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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第一章「クマゼコの呪い」
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悪魔の正体③

 矛先は逃げ場のない晴美さんに向かった。晴美さんは宗谷のストレスのはけ口となり、幼い拓谷を抱えて、家中を逃げ回った。宗谷の乱行は村人の知るところとなったが、誰も宗家のやることに口を出せないでいた。

 そんな中、悲劇が起こった。

 宗谷が突然、身罷ったのだ。

「塩市宗谷さんが亡くなったのですか!?一体、何故?」

「事故だったみたいです。酔っぱらってひっくり返り、かまどか何かに頭をぶつけて亡くなったと聞きました」

 地獄のような日々が、突然、終わりを告げた。だが、晴美さんにとって、宗谷の死は新たな地獄の始まりだった。更なる不幸が晴美さんを襲う。

「七軒屋時代のことは、晴美は話したがりませんでした。私もはっきりとは知らないのです。きっと、私に知られたくなったのでしょう。実は、その後のことは拓谷から聞いたのです」

「ほう~拓谷さんから!?」

「晴美から聞いたのでしょうね。拓谷がこっそり教えてくれたのです。結構、最近ですよ。当時のことを知ったのは。そうそう、前に食事をした時だったと思います。その話を聞かされ、晴美が村を離れた訳を話したがらなかった訳が頷けました。私に言えなかったのも無理はありません」

 宗谷が亡くなると、入田家を継いだばかりだった入田孝道が宗家に乗り込んできた。

「もともと養女を嫁に出す時に、最初の臥所の相手は養家の者が勤める決まりだった。それが長い間、娘を養ってきた養い親に対する褒美のひとつだ。それに養女を娶る側は田畑を割いて、養家に送る慣わしだ。それもこれも、お前が宗家の嫁となったので、うちの親父は全てを遠慮した。今こそ、借りを返してもらう時だ。宗家亡き今、お前も、塩市家の財産も、全て壱の屋のものだ。俺がもらって何が悪い!」

 入田はそう言って、嫌がる晴美さんを組み敷いた。入田は塩市家を乗っ取った。

 入田の母親は塩市家の娘だったので、宗家の主、宗谷とは従兄弟同士の間柄で、血縁的に宗家に近かった。宗谷亡き後、自分が宗家を継ぐのは当然だと思っていた。

 そのことを知った弐の屋、服部家の当主、順治は、そうはさせまいと塩市家に乗り込んで来た。腕っ節が強かった服部は腕力で入田を塩市家より放り出すと入田に取って代わった。家屋敷は勿論、晴美さんさえも我が物とした。

 騒動は続く。入田の訴えを受けて、村の村医、首藤招運が仲裁と称して塩市家にやって来た。そして服部に塩市家の家財を入田と折半することを提案した。

 塩市家の屋敷と屋敷の周りの田畑は入田に譲り、屋敷から離れた村でもっと良い場所にある田畑を服部が分け取りにするという提案だった。そして、あろうことか晴美さんは入田、服部そして首藤医師三人の共有にするという破天荒な提案だった。

 かねてから晴美さんの美貌に横恋慕をしていた首藤医師は、こうして、ついに晴美さんを手に入れた。

 三人で晴美さんを共用する。鬼畜のような自堕落な生活が始まった。そして、三人は息子の拓谷さんが邪魔になった。入田のものとなった屋敷内で、犬のように養われていた拓谷さんだったが、いずれ成人して三人の行いが分かるようになると復讐を企てるだろう。

 曲がりなりにも宗家の血を引く跡取り息子だ。拓谷さんが復讐を企てた場合、誰が味方をするか分からない。村で三人に同情するものなど、誰もいないのだから。

「今の内に事故に見せかけて殺してしまった方が良い」

 三人は密議を重ねた。

 三人の密談を漏れ聞いた晴美さんは焦った。このままでは拓谷さんが、わが子が殺されてしまう。三人の中で比較的御し易い、首藤医師の相手を勤める夜を待った。首藤医師の寝入った隙に部屋を抜け出すと、晴美さんは拓谷さんを連れて、命からがら村を逃げ出した。

「私が拓谷から聞いたのは、そんな鬼畜のような男たちの所業でした」

 橋内さんは細く長く息を吐いた。

 橋内さんが語った凄まじい時代錯誤な男たちの所業に、やり場の無い怒りを感じた。隈井さんは口をへの字の結び、腕組みをして渋い表情を浮かべていた。僕と同じように、橋内さんの話に衝撃を受けているのだ。

「全く・・・何と言って良いのか・・・そして、橋内さんは中津市内に逃げてきた塩市母子と出会ったのですね?」

「当時、私はスーパーの店員をしていました。そこでレジのパートに応募して来た晴美と出会いました」

 晴美さんは宗家の預金通帳と印鑑を持ち出していた。とは言え、落ちぶれた宗家に残っていた蓄えなど、たかが知れたものだった。中津市内に居を構えると、生きて行く為に、働きに出なければならなかった。

 七軒屋で育ち、宗家の嫁として、労働と無縁の生活を送ってきた晴美さんにとって、働いて報酬を得ることは簡単なことではなかった。浮世離れした晴美さんは野菜の区別すらつかず、スーパーのレジ打ちの仕事を満足にこなすことができなかった。

 程なく、スーパーの経営者からクビを言い渡される。

 スーパーをクビになると、晴美さんは真っ先に橋内さんに行く末を相談した。橋内さんが晴美さんの美貌に惹かれていることを、察していたようだ。

 そして、晴美さん親子は橋内さんに寄生して生活するようになった。

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