15. フロルとコールマン伯爵、愛の告白
※ 最終話です。
※ 2026/8/31 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
ジョージとフロルは晴れて、ジャンヌたちから奪われた屋敷へと無事に戻ってきた。
ジャンヌが強制解雇した執事含めた、家令たちもジョージ子爵が彼らに声をかけると、殆ど戻って従事してくれた。
もちろん従事していた農民や庭師、料理長のサム、そしてメイドたちも続けてくれた。
皆がジョージ子爵とフロルが屋敷に帰ってきてくれて、歓びあった。
ジョージ子爵は特に自分が不在中に、ヤコブの暴挙からフロルを守ってくれた農民たち。
またメイドや料理長のサムらに、丁寧ねに礼をいって給料も大幅にアップした。
そしてフロルがとても嬉しかったのは、愛すべき乳母のサマンサと、再会が果たせた事だった。
「ああサマンサ、とってもとっても逢いたかったわ」
「お嬢様、私もです。旦那様もよくぞお戻りになりました。私は毎日、お二人のご無事を心より祈っておりました」
フロルとサマンサは涙ながらに再会を歓びあった。
「ええ、サマンサがいってくれた通り、春の大嵐はすっかりと過ぎ去ったわ。お父様は船が転覆して海を彷徨った時、目を傷めてしまったけれど。」
「まあ……お労しいです」
「あ、でもね。あれから王都の名医にみせたら、お父様の眼は手術すれば治るそうよ!」
「ああ、それはようございました。本当にようございました」
サマンサも田舎に帰省していたのだが、ジャンヌの不祥事を全国新聞で知って、屋敷に戻ってきてくれたのだった。
◇ ◇
桜の花が満開の午後──。
フロルはコールマン伯爵に、これまでのお礼も兼ねて伯爵邸を訪問した。
居間に通されたフロルと彼女を出迎えるコールマン伯爵。
「コールマン伯爵、この度は父の名代で私がお礼に参りました。本当になんてお礼を言って良いのかわかりません。どうもありがとう御座いました」
とフロルは優雅にカーテシーをした。
今日のフロルはモスグリーン色のシフォンドレスを身に着けていた。
その出で立ちは桜の花びらが舞う中、春風の妖精さんのように可憐だった。
コールマン伯爵は眩しそうにフロルを見つめる。
「ああ見事なカーテシーだ。もう腰はすっかり治ったんだね」
「はい、おかげさまで。全てはコールマン伯爵様のお力添えのおかげですわ」
コールマン伯爵は困惑した顔でいった。
「フロル嬢、そんなに堅苦しいお礼はやめてほしいな。私はたまたま君が馬車で倒れた時、介助しただけに過ぎない……」
「いいえ、伯爵様が助けてくださらなければ、あの雨の日に私はどうなっていたやら……伯爵様とアメリアお嬢様が側に居て下さったから、私は再び笑顔になれましたもの」
フロルは心を込めてコールマン伯爵をじっと愛おしそうに見つめた。
「あ……そんな……」
コールマン伯爵はフロルに熱視線で見つめられて赤面しながらも、一つ提案をした。
「ならばフロル、私のお願いを一つだけ、聞いてくれないだろうか」
「はい伯爵様、私に出来る事でしたら何でも!」
「うむ、君はジョージ子爵の屋敷へ戻ったが、これからもアメリアの家庭教師を続けてくれないだろうか?」
「え、よろしいんですか?」
フロルの表情はパァッと輝いた。
実のところフロルも、アメリアの家庭教師になってから人に外国語を教える喜びを感じていた。できればこちらからお願いしようとしていたくらいだった。
「うん。なにせあの子は君に懐いてる。本来子爵令嬢である君に、家庭教師など頼むのは不謹慎かもしれないが、どうだろう。週に一度だけでも外国語を教えてくれないかな」
「ええ、勿論ですわ伯爵様。私で良ければお安い御用です──私もアメリアちゃんに教えるのは、とっても楽しいです。あの可愛らしい娘のおかげで、どんなに心が慰められたか計り知れません。一人っ子だからか、私には妹ができたみたいな気持です……」
「ああん!ダメええ!」
「「は?」」驚くコールマンとフロル。
「いやよ!いやいや!いもとなんて、いやああ!」
またまたどこからともなく、アメリアの声が聞こえた!
