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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第一章「クマゼコの呪い」
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悪魔の正体④

「当時、私は独身でしたので、晴美との結婚を考えました。でも晴美が戸籍をいじるのを嫌がりました。今、考えると、戸籍を変更すると、七軒屋の悪魔たちに居場所が知れてしまうかもしれないと怯えていたのでしょう。結局、籍は入れないままでした。ずるずると七年も一緒に暮らしました。

 拓谷には、お父ちゃんと呼ばれていました。端から見ると実の親子に見えたと思います。結局、晴美は私との生活に満足できなくなり、私のもとから去って行きました。その頃には私に頼らなくても生きて行く術を覚えていたからでしょう」

「晴美さんは七軒屋の入田孝道さんと服部順治さん、それに首藤医師の三人を恐れていたということですね」

 今回の事件関係者ばかりだ。

「三人以外にも七軒屋の住人全てを恐れていたように思います」

「それで、橋内さんと別れてから、晴美さん親子はどうなったのでしょうか?」

「私と分かれてから、拓谷の話では、晴美は水商売をやっていたようです。晴美は世間知らずでしたから、手っ取り早く金を稼ぐとなると、水商売くらいしかなかったでしょうね。美人でしたし。拓谷が高校を出てからは、代わりに働いて、晴美を養っていたようです。母親はあんなですけど、拓谷はしっかりした子でした」

「晴美さんは一年ほど前に病気で他界されたということです。ご愁傷様です」

「聞きました。まだ若かったのに可愛そうに・・・思えば不幸で悲しい人生でした。私に相談してくれれば、出来る限りのことはしたんですけどね。拓谷も一言、言ってくれれば・・・最後に会った時、晴美は死んでいたはずです。それなのに、何も教えてくれなかった。水臭い」

「晴美さんは、橋内さんと一緒に暮らしていた頃が一番、幸せだったのでしょう。拓谷さんも橋内さんの前では、見栄を張っていたかったから、お母さんが亡くなって苦労しているとは言えなかったのでしょう」

 クールに見えて優しいところがある。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると、少しは気が楽になります。晴美がそう思ってくれていたとしたら、私も嬉しいですね。晴美と別れてから、今の女房と出会い、結婚して、私は幸せになりました。ですが、何時も心の片隅で、晴美も幸せになっていてくれれば良いなと願っていました」

「他に何でも結構です。塩市拓谷さんの行方を知る手がかりになりそうなことを、ご存知ありませんか?」

 橋内さんは眉を寄せて暫く考えた後で、「そう言えば――」と話しはじめた。

「拓谷の行方を知る手がかりになるかどうか分かりませんが、あの子は宗家のお宝に異常に執着していました」

「宗家のお宝ですか!?」

 驚いた。まさか宝探しが絡んでくるとは思ってもいなかった。

――凄いことになったね。

 広大君の興奮した声が頭の中で響いた。

「塩市丸が大友館から逃れる時に持って逃げた、大友家の家宝だそうです。拓谷から聞いた話の受け売りなのですけど・・・」

 橋内さんはそう言って、宗家の宝のこと教えてくれた。

 大友宗麟は博多の商人、島井宗室を重用し、貿易特権を与える代わりに莫大な軍資金の調達を命じた。島井宗室は当時、中華の大地を支配していた明や李氏朝鮮と貿易を行うことにより、巨万の富を築き上げていた。

「中国の明の時代の終わり頃の皇帝で、ええっと・・・すう・・・なんとかと言う名前だったと思います。拓谷から何度も聞かされて、昔は覚えていたのですが・・・」

――ああ、それは崇禎帝だね。明朝最後の皇帝だ。

 と広大君が教えてくれた。広大君は何でも知っている。

「崇禎帝ですね。明朝最後の皇帝の――」

 僕が言うと、「ああ、それだ! それ、それ」と橋内さんが大きく頷いた。

「ほう~」隈井さんが感心してくれた。

 宗家の宝は、島井宗室より献上を受け、大友家で保管されていたものらしい。明末の崇禎年間に景徳鎮民窯で焼かれた陶器だ。どんな陶器なのか、詳しいことは分からないが、値打ち物の逸品だと塩市家で言い伝えられて来た。

 この宗家の宝が行方不明なのだ。

 拓谷の祖父、義谷は一風変わった人物だったようで、村人が、この宗家の宝を我が物にしようと狙っているという被害妄想に陥り、宝を何処かに隠してしまった。宝の隠し場所を家人に告げずに、死期を悟ってから暗号のような言葉を残した。

「ちょっと良いですか? 何か書くものはありませんか?」と橋内さんが言うので、供述調書の紙とペンを渡した。

 橋内さんはさらさらと癖のある字で書いた。「有欲不見、無欲即見、頭高不顕、身低即顕」それが義谷の書き残した言葉だった。

 宗谷は困窮してから、随分、熱心に宗家の宝を探したらしい。だが、結局、宝を見つけることが出来なかった。

「拓谷も父の遺志を引き継いで、宗家の宝探しに興味があったようです。義谷の書き残した暗号の意味を、私も一緒になってよく考えました。そして、宗家の宝を発見する自分たちの姿を想像して興奮したものです。この暗号のような言葉を解こうと、二人で知恵を絞って、必死になって研究したので覚えてしまいました」

「拓谷さんはその宗家の宝を見つけたのでしょうか?」

「分かりません。でも、拓谷が宗家の宝を発見して、幸せになっていてくれれば良いのですが」

――謎めいた言葉だね。無欲で謙虚な人間ならば、宗家の宝を見つけることができる。そういう意味だろう。

 広大君が言う。「なるほど、そう言う意味なんだ」とうっかり口にしてしまったので、隈井さんと橋内さんがまじまじと僕の顔を見つめた。僕は「無欲で謙虚な人間だけが、宗家の宝を見つけることができるという意味ではないでしょうか」と言い訳した。

「へえ~そういう意味だったのですね」と橋内さんが驚いていた。

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