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僕は、瓶の流れ着く砂浜に腰を下ろす。そこに彼の姿はやっぱり無くて、遠くには花火が絶え間なく打ち上がる蜘蛛だけが見えた。
彼は今、どうしているのだろう。出来ることならこの美しい花火を彼にも見せてあげたかった。
「いやぁ、懐かしいものが見れましたね」
背後から突然聞こえた男の声に、僕は驚いて振り返った。
「貴方は……」
「やぁ、先日振り」
唐揚げや、たこ焼き、焼きそばにお面や綿菓子。如何にもお祭りを満喫したというスタイルだ。
しかし、あの祭りには僕が招いた人しか来ていないはず。彼は一体どうやって蜘蛛へ……。
「それにしても、懐かしいな。ここは」
彼は、わ未だ警戒する僕を他所に、砂浜に座った。
「ここで見るだけだった花火を、まさかお祭り含めて楽しめるとはね」
「それって……」
「そういえば、君と初めて出会ったのもここだった」
ここで出会った人など、一人しかいない。僕が息を吹き返してから、ここへ来たのはあのときが初めてだ。
「……セウストさん?」
「久しぶりだなタイヨウ。花火、最高だったぜ」
その容姿はあの頃の砂に埋もれたものとは全く違う。けれど彼はたしかにセウストだった。
「セウストさん! セウストさん!」
どうして気付かなかったのか、自分を理解出来ないほどに、言われれば言われるほど、その姿は元の彼と同様に見える。
知っている人にまた出会えるというのは、この世界では普通のことではない。
つい先刻、それをより深く実感した僕にとってこの出会いは言葉には表せないほどに大きかった。
「それで、んでこんなとこにひとりでいるんだ?」
「ツキを還すんです。祠まで」
「祠、あぁこの奥の森にあるやつか」
「はい、ご存知ですか?」
「あぁ、もしかして場所分かんねぇのか?」
「あまり自身がなくて」
僕の戻った過去の記憶は、非常に断片的なものばかりで、ツキの祠の場所すら非常に曖昧だ。幸い僕には時間がある。林を制覇するつもりでいた。
「なら連れてったる」
「良いんですか?」
「花火のお礼……つっても足りねぇか」
「いえ、充分です。僕にはそれほど価値があります」
少しでも、一秒でも早くツキを元の、争いも憂いもない静かな祠に戻してあげたかった。
そんな僕にとって、その提案は非常にありがたいものだった。
「そしたら着いてこい。まさかこんなタイミングで恩を返せるとはな」
セウストは、自分の足で歩けることが嬉しいのか、軽い足取りで前を歩き始めた。




