↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第三章「蛍の悲劇」
PR
39/47

山小屋の怪人④

 山小屋は近づいてみると、かなり朽ち果てていた。梅雨時とは言え、高地だ。隙間風が冷たかったことだろう。田口公正はよくこんな小屋に潜んでいたものだ。

 ねえ、広大君。本当に首藤医師の遺体があるのかな? 田口公正が犯人なのだろうか?

――・・・

 寝ているのか。僕の質問に広大君は答えてくれなかった。

 小屋に到着すると、「こっちだ」と田口公正が僕らを案内する。小屋のある辺りは斜面がなだらかで平地に近くなっているが、そこから下に下った場所に雑草の生えていない地面がむき出しになった個所があった。

 土饅頭が出来ている。ここに何かを埋めたのだ。

「ここだ」と田口公正が言うので、鑑識官たちが一斉に地面を掘り返し始めた。捜査員が手を貸す。僕は若手とあって、最前線に送られ、シャベルを渡され、「いいか。慎重に掘れよ。何か見つけたら、直ぐにシャベルを置いて、手で掘れ」と年配の鑑識官に怖い顔で言われた。

「分かりました」

「お前もだ」と三苫巡査部長にもシャベルが渡された。

「頑張りましょう! 嶽刑事」

 三苫巡査部長は何時も元気だ。僕に三苫巡査部長、それに若手の鑑識官、二人で地面を掘り起こす。土が柔らかい。一度、掘り起こしたからだ。見る見る内に地面に穴が広がって行く。

 最初は丁寧に掘り進めていたが、その内、肉体労働にしか思えなくなった。ざつにシャベルを土に入れて、「もっと丁寧に。慎重に」と何度か年配の鑑識官に怒られた。

「すいません」と汗をぬぐう。

 ほどなく、「あった!あったぞ!」と僕の隣でシャベルを振るっていた三苫巡査部長が声を上げた。

「どけ、どけ」と僕は土の中から追い出された。

 鑑識官たちが地面に広がった穴に飛び込んで、手で土を掘り起こしてゆく。

 穴の周りに捜査員が集まり、「どけ、どけ」と僕と三苫巡査部長は穴から遠ざけられた。まあ、良い。助かった。正直、遺体なんて見たくはない。

「やりましたね。嶽刑事」三苫巡査部長が肩で息をしながら笑顔で言った。

「ご苦労様です」と僕が答えた時、「おお!」と穴の周りで歓声が上がる。

 地中から、遺体が出てきたのだ。首藤医師だろう。腐敗が進んでいて身元が確認できなかったようだ。

「傷跡を見ろ! 五本だ」

 僕は見ることができなかったが、入田さんや服部さんと同じように、遺体に五本の平行した傷跡が見られたようだ。被害者は五本爪の凶器で殺害されていた。

 どういうことなんだろう? 広大君に尋ねてみるが答えはない。

 首藤医師は山小屋まで逃げて来て、ここで田口公正に殺された。そんな気がした。遺体を背負ってこの山道を登って来るなんて、やせ細った田口公正にそんなことが出来ただろうか?

 遺体が着ていた上着のポケットから、鍵が見つかった。首藤医師が診療所と軽自動車の鍵を持ち歩いていたことが分かっている。

 遺体が首藤医師のものであると見て間違いないだろう。

「うおおおおー!」

 地鳴りのような歓声が上がった。人の頭部が見つかった。こちらも腐敗が進んでいたが、塩市拓谷の頭部だ。僕は少しだけ穴を囲む人の輪から遠ざかった。

 出来れば見たくない。はは~そうかと思った。広大君もこういうシーンが苦手なのだ。だから出てこないのだ。

 更に、斧が出てきた。

「遺体の頭部を切断するのに使用した凶器のようです」鑑識官の言葉が聞こえた。斧を使って遺体の頭部を切断したのだ。それを聞いて、人の輪から更に足が遠のいた。

「刑事さん、そこの若い刑事さん」

 いつの間にか田口公正も穴から遠ざけられていたようで、どうやら僕のことを呼んでいるようだった。皺だらけの顔で僕を見ていた。幽鬼のような顔はムンクの叫びという有名な絵画に出てくる人物を思わせた。

「何でしょう?」と近づくと、「あんた、昨日、喜則さんと一緒にいたな」と聞かれた。

「はい」とうなずくと、「じゃあ、あんたに教えてやる」と言って皺だらけの顔を歪めた。笑ったように見えた。

 隈井さんに目をやる。遠巻きに穴の様子を見守っていたが、僕と田口公正のやり取りに気がついたようだ。

「何を教えてくれるのです?」

「あの斧は入田の納屋から拝借した」

 田口は入田家の納屋から斧を持ち出して塩市拓谷さんの頭部を切断したと言うのだ。村の事情に詳しい田口の仕業らしかった。

「もうひとつ。こっちだ。ついて来な」

 何処かに案内したいようだ。

 隈井さんが歩み寄って来た。

「どうした?」

「どこかに連れて行きたいみたいです」

「そうか」と隈井さんの指示で、田口公正を先頭にぞろぞろと歩いてゆく。

 山小屋からやや下った場所に木々が鬱蒼と茂った場所がある。森の限界だ。どうやらそこを目指しているらしい。

 一瞬、森に逃げ込もうとしているのではないかと思った。

「ああ、ここだ」と田口公正が指をさした。何かある。藪の中にうまく隠してあった。バイクだ。僕は藪に分け入って、草木をかき分けた。オフロード・バイクが隠してあった。

 中津から七軒屋へやって来るのに使ったものだ。オフロード・バイクが山小屋近くの茂みに隠してあった。

「拓谷のバイクだ。あいつにバイクに乗せてもらって、ここに来た」田口は言う。

「あなたがやったのですか?服部順治さん、首藤医師、そして塩市拓谷を殺したのはあなたですか?」

 急に彼のことが怖くなった。三人もの人間を殺害できるなんて、どんな神経をしているのだろう。僕には信じられなかった。

 田口公正はまた顔を歪めただけだった。その顔は何処か悲し気に見えた。

 現場検証を終え、山を降りる。

 前を警官に囲まれて、ゆらゆらと揺れるようにして田口公正が歩いて行く。針金のように細いが足腰はしっかりしている。少なくとも僕よりましだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。