第48話
「……あんた、何主のベッドで勝手に寝てるのよ」
話が終わったのか、バタンと扉が閉まる音が聞こえたかと思うと、そのままアリアナがジト目でそう言ってきた。
「確かに、さっきは私があんたを中に入れたのかもだけど、今は違うでしょ!」
「長くなりそうでしたので」
「だ、だからって……あ、あんたは悪魔なんだから、そもそも睡眠だって必要ないでしょ!」
「悪魔差別でしょうか? 確かに睡眠を必要とはしていませんが、休みたい時だってありますよ?」
「……だからって主の……ま、まぁもうその件はいいわ。特別に、許してあげるわよ。そ、そんなことより! 私はあんたに言わなくちゃならないことがあるのよ!」
ビシッと指を指し、そのままそう言ってきた。
命を助けられたことのお礼かね? ……さっき昨日のことを説明されていた……とはいえ、そういう雰囲気じゃないな。
「勝手に外に出てたそうじゃない! あ、あんたの……ラストのおかげで犠牲者が出ずに済んだみたいだし、そこは褒めるべきところなのは分かってるわ。だからこそ、そこだけは褒めてあげるけど……なんで外に出られるのよ! ここにいるように命令してたはずでしょ!?」
あぁ、そういうこと。
昨日花女にも説明してやったことと一緒のことを言っておけばいいか。
「命令をされていないからですね」
「は、はぁ!? そんなわけ──」
「ありますよ。アリアナ様の小さな脳みそでは大変難しいことでしょうが、よく思い返してみてください」
「ッッッ〜〜〜! お、思い出すって! な、何をよ!」
「昨日私に言ったことをですよ。アリアナ様は本当に命令をしたのですか? 命令だと、ちゃんと明言していたのですか?」
「そ、れは……た、確かに、言ってない、かも……」
一気に自信なさげな様子になるアリアナ。
感じていた苛立ちも多分忘れてる。
「でしょう?」
「だ、だからって! そ、それに気がついているのなら、その時に言いなさいよ!」
「まぁまぁ、その結果アリアナ様に何も無く、人も1人助かったのですから、良いではありませんか」
「ぅ、そ、それはそうだけど……わ、分かったわよ。何も言わないであげるわよ」
「えぇ、当然ですね」
「ッ〜〜〜。ほ、ほんと、あんたは……」
「完璧な悪魔、ですか? ありがとうございます。アリアナ様は完璧には程遠い……遠すぎるくらいですが、これからも私が手助けして差し上げますので、どうぞご安心ください」
「も、もう〜〜〜!」
部屋の中でも気にすることなく地団駄を踏むアリアナ。一応ここは2階だから、下の階の人から苦情が来たりしないのかね?
「………………奥、詰めなさいよ」
何故か怒りとは違い、羞恥心で顔を赤くしながら、アリアナは小さくそう言ってきた。
? てっきりベッドから降りろと言われるものだと思ってたんだが……詰めろって、なんでだ?
「い、いいから! 早く詰めなさいよ! ……昨日は本当に役に立ってたみたいだし……序列戦も、あんたのおかげで勝てたようなものだし、と、特別に添い寝くらいならしてあげるって言ってるのよ! わ、分かったのなら、早く詰めなさいよ!」
耳の先まで顔を真っ赤にして、アリアナはいつもの強気な様子でそう言ってきた。
……俺は野良犬を保護でもして来たんだったかな? アリアナ犬が突然懐いてきたんだが。
「それ自体はもちろん構わないのですが……学園はどうされたのでしょうか?」
今日が休みだなんてことは聞いていないが──
「こ、これよ」
なんか持ってるなー、と思っていた紙を手渡してくるアリアナ。
そこに目を通すと……簡単に言えば、不法侵入者や学園側で確認の取れていない悪魔が1匹居たことから、2日学園を休みにさせて頂く、ということが長ったらしく丁寧に謝罪文と共に書いてあった。
……マジかよ。結局休みになっちまったのかよ、学園。
……しかも悪魔って……ケルベロスのせいじゃね?
……次からは絶対アリアナを守らせる悪魔はソールにしておこう。
ちゃんと命令すれば変なことはしないだろうし、よく考えたら、俺の魔法が掛けてある以上、ソールにアリアナを殺せるわけがなかったわ。
まぁ、2日で済んだと思っておくか。
「わ、分かったかしら? と、とにかく、お昼まで、特別に添い寝をしてあげるから! か、感謝しなさいよ! ……せっかく休みになったのだから、お昼からは街に買い物に行くわよ。ラストは荷物持ちとして、付き合わせてあげるわ」
学園からの謝罪ってのは特に無いのかね? まさかあの紙に書かれてた謝罪文のことではないだろうし、何かあると思うんだが……まぁ、俺の気にするようなことじゃないか。
「これでよろしいですか?」
仕方が無いから、言われた通りベッドの奥に詰めてやる。
「え、えぇ。……で、でも、さ、触るのは最低限だから! か、顔も! み、見ちゃダメ、だからっ!」
「最低限ならよろしいのですか?」
「ッッッ、へ、変なところはダメよ。……で、でも、変なところじゃなかったら……ち、ちょっとくらいなら、特別に、い、良いわよ」
「……」
懐いてくれるのが嬉しくないとは言わないが……体がちんちくりんなんだよなぁ。
「……あんた、今、変なこと考えなかった?」
「まさか。アリアナ様は可愛いなぁ、と思っていただけですよ」
「ッ……ば、ばか。……も、もう寝るから」
言葉通り、アリアナは本当にあっという間に眠りについてしまった。
……寝付きの良い奴。
そう思いつつ、何となくアリアナの肩を引き寄せ、その小さな体を抱きしめた。
そしてそのまま、頭に手を置く。
人間としては小さいけど、犬としては大きいな。大型犬かな。
……そういえば、俺が昔飼ってたのも大型犬だったな。
なんとなく、なんとなくだが、今なら眠れる気がした俺は、アリアナの体温を感じながら、そのまま目を閉じた。




