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「かまいませんが、特になにもありませんよ」
「うん。それで、いや、それが良いんだ」
僕は芝生に腰を下ろす。喧騒には少しだけ疲れた。僕もツキも、こうして静かに遠くの騒がしさを眺めるのが好きだった。
「タイヨウ」
ツキはふっと肩から僕の前に降りた。僕とツキの眼が合う。鋭い眼光が、けれど優しくて暖かいその眼が僕を見ていた。
「うん」
「分かっていると思うけど、私ももう長くない」
「うん」
「次に眠りについたとき、私の祠に私を寝かせて」
今のツキは特に何か体調が悪そうでも、どこか傷ついているわけでもない。けれど、僕には分かった。
ツキの内側に流れる、エネルギーが弱っていることに。
「……次は、いつ起きる?」
「――分からない。もし起きられてもきっと相当先ね」
ツキはその全てのエネルギーを失っても、眠りにつくことで回復することができる。
しかし、悠久を生きるツキにとって、百年も千年もそう長い時間ではない。そんなツキにとっての相当先は。文字通り、もうツキを覚えている人など誰もいないほどの先なのだろう。
「それでも、待つよ」
「タイヨウ。あなたはもう一人でも大丈夫」
「でも!」
「私が起きたら、あなたの成長した姿を見せて。ね? これでこの話はおしまい」
ツキはそこまで言い切って、また僕の肩に乗った。
「タイヨウ様、ツキ様。花火の準備が整いました」
僕らの会話が一区切りついたのを見計らって、セロが声をかける。
セロは、その手に黒色の筒を持ち、その先端に付いた赤いボタンを押した。
かちりと音を鳴らすと、セロの背後からすさまじい轟音とともに、空に花火が打ちあがった。
何発も続けて放たれた花火は、宙で豪快に弾けた。濃い黒をしていた空は、一瞬で鮮やかな赤色に染まった。
まるで夕焼けが戻ってきたかのような赤。そしてそれを追随するようにまた別の花火が開いた。
今度は青色の花火、夕陽が一気に青空へと変わる。それからも何発も花火は打ちあがった。
赤、青、紫、緑。様々な色の花火が絶え間なく広がっていた。




