共同炊事場三か所、老人寮、夜間の簡易宿。

 豆、塩、小樽、空樽回収。納品時刻、支払い間隔、担当者名。


 読むだけで、少し疲れる。


「……南区全体って、広いですね」

「広いな」

「これ、本当にうちで受ける話ですか?」

「受ける前に試す」

「試す量が大きいんです!」


 クロードさんは書類を見ていた。


 豆の数、塩の量、空樽の回収数。

 それから、納品時刻。


「木椀を押さえる」

「木椀?」

「足りなくなる」

「頼まれていません」

「明日頼まれる」

「明日!?」

「共同炊事場が三か所になる。椀が足りない」


 まただ。

 まだ起きていないことを、当然のように言う。


「豆と塩と小樽だけでも手いっぱいです」

「だから今日押さえる」

「増やさないでください!」

「増える前に押さえる」

「言い方を変えても増えています!」


 ロイが帳簿を開いた。


「商会主、木椀を買う資金はあります。ただし、今日の仕入れ分を払うと余裕は少なくなります」

「余裕は最初から少ないです」

「はい」

「そこは否定してください」

「否定できません」


 わたしは書類と帳簿を見比べた。


 南区管理所の試験配送。


 成功すれば、ベルカ商会は南区全体の食材配送を任されるかもしれない。

 でも、失敗すれば、南区で広く名前が落ちる。

 急に大きい。


「まず、今日の分を確実に回します」


 わたしは言った。


「木椀は?」

「少量だけ押さえます。売り込みはしません。聞かれたら出せるようにします」

「いい」

「今の、合ってますか」

「合っている」

「褒められると、もっと怖いです」

「慣れろ」

「慣れたくありません」


 トマたちが荷を積み始めた。


 豆と塩を分ける。

 小樽を奥へ寄せる。

 回収する空樽を積む場所を空けておく。


 昨日より、ずっと速い。


「トマ、共同炊事場一番と二番は先に」

「はい!」

「エド、施療院の小樽は取り出しやすいところへ」

「了解です」

「ニクス、空樽用の縄を忘れないでください」

「持ってます!」


 自分で指示を出してから、少し驚いた。

 昨日より、言葉が先に出る。

 クロードさんが荷台を見て言った。


「悪くない」

「倉庫でも馬車でもなく、今度はわたし向けですか?」

「ああ」

「……ありがとうございます」

「半分くらいな」


「全部ください!」


 馬車が出る直前、ダリオが来た。


 本当に、嫌なところで来る。


「今日はまた増えたな」

「おはようございます」

「老人寮に簡易宿まで回るって聞いたぞ。南区の雑用係にでもなるつもりか?」


 わたしは一瞬だけ黙った。


 でも、言い返す前に、共同炊事場の女性がこちらに歩いてきた。


「雑用じゃないよ。この人たちが時間通りに来るから、昼の支度が間に合うんだ」


 ダリオの顔が少し固まった。


 さらに施療院の管理人も、通りの向こうから言った。


「空樽の回収も助かっている。置き場が空いた」


 こちらが言い返す前に、相手が言ってくれた。


 ダリオは小さく舌打ちした。


「まあ、せいぜい続けることだな」


 そう言って去っていく。


 嫌な感じは残った。

 でも、昨日よりずっと小さかった。


「クロードさん」

「なんだ」

「今の、少し嬉しかったです」

「信用だな」

「はい」

「俺には見えないものだ」

「え?」

「何でもない」

「今、聞き流しにくいことを言いましたよね?」

「出すぞ」

「ごまかしましたね!」


 南区便が出発した。


 今日はわたしが二台目を仕切る。


 共同炊事場一番と二番は、予定通りに終わった。


 施療院では、空樽がまた増えていた。


「今日は八つだ」

「回収します。ただし、帰りに寄ります」

「助かる」


 言えた。

 自然に言えた。


 次は共同炊事場三番。


 少し遅い時間でも間に合う。

 昨日確認したからわかる。


 いや、確認したのはクロードさんだ。

 でも、今日の順番を組んだのはわたしだ。


 三番に着くと、エルマンさんが待っていた。


「時間通りです」

「ありがとうございます」

