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絶え間なく続く花火。鮮やかで何処か寂しさの混じった空は轟音と共に僕たちを見下ろす。
「凄い……凄いね……! ツキ!」
僕は肩に乗ったツキに呼び掛けるも、その返事は花火の轟音で聞こえない。
「ツキ?」
僕が肩を見ると、ツキは既にその目を閉じていた。
「セロ!」
僕は縋るような思いでその名を呼ぶ。
「きっと、限界だったのでしょう」
「ツキは……花火は見れたよね?」
「えぇ、最後の最後。私の耳には確かに、綺麗と言っている。ツキ様の声が聞こえましたよ」
「そっか……なら良かった」
すると、肩で眠るツキが光り出した。空の花火とは違う。ツキの全身を蛍が包んでいるかのような淡い光だ。
光がツキを包んでしばらく、その光が離れるとそこにツキは居らず、代わりに小さな白蛇の置物が僕の肩に乗っていた。
「ツキ?」
僕はその置物を手に取る。一見は陶器で出来た、ちょっとした骨董品に見える。だが、僕にはそれが、ツキの本来の――ヘビでも、ヒトでもない。元々の姿なのだと、理解できた。
「タイヨウ様、もう行かれるのですか?」
小屋から外に出ると、やはりいつもの無表情のセロが立っていた。空では、もう朝だと言うのに花火が打ち上がり続けていた。
昨夜、ツキが元の姿に戻ってから、僕はみんなの元を再び訪れた。ツキについては当然伏せておいた。何人かは気付いて居そうだったが、前作はされなかった。
今は、まだ日も登っていない早朝。けれど、僕にはもう、ここに居る意味はない。それに――。
「うん。ツキとの約束、守らないとだからね」
「……お気をつけて」
セロが祭りの期間、ここを離れられないことは知っていた。僕を送り出すため、頭を下ろす直前。その無表情の顔が、悲しそうに歪んだのが見えた。気がした。
「うん。またね」
これ以上、ここに居ると、きっと僕はセロに、サルビアやフウロに甘えてしまう。
僕は強く一歩を踏み出して、蜘蛛を後にした。
早朝の空気は、やっぱり湿っていて遠くから青が空を染め始めていた。
海岸沿い。セウストからお願いされて向かった道のりを逆に進む。
「懐かしいなぁ……」
一人で進む道路は、僕の想像以上に寂しくて、心細かった。
僕の壊した巨岩は、もう砂の一片も残さないで片されていた。結局。誰にも、誰ともすれ違わないまま、僕はセウストと初めて出会った砂浜に着いた。




