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10. 家庭教師になるフロル 

◇ ◇ ◇ ◇




 三月になった。


 王都の街にある公園の森も、春鳴き取りが鳴き始める。

 

 まだ気候は肌寒いが、陽光は春めいて淡い光を醸し出していた。


 

 フロルはコールマン伯爵邸の客人になってから、早くも五か月近く過ぎた。

 

 その間、フロルは一切伯爵邸から外出しなかった。


 フロルはコールマン伯爵から、ジャンヌが自分を探していると聞いて注意していたのだ。


 コールマン家の生活は、とてもフロルには居心地がよく、彼女の腰も杖も使わずに、歩けるようになり完全に骨は完治した。


 

 栄養失調もあっという間になくなった。

 あれほど目立っていたフロルの骨と皮だった肢体も女性らしくふっくらとしてきた。

 

 体重が戻ると、同時にこけていた頬もふっくらして、その頬がバラ色に染まるとより十七歳の娘らしい顔に戻っていた。


 

 またフロルは、コールマン家にいる間はただ飯を食べるのは忍びないとして、コールマン伯爵にアメリアの家庭教師をしたいと申し出た。


 フロルは外交官の父の影響で、王国近辺の数か国の言葉なら話せるのだ。


「おお、そんなに若いのにそれは凄い。フロル嬢はバイリンガル嬢だな。ではアメリアに隣国の言葉をまず教えてあげてくれないだろうか。親戚の者たちをびっくりさせたい」


「畏まりました。アメリアちゃんが私の指導を、快く思って下さると良いのですが……」


 そんなフロルの心配をよそに、アメリアは熱心にフロルが教えてくれる隣国の言葉を勉強していった。


 

 時々、コールマン伯爵はフロルが家庭教師になって、アメリアに外国語のレッスンをしている姿を見学していた。


 勉強嫌いのアメリアが、フロルが先生だと素直に学んでいた。

 

 フロルも人に教えるのがこんなにも楽しいものだとわかって、熱心にアメリアにレッスンをしていた。



 水を得た魚のように生き生きしたフロルの顔。

 

 

 それを見つめるコールマン伯爵の黒き瞳は、いつしかアメリアを越えて、フロルだけを見つめるようになっていく。


 

 アメリアはそんな父親を、横目で見ながらニコニコしていた。


 ◇

 

 

 小春日和の暖かい午後、それは突然の出来事だった。



 フロルとアメリアがレッスンを終えて、二人は庭に出て鬼ごっこをしていた。

 

 キャッキャッと楽しそうに、フロルとアメリアは駆け回っていた。


 執事が二人に近付いてきた。



「フロル様、恐れ入りますが旦那様が一階の居間に来てほしいとお呼びでございます」


「コールマン伯爵さまが?」

「わたしもいっしょに行っていい?」


「あ、はい。アメリア様もよろしいかと……」


「何かしらね、アメリアちゃん」

とフロルはアメリアと手を繋いだ。



「きっとパパがフロルせんせいに、びっくりさせたいことがあるのかも?」


「まあ、何でしょう?」


 フロルはアメリアの好奇心旺盛な顔が、可愛くて仕方なかった。


 フロルが家庭教師になってからというもの、アメリアもフロルを“フロルちゃん”と呼ばないで、“フロル先生”と呼ぶようになった。


 それでも自分を母のように慕ってくる、アメリアは健在だった。



「フロルです。失礼致します……」

 といってフロルは、アメリアと連れ立って居間に入った。


「あ?」

 

 フロルは思わず、居間のソファに座っているコールマン伯爵と、もう一人の中年の紳士を見て驚愕した。



「お、お父様──!」



 フロルは目の前に、行方不明だった父親が目の前にいたのだ。




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