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第七話 取調室の針と鶴

無機質なコンクリートの廊下を、一人の男が歩いていた。

 窓は一つもないことを見るに、ここが地下であることは考えるまでもない。


 細身の体躯。身長は、155cmほど。

 黒髪のセンター分けに、耳にはシンプルなシルバーのピアス。

 首に革製のチョーカー、黒のタートルネックに、和柄を現代風に崩した羽織をジャケットのように羽織っている。

 細身のスラックスにブーツ。


そして何よりーー

常に、薄い笑みを浮かべている。


ーーコツ、コツ、コツ


足音だけが、静まり返った廊下に響く。

男は最奥の扉の前で足を止めた。

一拍、間を置く。


ーーガチャリ


「遅れてしもて、すんません。綴目ちゃん」

「…………」


 “綴目ちゃん”ーー狐の耳の女性、綴目縫は、言葉ではなく視線で不満を示した。

 その圧を軽く受け流しながら、男は室内へと入る。


取調室の中央。

机を挟んで座る少女が一人。


「さて、おはようさん。ツルちゃん。今日は、いろいろ教えてくれな」

「.......はい」


雪が溶けるように、か細く返事が落ちる。


透き通るような白い肌。触れれば消えてしまいそうなほどい存在感。

その美しさは、どこか現実離れしていた。


「一条さん。個人情報は既に聴取済みです」


綴目が書類を差し出す。


「ありがとさん。いつ聞いたん?」

「あなたの到着が、あまりにも遅かったもので」

「あー……耳が痛いなあ」


軽口を叩きながら、一条は書類に目を落とす。


「えっと……織代つる。年齢十七。若いなあ。

異能名『凍銀織機とうぎんしょっき』……周囲の

熱を糸に変換、か」


小さく口笛を吹く。


「えぐい能力やなぁ……浦島くん、よう勝てたなほんま」


書類を閉じる。


「ほな本題や。“夜語”について教えてくれると助かるんやけど」


沈黙。

しばらくの間、彼女は俯いたままだった。

やがてーー


「私は……“夜語”の人たちに……いえ、“乙姫様”に助けていただいたんです」


ぽつり、と。

それから彼女は、少しずつ語り始めた。


祖父母と暮らしていたこと。

ある日、強盗に襲われたこと。

殺されかけた自分を救った存在が、“夜語”だったこと。


そしてーー

その恩義が、歪められていたこと。


ーー数十分後


「……なるほどなぁ」


一条は椅子にもたれ、天井を仰ぐ。


「気の毒やったなぁ。恩義を書き換えられて、都合よく使われてたわけや」

「…………」

「身内は、他におる?」

「……いません。両親は、私が幼い頃事故で。祖父母も……あの時に」


静かな声だった。

だが、それ以上語る必要はなかった。


一条は少しだけ目を細め、胸元の羽織紐を弄ぶ。


「……そっか」


少しの間。


「ほな、一つ伝えとくで」


軽く指を立てる。


「君は本来、“襲撃事件の加担者”や。せやから罰を受けるーー」


つるの肩が、わずかに震えた。

だが、


「ーーはずやったんやけどな」


一条は、にやりと笑う。


「課長のゴリ押しで無しになった」


「……え?」


ツルの目が、わずかに見開かれる。

その表情を見て、一条は満足げに笑った。


「その顔が見たかったんや。浦島くんの時もええ顔しとったしなあ」


くっくっくっ、と肩を揺らす。


「まあその代わりや。君は“監視対象”として異能特務課に入ってもらう」

「……監視、対象……」

「せや。逃げたら即アウト。でも普通に生活はできる。働いてもらうし、守りもする」


少しだけ、声音が柔らかくなる。


「悪い話やないやろ?」


ツルは、ゆっくりと頷いた。


「……はい」


目に、うっすらと涙が浮かぶ。


「ありがとうございます……」

「よし、ええ返事や」


一条は立ち上がる。


「ほな、僕からは以上や。綴目ちゃん、あとはよろしく」


ドアノブに手をかける。

ーーそこで、ふと思い出したように振り返った。


「そうや、つるちゃん」


少しだけ、いつもより柔らかい声で。


「学校、行きたい?」

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