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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第二章「宗家の宝」
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容疑者リスト④

「拓谷の私物ですか? う~ん。探してみましょう。あいつが会社を辞める時、一切合財、みんな持たせてやりましたから、何も残っていないと思います。あいつは嫌がったんですがね。いずれ必要になる時があるかもしれないから持って行けと言って、押し付けました」

 是永は申し訳なさそうに言う。やはり良い人だ。

「おい!」と受付の女性を呼んで、探してもらった。すると、塩市拓谷さんが使っていたタイムカードが出て来た。指紋が取れるかもしれない。

「助かります」隈井が大切そうに受け取って、ハンカチで包んだ。

 原尻君は居心地悪そうに座っていたが、是永社長に「勇次、もう行っていいぞ」と言われると、安堵の表情を浮かべて、飛ぶように工場に戻って行った。


 是永鉄工所の訪問を終え、七軒屋に向かうことになった。

 服部由紀さんが失踪したと連絡を受けたからだ。家に閉じこもったままの由紀さんを心配した芦刈さんが様子を見に行ったところ、いなくなっていることに気がついた。そして、慌てて通報してきた。

「どうしたのでしょう?」

「分からない。最悪の事態でなければ良いけど・・・」

 隈井さんが渋い顔をした。車内に静寂が訪れた。

――ひとつ分かったことがある。

 広大君が言う。

「何だい?」

――どうやら、塩市拓谷は鉄工所で五本爪の凶器を製作していたらしいね。

「えっ⁉」と、思わず声が漏れてしまった。

 隈井さんが「何だ?」と怪訝そうな顔を向ける。

「いえ、塩市拓谷さん、鉄工所で五本爪の凶器を製作していたんじゃないかなって思いついたものですから」

 咄嗟に胡麻化した。広大君の怨嗟の声が聞こえてきそうだ。

「なるほどな。塩市拓谷は一人、鉄工所で作業をしていた。確かに、五本爪の凶器を製作していた可能性があるな。今回の事件がクマゼコの仕業でない限り、今まで誰も見たことがない凶器が犯行に使用されたのは間違いないと思う。クマゼコの爪に似せて凶器を作ったと考えるのが妥当かもしれない。塩市拓谷はその為の技術と機会の両方を併せ持っていた。そういうことか」

 隈井さんの解説を聞いて、広大君の言ったことが腑に落ちた。なるほど、そういうことだったのか。

「塩市晴美、拓谷親子について、もう少し調べる必要がある。橋内さん以外に、彼等と親しかった人物を探し出さなければならない。五本爪だけに、詰(・)め(・)はしっかりとな」

 駄洒落だろうか? 真面目な顔をして、しれっと冗談を言う人だ。

「参の屋さんが気になります」

 これは僕の考えだ。

「塩市拓谷が連絡を取り合っていたらしい田口公正か。良い着眼点だ」

 隈井さんに褒められた。どうだい?広大君。

 僕の挑発を無視して広大君が言う。

――そう言えば、言い忘れていたけど、橋内さんの話を聞いた時、変だなと思ったことがあるんだ。

「何だい?」

 教えてほしいかい? なんて意地悪なことを広大君は言わない。彼は常に僕の味方だ。

――塩市家のお宝、明末の崇禎年間に景徳鎮民窯で焼かれた陶器だと橋内さんは言っていた。

「確かにそんなことを言っていたような気がする」

 はっきりと覚えてない。

「明の崇禎帝という皇帝は明王朝最後の皇帝だ。ラスト・エンペラーとして有名なのだよ。明王朝の末期には北に興った金という満州族の建てた国の外圧に苦しんでいた。そんな中、李自成という人物が農民の反乱軍を組織する。反乱軍に首都、北京を攻められ、内応者が相次ぎ、北京はあっさりと陥落、明王朝は滅亡した。李自成に攻められた崇禎帝は、故宮の北にある景山公園の槐の木で首を括って自殺したという。

「はあ・・・?」

 何を言いたいのだろう?

――崇禎帝は猜疑心の強かった皇帝で、山海関で満州族の侵攻を一手に防いでいた袁崇煥という名将を讒言により誅殺している。そのことが明王朝の滅亡を早めてしまった。まあ、袁崇煥の力をもってしても、明王朝は内憂外患だったから、長くは持たなかっただろうけどね。

 少々、得意になり過ぎだ。

 で、その崇禎帝がどうかしたの?

――崇禎帝はさっきも言った通り明王朝の最後の皇帝だ。皇帝としての在位期間は千六百年以降、明の滅亡は一六四四年、一方、大友宗麟の二階崩れの変は、一五五○年の出来事だ。

「だから何なの?」

――分からないの? 二階崩れの変の方が、崇禎帝の治世より百年も前の出来事になる。二階崩れの変で塩市丸が百年後の明末のお宝を大友家から持ち出すことなど不可能だ。七軒屋の起源は、戦国時代ではなくて、江戸時代に入ってからと考えるのが妥当なような気がする。年貢の重税に喘いだ農民が、人も通わない山奥に逃げ込み、開いたのが七軒屋なのだろうね。

「分かったけど、隈井さんに話しても、仕方のない話だね」

――好きにしなよ。

 広大君に見放されてしまった。

 暇になった僕は手帳を取り出すと、容疑者リストを更新した。


 容疑者リスト

●クマゼコ~妖怪?殺害方法がクマゼコの特徴と一致。五本爪。

●芦刈喜則~七軒屋住人。第一発見者。消去法で最有力容疑者。

●首藤医師~遺体を自分に偽装して失踪。殺害の動機不明。

●塩市拓谷~入田、服部、首藤に恨みがある。行方不明。

●田口公正~元七軒屋住人、行方不明。塩市拓谷と接触?


 塩市拓谷と連絡を取り合っていたという田口公正を追加してみた。

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