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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第一章 貧乏商会は立ち上がる

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第8話 倉庫を見るだけです

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 翌朝。


 ベルカ商会の前に、トマ、エド、ニクスが立っていた。

 三人とも、昨日雇った荷運びだ。


「おはようございます」

「今日も仕事、ありますよね?」

「あります」

「食事付きですよね?」

「あります」


 三人はそろってうなずいた。

 なぜ、そこを一番確認するのだろう。


「商会主」


 ロイが帳簿を持ってきた。


「昨日の食堂組合分、代金はすべて確認済みです」

「よかったです」

「ただし、本日の納品準備、北の村への追加発注、塩屋への支払い、小樽の残り六個の受け取りがあります」

「よくないです」


 仕事が増えている。

 売上も増えた。

 信用も増えた。

 そして、やることも増えた。


「クロードさんは?」

「倉庫の裏です」

「倉庫の裏?」


 嫌な予感がした。

 わたしは急いで倉庫の裏へ回った。

 クロードさんは、古い扉の前に立っていた。

 隣の空き倉庫だ。

 以前は布商人が使っていたらしい。


「何をしているんですか」

「見ている」

「何をですか」

「倉庫」

「借りませんよ」

「まだ何も言っていない」

「見ている時点で、もう半分借りるつもりですよね」

「便利そうだ」

「やっぱり!」


 わたしは扉の前に立った。


「うちは、昨日ようやく人を増やしたばかりです。今日から倉庫まで増やしたら、固定費が増えます」

「増える」

「認めるならやめてください」

「でも、必要だ」

「またそれですか」


 クロードさんは、扉の隙間から中を見た。


「ここなら豆と小樽を分けて置ける。今の倉庫だけだと、納品分と余剰分が混ざる」

「混ざらないように整理します」

「人が増える。荷も増える。急ぎの納品も増える。混ざる」

「言い切らないでください」

「昨日も袋がずれた」


 言い返せなかった。

 確かに、昨日は帰り道で荷を分け直した。

 倉庫でそれが起きたら、納品ミスになる。


「でも、借りるお金は?」

「交渉する」

「誰が?」

「君が」

「またわたしですか!」

「この倉庫の持ち主は誰だ?」

「たしか、東通りのナザルさんです」

「知り合いか」

「父の代から少し」

「なら君がいい」


 まただ。

 クロードさんは、相手の信用が必要なところではわたしを出す。

 怖いくらい見ている。


「……見るだけですよ」

「見るだけだ」

「借りるとは言っていません」

「今はな」

「今は、を付けないでください!」


 わたしはナザルさんの店へ向かった。

 ロイも同行する。

 クロードさんも当然のようについてくる。


 途中、市場を通った。

 クロードさんは、歩きながら品物を見ている。

 長くは見ない。


 豆の袋を見る。

 塩の値札を見る。

 小樽の積み方を見る。


 それだけで、何かを決めている。


「何を見ているんですか」

「値段」

「値札ですか?」

「今の値段と、次の値段」

「次の値段?」

「上がるものと、上がりすぎたもの」

「上がりすぎたものも見るんですか」

「ああ。買わないために見る」


 買うものだけを見るのではない。

 買わないものも見ている。


「全部買えば儲かるわけではないんですね」

「金も馬車も倉庫も足りない」

「全部足りないですね」

「だから順番を決める」


 順番。


 金を使う順番。

 荷を運ぶ順番。

 相手に話す順番。


 クロードさんの商売は、当てるだけではないらしい。


 ナザルさんの店に着くと、年配の男が奥から出てきた。


「おや、ミリアちゃんじゃないか」

「お久しぶりです、ナザルさん」

「ベルカ商会が忙しくなったと聞いたぞ。先代も喜ぶだろう」

「ありがとうございます」


 父の話が出るたびに、少し背筋が伸びる。


「それで、今日は何の用だい」

「隣の空き倉庫について、お話を伺いたくて」


 ナザルさんの眉が上がった。


「借りたいのかい?」

「まだ検討です」


 横でクロードさんが小さく言った。


「借りたい」

「クロードさん」

「検討している時間がもったいない」

「交渉中です!」


 ナザルさんは笑った。


