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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第二章「宗家の宝」
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容疑者リスト③

「原尻さんが、一番、塩市拓谷さんと親しかったそうですね」

「ああ、そうかもね。タクは友達があまりいなくて、何時も一人ぼっちで可愛そうだったから、一緒に遊んでやっていたよ」

 ぶっきら棒に答えてから、背後の是永社長を振り返った。是永社長は腕組みをしたまま押し黙って座っていた。怒りを押し殺しているように見えた。原尻君は慌てて目を逸らすと、膝元に視線を落とした。

 是永社長の目が「しゃんとしろ!」と怒っていた。

「塩市拓谷さんを探しています。今、彼がどこにいるのかご存知ありませんか?」

「さあ?タクが辞めてから、ずっと会っていないからね。そう言えば、会社を辞める前、どこかに行くみたいなことを言ってたっけな」

「どこに行くと言っていたのですか?」

「さあ、具体的にどことは言っていなかった。どっか、その辺じゃない」

 要領を得ない。

「会社を辞める前、塩市拓谷さんに変わったところはありませんでしたか?」

「変わったところ? ああ、あったよ。ここを辞める前、タクのやつ、急に付き合いが悪くなって、会社に居残って、何かこそこそ作っていたみたいだった。あいつ、会社の機械を勝手に使って、隠れて何か作っていた」

 原尻君がまた是永社長の様子を伺った。社長には黙っていたようだ。

「何を作っていたのでしょうか?」

「さあ、俺には何も教えてくれなかった。見せてもくれなかった。分からないな。それに、会社を辞める前は、誰ともほとんど口を利かなくなっていた」

「誰とも口を利かなくなっていたのですか?」

「なんかね、他にダチが出来たみたいだった」

「ダチ? 他に知り合いが出来たと言うことですね?それは、どんな人だったのですか?」

「悪いね。俺、よく知らない。何となく、そう思っただけだから。ただ、休み時間とかに、携帯で誰かと連絡を取り合っていた。俺はてっきり女でも出来たのだと思って、冷やかしたことがあるんだけど、そんなんじゃない!って、あいつ、マジ切れしてさ」

「その塩市さんの知り合いに関して、何でも結構です。分かりませんか?電話の会話を、小耳に挟んだりしていませんか?」

「そうだねえ・・・そういやぁ・・・」

「何でしょう?」

「電話の相手、変わった名前だったよ。さんのさんって呼んでいた。さんのって、どういう字を書くんだろうって思った」

「さんのさん?」

――ああ、それは。

 と広大君が言う。参の屋さんと言っていたのではないかな? と囁いた。

「隈井さん、ひょっとして参の屋じゃあ・・・」と小声で囁くと、「参の屋!」と隈井さんが眦を吊り上げた。

 隈井さんの声に、原尻君が「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。

 参の屋は七軒屋のひとつ、田口家だ。

 黒枝裕紀さんをイノシシと見間違えて射殺してしまった田口公正さんは妻子に逃げられ、村から姿を消している。住民票は七軒屋のままだ。その田口さんが中津で塩市拓谷さんと知り合ったのかもしれない。

 七軒屋に対して複雑な感情を持つ二人だ。二人の出会いが、良からぬケミストリーを生んだ可能性があった。

「参の屋・・・ううむ・・・ところで、塩市拓谷さんが七軒屋という耶馬溪の山奥の村の出身だということはご存知でしたか?」

「七軒屋?」原尻は視線を斜め上に向けて考えてから、「タクは子供の頃から中津に住んでいたって聞いたような気がする」と答えた。

「そうですか、七軒屋では宗家と呼ばれた家柄の出身だったようなのですが、何か聞いていませんか?」

 隈井さんが食い下がったが、原尻君は「さあ、分からない」と素っ気無かった。

「では、塩市さんは車か何か、交通手段を持っていましたか?」

 中津から七軒屋まで公共交通機関はない。七軒屋に行くには自前の交通手段が必要となる。

「車? 免許は俺と一緒にとったけど、車は持っていなかったよ。おふくろさんが入院して治療に金がかかっていたから、車を買う余裕なんてなかったはずだ」

「なるほど・・・」

「でも、オフロードのバイクを持っていたかもしれない」

「バイクですか?」

「ああ。会社辞めてから一度、タクがバイクに乗っているのを見た。お袋さんが亡くなって、入院費がかからなくなったので、タク、バイクを買ったんだと思った。まあ、タクによく似たやつだったのかもしれないけどね。悪いね、自信ないや」

「塩市拓谷さんはどういう人でしたか?明るいとか、暗いとか――」

「タクかい? 普通だね。どちらかと言えば、大人しい方かな。そうそう、あいつ血を見るのがダメだったね。ホラー映画とか女の子みたいに怖がるんだ」

 原尻君は楽しそうに笑った。

「最後に、塩市拓谷さんの写真をお持ちではありませんか?」

 隈井さんが尋ねると、「携帯にあいつと撮った写真が残っていたかもしれない」と原尻君はポケットから携帯電話を取り出した。

 やがて、「あった、あった」と二人で撮った写真を見せてくれた。

 塩市拓谷さんは髪の毛を茶色に染めたごく普通の若者だった。背格好は目の前の原尻君とほぼ同じで細い。最近の若者らしく、細く揃えた眉毛に四角い顔、顎の細い青年だ。

「この写真、頂けますか?」

 隈井さんが尋ねると、「メール・アドレスを教えてよ。転送するから」と原尻君が答えた。原尻君に写真を転送してもらうと、隈井さんは「是永さん。塩市さんの私物で、何か残っているものはありませんか? 服や帽子、何でも結構です。塩市さんが使っていたものであれば、何でも」と是永社長に声をかけた。

 塩市拓谷さんの指紋、DNAが欲しいのだ。

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