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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第二章「宗家の宝」
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姥捨て山③

「爺様の代に、誰も見向きもしなかった山の斜面を宗家より借りて、ぶどう畑を始めた。爺様は随分、苦労を重ねた。やがて、ぶどう畑は軌道に乗り、親父の代には、ぶどう畑の土地を宗家から買い受けた。

 爺様がぶどう畑を始めた時、人手が減るのを嫌がった入田家から随分と嫌がらせを受けた。幸い、御先代様がぶどう畑に七軒屋の未来を感じたてくれたようで、後ろ盾になってくれた。もし宗家の援助がなければ、ぶどう畑は上手く行かなかったと爺様はよく言っていた」

「その御先代様が隠したというお宝の話は聞いたことがありませんか?」

「ない」と芦刈さんの答えは素っ気なかった。

 何か知っているのだろうか?

「塩市拓谷さんについて、何かご存じありませんか?」

「拓谷さん? 宗家のボンのことか?」

「そうです。塩市宗谷さんと晴美さんとの間に生まれたお子さんの名前です」

「知らない。宗家のボンが生まれたのはわたしが村を出ている間のことだ。ボンについては何も知らない」

 相変わらず素っ気ない。

「もうひとつ、田口公正さんについて教えて下さい。中津で、田口さんは塩市拓谷さんと会っていたようなのですが」

「そりゃあ、ここにいた訳だから、お互い、相手のことくらい知っていただろう。だけど、親子ほど年が離れていたはずだ。親しい間柄ではなかったんじゃないか。二人が知り合いだったとすると・・・」

「知り合いだったとすると?」

「公正さんの息子さんたちは、宗家のボンと年が近かったはずだ。息子さんを介して知り合ったんじゃないか」

「そうですね。田口公正さんが今、何処にいるのかご存知ありませんか?」

「さあ、分からんなあ~一体、どこで何をしているのやら。別れた奥さんに聞いてみたらどうだ? 坊ちゃんたちと一緒に中津におるはずだ。今は加志崎の姓に戻っているはずだ。加志崎敦子さんと言って、上の子は良生君、下の子は将生君だ」

「分かりました」

「あんたら、警察官なら順一郎君の連絡先を突き止めることくらい簡単だろう。彼と連絡をとって、由紀さんが来ていないか確かめてくれないか?順一郎君のところに行ったのなら、安心だ。心配無用だ。でも――」

 服部家にも軽自動車が一台あるが、順治が殺されてからずっと車庫から動いていないと言う。いくら足の達者な村の女性でも歩いて町には出ない。

「分かりました」

 芦刈家を出ると、隈井さんが県警の捜査本部と連絡を取り、服部順一郎君のもとに母親の由紀さんがいるかどうか確かめてもらうよう依頼した。芦刈さんは、順一郎君は博多で働いていると言っていた。福岡県警に捜査してもらうことになる。

 そのついでに「はい――はい――分かりました」と何か報告を受けていた。

 僕は芦刈家の前のあぜ道で、抜けるような青空を見上げていた。

 このところ、良い天気が続いている。どこまでも青く広がる空。昨日とまるで変わらない風景。まるで時間が止まったかのようだ。ここにいると、年を取らないんじゃないかと思った。

――桃源郷。シャングリラとも言う。でも、桃源郷にしては随分、血なまぐさいところだけどね。

 確かに、こんな事件でもなければ一生、訪れることなど無いところだろう。

 電話を終えた隈井さんが、「首無し遺体、塩市拓谷のものと見て間違いなさそうだ」と言った。「昨日、是永鉄工所から持ち帰ったタイムカードから塩市拓谷のものと思われる部分指紋を採取することがでた。遺体の指紋と照合したところ一致した」と教えてくれた。

「指紋が一致したのなら、次はDNA鑑定ですね。塩市拓谷さんの私物が見つかればよいのですが」

「中津署の捜査員が、塩市拓谷が住んでいたというアパートに向かった。橋内豊の家にも向かっているそうだ。かつて同居していたと言っていた。何か残っているかもしれない」

「塩市拓谷さんが被害者だとすると――」

 僕は胸ポケットから手帳を取り出すと、


 容疑者リスト

●クマゼコ~妖怪?殺害方法がクマゼコの特徴と一致。五本爪。

●芦刈喜則~七軒屋住人。第一発見者。消去法で最有力容疑者。

●首藤医師~遺体を自分に偽装して失踪。殺害の動機不明。

×塩市拓谷~入田、服部、首藤に恨みがある。行方不明。

●田口公正~元七軒屋住人、行方不明。塩市拓谷と接触?


 と塩市拓谷さんの名前にバツを入れた。それを見た隈井さんから、「田口公正を容疑者リストに入れたんだな。彼が犯人だとして、動機は何だ?」と聞かれた。

「動機ですか。猟銃事件が起きた時、被害者たちとの間で何かあったのではありませんか。それが理由で村を出た。田口さんは被害者たちを恨んでいた」

「そうだとしても、何故、今になって恨みを晴らしたんだ。塩市拓谷はどうだ。田口が村を追い出された時、彼はまだ少年だったはずだ」

「入田家には家探しをした形跡がありました。今回の事件には宗家の宝が絡んでいるのではないでしょうか?宝さがしと復讐が絡み合って、今回の事件が起きた。そうとも考えられます」

 隈井さんに聞かれるまで、動機について深く考えてはいなかったが、意外にすらすらと口にできた。満点とは行かなくても、及第点の回答だろう。

「動機は金か」と隈井さんは納得してくれたようだ。

「クマ・いさん、さて、次はどうしますか?」

 危ない。危ない。クマさんと言いかけてしまった。県警内では皆、隈井さんのことを、クマさんと呼んでいる。先輩方を真似て、一度、クマさんと呼んだら、「クマさんと呼ぶな!」と怖い目で睨まれてしまった。隈井さん、実はクマさんと呼ばれるのを嫌がっているのだ。

「そうだな。もう一度、黒枝の婆さんから話を聞いてみるか」

「黒枝さんから話を聞くのですね」

 前回、尋ねた時は会話が成り立たなかった。それでも調子の良い時があって、運が良ければ話ができると芦刈さんは言っていた。

「今日は調子が良い日かもしれないからな。うん⁉入れ歯と掛けて、黒枝の婆さんから聞きたいものと解く・・・その心は?」

 隈井さんが謎かけを始めた。親しい人間にしか見せない一面だ。嬉しい反面、時に面倒くさい。

「分かりません」と答えると、隈井さんは嬉しそうに言った。

「歯・無・し・・・はなし・・・話」

「はは」笑うしかなかった。

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