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13. ジョージ子爵とフロルの逆襲 

◇ ◇ ◇ ◇


 

 とうとうジョージとフロルが、ジャンヌ親子たちに復讐する時が来た。


 ある晴れた小春日和の朝。

 黒塗りの馬車が、ベルチェ家の前で二台止まる。

 御者に支えられて、一台の馬車から颯爽と降りる令嬢はフロルだった。


 背筋をしっかりと伸ばしたフロルは実家の門を叩いた。


「え、フロルが戻ってきたって?」


 

 テラスで朝食をとっていたジャンヌとラーラは、メイドからフロルが戻ってきて居間に通したと言われた。

 

 そう聞くや否や、食事もそこそこに済ませて、二人は居間に走って行った。


 

 今のドアを開けてフロルの姿を見ると


「「えっ?」」


 二人は驚愕した。


 

 それまでジャンヌとラーラは、ぼろぼろメイド服姿のフロルを見慣れてきたので、てっきりみすぼらしい姿のフロルが戻ってきたと思い込んでいたが、そこには別人のフロルが佇んでいた。



 フロルは真っ白い毛皮のコートを着て、コートを脱ぐと目の覚めるような青色のドレスを纏っていたのだ。


 銀色の髪は大人っぽく結い上げて、ツヤツヤの象牙の髪飾りを付けていた。

 

 その姿はとても美しく、誰が見ても感嘆する貴族令嬢であった。

 

 またフロルの胸元には、亡き母の形見のアクアマリンのネックレスを付けていた。


「⋯⋯⋯⋯」

 

 ジャンヌとラーラはフロルが余りにも(まぶ)し過ぎて後退りしたが直ぐに我に返った。



「フロル、あなたやっと戻って来たのね。一体、いままでどこにいたんだい!」


「義母様、義姉様、お久しぶりですわね。ここは元々私の家です。戻るのは当たり前でしょう」


「なにを偉そうに!それよりその姿はどうしたの?どこぞのパトロンでも見つけたのかしら?」

 

 意地悪そうにラーラは言った。



「そうですよ、それに胸につけたネックレスは、私の宝石箱にあったものじゃないの!いつのまにか無くなったと思っていたら、お前が盗んでいたんだね」


「盗んだ?──私が?──ご冗談でしょう。これは私の亡き母の形見の品です。私から盗んだのは義母様、あなたではないですか!」


「なんだってフロル、私に向かって、その口の聞き方はなんだい!」


 ジャンヌはズカズカとフロルに近づいて、おきまりの平手打ちをしようとした。



 その時だった──。


「止めるんだ、ジャンヌ!」と、ジャンヌの背後から男の大声が聴こえた。


「久しぶりだな、ジャンヌ!」


 ジャンヌが振り向くと、そこにはジョージ子爵が杖をついて立っていた。



「! ジョージ……あなた⋯⋯生きていらしたの?」


 

 ジャンヌは真っ青な顔をしてジョージを幽霊でも見ているかのように凝視した。



 ジョージ子爵は、以前より痩せており、薄茶色のサングラスをかけていた。

 

 白髪も増えてはいたが紛れもなく本人だった。


 彼の後ろにはジャンヌの知らない男たちがズラリと並んでいた。

 

 一見、警察服をきた男たちもちらほら見えた。


 

 ジャンヌは、ジョージ子爵の後ろにいる男たちを見て、嫌な予感がした。



「ふん、私は地獄から這い上がって生きて帰ってきたよ。ジャンヌ、お前にとって非常に残念だろうがな」


「いいえ、そんな事はありませんわ。ジョージ、よくぞご無事で、私たち家族は貴方の行方をとても心配しておりましたのよ」



戯言(ざれごと)はよせ!──それよりも私のいない間に、なぜお前が私の妻になっているのだ!私はお前と婚姻などした覚えはない!」



「あら、長旅のお疲れのせいで記憶違いではなくて──貴方と私は確かに結婚しましたわ。その証拠にあなたが隣国へ行く前に婚姻届に押印してくださって、私に役所に提出してくれと、貴方が仰ったではないですか」



「お前のいう婚姻届とはこれか?」


 といって、ジョージは片手ではらりと降ろした一枚の紙を、ジャンヌの前に見せた。



「あら、なぜ婚姻届を持っているの?」



「これは全くの偽物だ。私は押印などしていない。誰かが私の承諾なしに押印したものだ!」



「そ……そんなはずはないですわ」



「言い訳は見苦しいぞ!これから真実を解明するために、ジャンヌ並びにラーラ、そしてヤコブお前たちを私は警察に通報した!」



「何ですって?」ジャンヌが大声をあげた。


「ちょっと、なぜ私まで?」ラーラも自分の名前が出て来てびっくりした。


「おい、俺は何もしてないぞ!」と、ヤコブが文句をいった。



「黙れ、ヤコブ! 貴様は私の大事な娘に納屋で暴行しようとしただろう!──被害者のフロル並びに、その場で助けてくれた農夫の証人たちもいる、言い訳は警察で云え!」



「あわわわ……」と、ヤコブはようやく事の重大さがわかった。


 ジョージ子爵の側にいたフロルを見て

「フロル⋯⋯助けてくれ」といわんばかりに憐みの眼くばせをした。



 そんなヤコブを尻目にフロルは冷たく言い放った。



「ヤコブさん、あなたは何かにつけて、必要もないのに私の体に何度も触れてきたわ。そして、とうとう納屋で私を待ち伏せして襲いかかってきた──この度私は警察に被害届を出しました──そしてラーラ、あなたも私に足を引っかけて階段から突き落としたわ、そのせいで私は大怪我をしました。あなたもご存じの通り、腰骨を骨折して二カ月以上も痛くて動けなかったわ!」



ヤコブが慌てて弁解する。

「フロル……そんな⋯⋯あれはちょっとした兄としての悪戯(いたずら)だよ、俺もおふざけが過ぎたわ」



「そうよ、フロル、私だってわざとじゃないわ。たまたま足が当たっただけよ、あの時はさすがに悪かったわ、謝るからどうかそんなに怒らないで」


 ヤコブとラーラは、初めてフロルに(へりくだ)って懇願した。



「嘘、おっしゃい!──お二人とも言い訳は警察で云えばいいわ!私もこれまであなた達がしてきた仕打ちを全て洗いざらい話しますから!」


「まあまあ、フロルも落ち着きなさいな。これは単なる兄姉と妹のケンカの延長ですわ。ねえフロル、あなたも大袈裟過ぎますよ」

 

 ジャンヌがフロルとヤコブたちの間に入って止める。


 なんとかして彼女はこの場を(しの)ごうとしたが、ジョージが大声で制した。



「ジャンヌ、いい加減にしろ!お前たちは私の家族でも何でもない!──ただの害虫に過ぎない。お前たちの顔を見るのも不愉快だ、警官部長、どうかこの三人を連行してください!」


「了解しました。おい、三人を連行しろ!」


王都警察の部長直々に来て部下たちに命じた。



「ちょっと、待って頂戴!」

「おい、離せよ!」

「キャーッ! 触らないでよ!」


「煩い、貴様ら大人しくするんだ!」


 

 ジャンヌとヤコブ、ラーラ三人は、体格がガッチリした警官たちに掴まれて、あっという間に警察馬車に乗せられて王都警察にしょっぴかれてしまった。





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