「アメリアちゃん!」
「アメリア?」
フロルとコールマン伯爵は辺りをキョロキョロ見回した。
「アメリアはフロルせんせいの、いもうとじゃないもん、フロルせんせいは、わたしのママになるんだもん!」
「「!?」」
そう、アメリアは以前と同じように、サイドボード下段の扉からひょっこりと現れた。
「あ~アメリア、またお前は、そんな所に入ってたのか」
「ふふふ。アメリアちゃんはあいかわらずね!」
フロルは突然サイドボードから出てきた、オカッパ頭アメリアを見てカラカラと笑う。
「もう、パパったら、アメリアもどかしくて見てられないよ!」
そういうアメリアは何故かご機嫌斜めだった。
ブンブンとホッペたを膨らましたかと思うと、突然フロルの首にぎゅっ〜と抱きついた。
「ねえ~もうわかったでしょう、フロルせんせい。パパはいくじなしなのよ!」
「……アメリアちゃん」
戸惑うフロル。
「ああん。やっぱり、わたしからいわないとだめね~。フロルせんせい、どうかわたちのママになって!」
「え?」
「アメリア!」
突然、びっくりするコールマン伯爵。
「いいえパパ。わたしはおねえさんより、ママがほしいの! もっともっとフロルせんせいと、いっしょにいたい!──だからどうか、パパのおよめさんになって!」
「アメリアちゃん……」
「バ、バカ、なんつー事を! フロル嬢はまだ十七歳だぞ! さすがに七歳の子持ちの母親は酷だろう、それに私みたいな、寡のオジサンではつり合いがとれん」
と慌てて訂正するコールマン伯爵。
だがフロルは頑と言い放った。
「いいえコールマン様。そんなことはありませんわ、伯爵様はとてもお若く見えますし、オジサンなんかではありませんわ! それに私だって子供ではありません。もうすぐ今春で十八歳になりますわ!!」
今度はフロルがコールマン伯爵に反論した。
「フロル……」
コールマン伯爵はフロルの剣幕に圧倒された。
「それに失礼と存じますが、初めて伯爵様を見た時、私はなんて麗しい殿方だろうと思いましたの。──オジサンなんて言葉、伯爵様には全然つりあわないです」といった後、一拍フロルは少し声のトーンを下げて俯いた。
「──ただ伯爵様はまだ奥様を忘れていないって以前、アメリアちゃんがいってたから……私の心の中で密かに伯爵様を……お慕い申し上げてれば……よいと思ってましたの……」
と、恥ずかしげにフロルが言うと、今度はアメリアがフロルの話を聞いて「あ〜失敗した~!」と思ったのか、両手で口を押えた。
「そっかごめんなさい。わたちフロルせんせいにパパがママのこと、わすれてないよっていっちゃったのね」
「いや、違うんだフロル! 確かに亡き妻は私の心の中にいる。それは永遠に消えはしない──だが、私は欲張りかもしれないが、君の生き生きと輝く姿に、ついいつも眼がいってしまうんだ、気付くと君を眼で追ってい!」
「伯爵様……」
「ヒューヒュー、パパ、よくぞいった!」
アメリアは大喜びでフロルから離れて、コールマンに抱きついた。
コールマンはアメリアを抱きしめながら、言葉を続けた。
「フロル。今のは嘘偽りのない本心だ。最初は君がとても気の毒な少女だと同情した──だが君が成人して淑女と分かった時から、その笑顔を何度も見ているうちに⋯⋯ああ駄目だな。この気持は言葉にならない、とても上手く言えんな⋯⋯」
「伯爵様……」
「あとフロル、そんな他人行儀な呼び方は止めてくれないか。これからは私をただロジャーと呼んで欲しい」
「ロジャーなんて……呼び捨てなど……私には出来ませんわ」
フロルは真っ赤になって俯いてしまう。
「フロル⋯⋯」
頬を染めるフロルがとても愛しいコールマン伯爵は、思わずフロルの手を取った。
いつの間にか部屋には、フロルとコールマン伯爵だけになっていた。
アメリアがそっと部屋の外に出たのも二人は気付かない。
無理もない。
二人はお互いだけしか見つめていなかったのだから。
◇ ◇
その後、ジョージ子爵の船が転覆して、傷めた両眼は王都の名医に手術をした後、元通り眼が見えるようになった。
おかげでジョージ子爵は、ジェーンブライドの花嫁衣装のフロルを自分の眼で見ることが出来て大喜びだった。
もちろんフロルのお相手はコールマン伯爵。
ブライズメイドは一人娘のアメリア。
結婚式の集合写真を取っている時に、アメリアはフロルに訊ねた。
「フロル先生、これからはフロルママと呼んでもいい?」
「もちろんよ、アメリアちゃんには二人のママがいるのだから」
「うん、お空のママと、フロルママね!」
「そうよ、私はアメリアちゃんのフロルママね」
フロルはアメリアの可愛らしい言葉にカラカラと笑った。
「おいおいアメリア、パパも忘れるなよ!」
「うん、パパも大好き!」
こうしてフロルはアメリアのママとなり、コールマン伯爵の花嫁となった。
集合写真の新しい家族は、とっても幸せいっぱいに微笑んだ。
── 完 ──
※最後までお読みくださり、大変ありがとうございました。
※番外編を足しましたのでよろしかったら一読くださいませ。
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