「今日は、老人寮にもお願いできますか」

「量は?」

「豆二袋、塩少し。明日は三袋になるかもしれません」


 また増える。

 でも、今回は驚きすぎない。


「今日分は運べます。明日分は夕方までに返事をします」

「助かります」


 老人寮は、三番から近かった。


 小さな建物の前で、年配の女性たちが待っている。


「ベルカ商会さん?」

「はい。豆と塩をお持ちしました」

「助かったよ。買いに行くのも大変でね」


 豆袋を下ろすと、女性の一人が荷台を見た。


「あら、椀もあるの?」


 わたしは固まった。


 荷台の奥に、今朝少量だけ押さえた木椀がある。


「あります。少量ですが」

「三十ほど分けてもらえる?」


 三十。


 少量どころではない。


 わたしはクロードさんを見そうになって、やめた。


 ここは、わたしが決める。


「十なら今お渡しできます。残りは明日確認してお持ちします」

「それで助かるよ」


 木椀、十個。

 売れた。

 頼まれる前に押さえたものが、本当に必要になった。


「クロードさん」

「なんだ」

「木椀、売れました」

「そうだな」

「本当に明日、足りなくなるんですか」

「たぶん」

「その、たぶんが怖いです」

「確認すればいい」

「また後から説明する気ですね」

「今、わかっただろ」

「少しだけです!」


 夜間の簡易宿では、豆より塩が必要だった。

 安い汁物を出すので、塩の減りが早いらしい。


「明日は少し増やしてくれ。人が増えてる」


 また増える。

 でも、帳簿に書く手は止まらなかった。


 南区を一通り回り終える頃には、荷台はほとんど空になっていた。

 代わりに、空樽と空箱が積まれている。

 行きも帰りも、馬車が働いている。

 それが少し気持ちよかった。


 ベルカ商会に戻ると、ロイがすぐに数字をまとめた。


「本日の南区便、売上は昨日より増えています。回収品も増えています」

「支払いは?」

「増えています」

「やっぱり」

「木椀の追加仕入れが必要です」

「やっぱり!」


 クロードさんが言った。


「今日のうちに押さえる」

「また今日ですか」

「明日だと上がる」

「なぜですか」

「今日、老人寮が買った。明日、共同炊事場も気づく」

「気づく前に買うんですね」

「そうだ」


 わたしは帳簿を閉じた。


「ロイ、木椀の仕入れ予算を出してください。多すぎない量で」

「はい」

「トマたちは、空樽と空箱を分けてください。使えるものと壊れているものに」

「はい!」


 指示が出る。

 人が動く。


 クロードさんが少しだけうなずいた。


「速くなったな」

「本当に?」

「ああ」

「……嬉しいです」

「ただし、次は仕入れ先だ」

「余韻をください!」


 その時、エルマンさんが再び商会に来た。

 今日は一人ではなかった。


「ミリアさん。南区管理所の副管理官、ガレムです」


 わたしはすぐに頭を下げた。


「ベルカ商会のミリアです」


 ガレムさんは、倉庫の中と馬車を見た。


「二日続けて、時間内だったと聞いている」

「はい」

「共同炊事場、施療院、老人寮、簡易宿。小口だが、南区には必要な配送だ」

「はい」

「三日目の結果を見て、管理所として正式に話をしたい」


 正式に。


 その言葉に、倉庫の中が静かになった。


「南区の食材配送を、一定期間まとめて任せられるか」


 わたしは息を止めた。


 昨日は相談だった。

 今日は、正式な話になりかけている。


「クロードさん」

「なんだ」

「これ、明日成功したら、どうなりますか」

「南区の仕事になる」

「南区の、仕事」

「そうだ」

「うち、貧乏商会ですよね?」

「昨日まではな」


「えぇぇぇぇ!?」


 ベルカ商会は、南区の小口配送を回していたはずだった。


 気づけば、南区管理所から正式な仕事を持ちかけられていた。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

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