「面白い人を連れているね」

「すみません」

「いや、いい。倉庫は空いている。だが、あそこは少し傷んでいるよ」

「だから安い」


 クロードさんが言った。

 ナザルさんが彼を見る。


「君は?」

「クロード。ベルカ商会の居候だ」

「居候?」

「昼食付きだ」

「説明が足りません!」


 わたしは慌てて説明した。


「今、商売を手伝っていただいている方です」

「なるほど」


 ナザルさんは少し楽しそうだった。


「家賃は月に銀貨三枚。ただ、半年契約が条件だ」

「半年……」


 重い。

 今のベルカ商会に、半年分の固定費は怖い。

 クロードさんは即答しなかった。

 珍しい。


「床は?」

「奥が少し沈んでいる」

「雨漏りは?」

「右奥に少し」

「鍵は?」

「古いが使える」

「荷の出し入れは?」

「表通りから一本入る。やりやすいよ」


 クロードさんは少し考えた。


「一か月だけ借りたい」

「それは難しいね」


 ナザルさんは首を振った。


「短期で貸すと、次の借り手を探す手間が増える」

「では、一か月分を先払い。傷んだ床はこちらで直す。修繕分は家賃から引かない」


 わたしは驚いた。


「修繕するんですか?」

「荷を置くなら必要だ」

「お金がかかります」

「床が抜ける方が高い」


 また正論だった。

 ナザルさんは腕を組んだ。


「床を直してくれるのか」

「簡単な板張りでいい。こちらでやる」

「ふむ」


 わたしは、ここでやっと気づいた。

 クロードさんは、ただ安くしろとは言っていない。

 ナザルさんが嫌がる理由を減らしている。


 短期で貸すのが面倒。

 傷んだ倉庫を見られると借り手がつきにくい。

 修繕には手間がかかる。


 そこを、こちらが引き受ける。


「……ナザルさん」


 わたしは口を開いた。


「ベルカ商会は、今後も食堂組合への納品を続けます。荷の出入りは増えますが、荒くは使いません」

「ミリアちゃんの商会なら、そこは心配していないよ」

「一か月だけ、試しに貸していただけませんか。問題があれば、その時点で延長を相談します」


 ナザルさんは、わたしとクロードさんを交互に見た。


「先代には世話になったからな」


 また父だ。


「一か月だけなら、銀貨四枚。修繕はそちら持ち。それでどうだ」


 高い。

 でも、半年契約よりはいい。


 わたしはクロードさんを見た。

 クロードさんはうなずいた。


「借ります」


 わたしが言うと、ナザルさんは笑った。


「決まりだな」


 店を出たあと、わたしは大きく息を吐いた。


「借りてしまいました」

「必要だった」

「固定費が増えました」

「作業効率も上がる」

「それで上回るんですね?」

「上回らせる」

「そこは言い切るんですね」

「言い切るところだ」


 倉庫に戻ると、トマたちが豆袋を運んでいた。

 ロイが新しい倉庫を見て、すぐに配置を考え始める。


「納品分はこちら。余剰分は奥。小樽は壁際。塩は湿気を避けて棚に」

「ロイ、慣れるのが早いですね」

「必要ですので」


 言い方がまた少しクロードさんに似てきた。


 クロードさんは倉庫の入口に立ち、中を見ていた。


「悪くない」

「珍しく褒めましたね」

「使える」

「褒め方が倉庫向けです」

「倉庫だからな」


 わたしは笑いそうになった。


 その時、トマが声を上げた。


「商会主、この分だと明日も荷が入りますよね」

「はい」

「なら、俺たち明日も来ます」


 エドとニクスもうなずいた。


「助かります。ですが、明日からは正式に日当を決めます」

「本当ですか」

「はい。食事付きで」


 三人の顔が明るくなった。

 クロードさんも小さくうなずいた。


「食事付きは効く」

「もうわかりました!」


 新しい倉庫。

 増えた人手。

 増えた固定費。


 ベルカ商会は、また少し大きくなった。

 そして、また少し危なくなった。


「クロードさん」

「なんだ」

「明日は、何を増やすつもりですか」

「馬車」

「聞かなければよかった!」


 わたしは思わず叫んだ。


 でも、少しだけわかっていた。

 次は、きっと馬車だ。


 倉庫を借りた。

 人も増えた。

 そうなると、荷を動かすものが足りない。


「えぇぇぇぇ!?」


 ベルカ商会は、初めて追加の倉庫を借りた。


 同時に、初めて固定費の重さを知った。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

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