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空腹など、この度が始まってからほとんど感じなかったのに。一口、二口と箸が進む。空腹だったわけじゃない。けれど、プラスチックの容器に残っていたのは、一口分だけだった。
「ごめんツキ、えっと、食べる?」
「ううん。タイヨウが食べて。私はそれを見てるだけで満足」
「そう?」
僕は目を細めて笑うツキに見られながらやきそばを食べ終えた。
次に向かったのは射的屋だ。並んでいる景品はお小さな箱に入ったお菓子や手のひらサイズの人形などの小物があり、屋台の隅には小さな木箱が積まれていた。
特になにか欲しいものがあるという訳でもないが、一度やってみることにした。
僕は犬の店主から銃と弾を受け取る。チープな造りのコルク銃だ。先端に指でコルクを詰めて発射する。ポンっとチープなおとが なってコルクがこつんと軽い音を立ててお菓子の箱に当たると、箱は倒れて、棚から落ちる。
「やった! 見てた?」
「えぇ」
僕がツキのほうを見ると、ツキは下をちろりと出して笑う。
取れたのは白い固められた小枝ほどの大きさの棒が沢山入ったもの。いわゆる砂糖菓子だ。
「一発ですか」
僕が喜んでいると、背後から突然声を掛けられた。驚いて僕が振り返ると、僕の持っていたものと同じコルク銃を構えたフード姿の子供がいた。
その子はきれいなフォームで銃を撃つも、コルクは景品に当たることなく、ターゲットより少し下方の壁にぶつかって地面に落ちた。
「見ての通り、いくらやっても当たんなくてね」
その子供は両手を横に振り、口元に自傷的な笑みを浮かべた。
「えっと、純粋に高さが足りてないんじゃないかな?」
「……高さ」
子供のフォームは完璧で、弾は確かに銃口からまっすぐに飛んでいたが、そもそもの話、狙っている的に対して身長が足りていなかった。
僕は屋台に置かれた木箱を持ち、子供の前に置く。
「ありがとうございます」
木箱に乗ると、またあのきれいなフォームで重岡前、今度こそ景品を撃ち抜いた。
「ありがとう。身長とは、盲点だった」
その子は貰ったぬいぐるみを抱えて、笑う。
「さて、僕は次の屋台に行くよ。全部回るには時間が足りなくなっちゃくからね」
「王様でも祭りは楽しいんだね」
「うん。僕は君よりも遥かに色々なことを知ってるけど、経験したことのあるものは、君の百分の一にも満たないからね」




