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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第二章「宗家の宝」
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蛍と貫之③

 また電話だ。父からの電話かと思ったら、母からだった。

「昴君。ちゃんと食事している? 洗濯物、ためていない? 忙しくて、洗濯や掃除をする暇なんて無いんじゃない? お母さん、行ってやってあげようか?」

「洗濯も掃除もちゃんとやっているよ。来なくて大丈夫。大体、お母さんがこっちに来たら、誰がお父さんの面倒を見るんだい?」

 どうせ父を置いて来やしない。相変わらず口うるさい。ひとしきり小言を聞いてから、「じゃあね」と電話を切ろうとした。すると、最後に母が妙なことを言った。

「良い。母さん、警察のことは分からないけど、困ったら隈井さんに相談するのよ」

 言っていること自体、おかしなところはない。だけど、僕の相棒の名前が隈井さんだと言うことは、母に言った記憶がないのだ。どういうことだ?

――お母さんもお父さんも昴君のことを、ちゃんと見ているってことだよ。

 広大君が答える。ちゃんと見ている?

――分からなければ良いよ。それより、隈井さん、今日は変だったね。

 変だった?何処が?

――君があんなこと聞いたのに、何も言わなかったからさ。

 あんなことって何だよ。

――水が綺麗だから蛍がいるんじゃないか、なんて事件に何の関係があるんだい? 黒枝さんから、おとぎ話を延々と聞かされて、隈井さん、何も言わなかったなんて変だよ。

 悪かったね。蛍と貫之の話を聞いて、何も思わなかったの?隈井さんだって黒枝さんの昔話に聞き入っていたよ。

――だから変だって言っているのさ。普段だったら、さっさと話題を変えていただろうから。まあ、あの話、面白かったよ。クマゼコといい何かと秘密の多い村だね。

 そう言われればそうかもしれない。何時もの隈井さんだったら、事件に関係のないおとぎ話に聞き入ったりしないだろう。どうしたんだろう? と広大君に聞くと、

――分からない。想像はつくけど、他人のプライバシーに立ち入りたくないから、教えてあげないよ。君に言うと、直ぐに隈井さんに口走ってしまうから。

 ひどいな、と思ったものの、広大君の言う通りだ。僕は口が軽い。うかつなことは、聞かないでおいた方が良い。


 翌日、中津署から、橋内豊に関する身上調査結果が届いた。彼が語った近況は、隈井さん曰く、嘘八百だったようだ。

「嘘八百ですか?」

「新しい伴侶を見つけて、うまく行っているみたいなことを言っていただろう。確かに、八年前に結婚して子供が一人できたが、五年前に離婚している。子供の親権は母親が持っていて、現在は一人暮らしだ」

「そうだったのですか・・・まあ、嘘をついたと言うより、見栄を張っただけかもしれませんよ」

「そうだな。見栄八百と言った方が良いかもしれないな。だが、我々、警察を欺いたことには違いない。中津署の捜査員が塩市拓谷のDNAを採取できそうなものがないかと家を訪ねた。幸い、塩市拓谷が遊びに来て泊まった時に使った歯ブラシと剃刀があった。その後で、近所を聞き込んで回った」

 橋内家は日豊本線と国道二十三号線に挟まれた場所にあり、民家が隣接していたが、庭付きの一戸建てだった。隣家の主婦が在宅していて、主婦が言うには、五年ほど前、橋内の妻が突然、やって来た。そして、「夫と離婚して実家に戻ることになりました。今まで色々お世話になりました」と挨拶をして、娘を連れて家を出て行ったと言った。

「橋内さん、近所のスーパーに勤めていたんですけどね。不景気でスーパーをクビになったみたいですよ。よく知りませんが、失業保険だか生活保護だとかを受けて、それで生きているんじゃないですか」と橋内が無職であることを教えてくれた。

「生活に困って自暴自棄になっていた可能性がある」

「実の息子のように可愛がっていた塩市拓谷さんを殺され、橋内さんが復讐をしたと考えることができますね?」

 隈井さんの目の前で、容疑者リストに橋内豊の名前を加えた。


 容疑者リスト

●クマゼコ~妖怪?殺害方法がクマゼコの特徴と一致。五本爪。

●芦刈喜則~七軒屋住人。第一発見者。消去法で最有力容疑者。

●首藤医師~遺体を自分に偽装して失踪。殺害の動機不明。

×塩市拓谷~入田、服部、首藤に恨みがある。行方不明。

●田口公正~元七軒屋住人、行方不明。塩市拓谷と接触?

●橋内豊~塩市拓谷の育ての親。拓谷を殺され、復讐?


「塩市拓谷が殺されたことをどうやって知ったのか、など、橋内豊が犯人だとすると、色々、解明しなければならない謎が出てくるな。だが、容疑者リストに加えておいた方が良い」

「田口公正については調べが進んでいるのでしょうか?」

 こちらも中津署で捜査を進めていた。住民票は七軒屋のままだ。七軒屋を離れてから、中津にいるらしいが、どこで何をしているのか、分かっていなかった。

 そこで、突然、「隈井君~!」と隈井さんが係長に呼ばれた。

「はい」と隈井さんが係長のデスクに走って行く。隈井さんが席を空けると直ぐに、受付から「隈井さんに来客です」と連絡があった。

「分かりました」取りあえず僕が下りて行くことにした。

――容疑者となり得る人物なんて、最初は芦刈さんくらいしかいなかったのに、随分と容疑者リストが増えたね。

「捜査が進むに連れて容疑者が増えて行っているんだから仕方ないよ」

――これからだって、まだ容疑者が増えるかもしれないよ。

「止めてくれ。もう十分だ。勘弁してくれ」

 困ったことに、広大君の予言はよく当たる。

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