第13.5話 足りないものが見える
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最初は、相場だけだった。
豆がいくらになるか。
樽がいつ上がるか。
塩が何日後に動くか。
商品を見ると、少し先の値段がわかった。
便利ではあった。
ただし、それだけだった。
値段が上がるとわかっても、買えなければ意味がない。
買えても、運べなければ意味がない。
運べても、売る相手に信用されなければ意味がない。
一人でできることには限界があった。
ベルカ商会に来てから、見え方が少し変わった。
豆袋を見る。
以前なら、値段だけが浮かんだ。
今は、足りない場所もぼんやりわかる。
食堂組合、南区、共同炊事場、施療院。
はっきりした地図のように見えるわけではない。
ただ、どこで足りなくなるか。
いつ必要になるか。
どのくらい急ぐか。
そういうものが、前よりわかるようになってきた。
共同炊事場の三番は、昼が遅い。
それも、先にわかっていた。
正確には、豆と塩が必要になる時間が、一番や二番より少し後ろにずれていた。
だが、見えたからといって、そのまま決めるわけにはいかない。
鍋を出す時間。
人数。
支払いの間隔。
どこまで馬車が入れるか。
それは、現場で聞かないとわからない。
だから、昨日聞いた。
ミリアはたぶん、俺が聞いたから知っていたと思っている。
間違いではない。
ただ、順番が少し違う。
見えていたから、聞いた。
確かめるために、聞いた。
相場が見えても、確認を飛ばせば商売は失敗する。
不足が見えても、信用がなければ売れない。
需要が見えても、馬車がなければ運べない。
供給が見えても、倉庫がなければ置けない。
だから、ベルカ商会がいる。
だから、ミリアがいる。
南区管理所のエルマンは、俺ではなくミリアに話しかけた。
それでいい。
俺には、足りないものが見える。
ミリアには、相手が話してくれる。
どちらか片方では、大きな仕事にはならない。
南区の共同炊事場三か所分。
あれは、ただ豆を運んだだけではない。
時間通りに届いた。
空樽も回収した。
必要な相手が、次の必要を話してくれた。
だから、次の依頼になった。
小口を集める側から、まとめて任される側へ。
段が上がった。
ただし、楽になったわけではない。
足りないものは、さらに増える。
豆、塩、小樽、木椀、人、馬車、倉庫。
この力が、なぜ変わっているのかはわからない。
商会で荷を動かしているからか。
実際に売って、運んで、受け取る相手を見ているからか。
理由はまだわからない。
ただ、使えるなら使う。
明日は、南区管理所の試験配送が続く。
ミリアはまた驚くだろう。
ロイは帳簿を開くだろう。
トマたちは荷を運ぶだろう。
俺は、足りないものを見る。
そして、足りるように動かす。
ただし、ミリアにはまだ言わない。
言ったところで、たぶん怒る。
「先に言ってください!」
そう言うに決まっている。
だから、先に結果を出す。
説明は、その後でいい。
それに、ベルカ商会の昼食はうまい。
最初は、それで足が止まった。
今も、その理由はそれほど小さくなっていない。
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