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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第一章「クマゼコの呪い」
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悪魔の正体②

「ええ、まあ。私がよく知っている拓谷は、十年以上も前の子供の頃の拓谷です。晴美――拓谷の母親とは、その・・・まあ一時期、特別な関係にありまして、一緒に暮らしていたことがあります。血の繋がりはありませんが、拓谷から、お父さん呼ばれて、慕われていたと自分では思っています。晴美が、その、拓谷に、ちょっと冷めたようなところがありまして――」

「冷めたようなところ?」

「いえ、別に、冷たく当たっていたとか、折檻していたとかいう話ではありませんよ。何となく、端で見ていて、親子にしてはちょっと距離があるような感じがしていただけです。晴美は特別な育ちでしたので、そのせいでしょう。拓谷は母親に甘えられなかったせいか、私に懐いてくれました。でも、まあ、籍を入れた訳ではなかったので、晴美と別れてしまうと、自然、拓谷とも疎遠になってしまいました」

 橋内さんが遠い目をした。

「全然、会っていなかったのですか?」

「そうですねえ~たまにあいつから連絡があってね。その時は、一緒に飯でも食おうと誘って、食事をました。そんなことが、年に一、二度ありましたか」

「それで、最近、拓谷さんと会いましたか?」

「鉄工所を辞めたことも知らなかったくらいですから、会っていませんでしたね」

「拓谷さんは、七軒屋の悪魔というブログで、七軒屋のことを紹介されていました。拓谷さんは七軒屋の出身だったのですか?」

「さっきも刑事さんから聞きましたが、拓谷のやつ、そんなブログを立ち上げていたのですね。知りませんでした。ええ、拓谷は七軒屋の生まれです。村で宗家と呼ばれていた塩市家の出身です」

「塩市拓谷さんが、七軒屋を出たのには何か訳があるのでしょうか?」

 隈井さんの質問には答えずに、橋内さんは「七軒屋のある辺りにはクマゼコという妖怪が出ると言う伝説があります。クマゼコは体が熊で顔が猿、子供をさらって、油を取ると言われている妖怪で、土地の者には随分と怖がられています」と話題を変えた。

「クマゼコのこともブログに詳しく書かれていました」

「クマゼコとは七軒屋の住人のことだと、拓谷が言っていました。ブログに七軒屋の悪魔なんて名前をつけたのも、何となく分かる気がします。塩市母子は七軒屋の悪魔たちに村を追われたのですからね」

「村を追われた? 拓谷さんもブログで七軒屋の住人は悪魔だと言っていましたが、どういう意味でしょうか? もう少し詳しく話してもらえませんか?」

 橋内さんは椅子に座り直すと、塩市母子と七軒屋の因縁について話し始めた。


 七軒屋は戦国時代に大友氏の落ち武者が、山間の偏狭の地に定住して作られたと考えられている。狭い村だ。村人同士での婚姻が相次いだ。七軒しか家がなかったことより、時代が下るにつれて血が濃くなり過ぎる状況となってしまった。

 そこで当然、新たな血を求めて村外に手を伸ばすことになる。

「あの村は呪われた村だ」と橋内さんは言う。

 江戸期になると、七軒屋の住人は山裾の村落から女の子をかどわかして来て育て、村人の嫁とするという蛮行を繰り返した。このため七軒屋の近隣の村落では、クマゼコ妖怪伝説が広まった。

 村で女の子ばかり誕生した場合に、まれに男の子をかどわかして来ることもあったが、間引きの習慣のあった山里の僻村では、常に成人女性が不足する事態となっていた。

「拓谷が、七軒屋の住人こそが悪魔の正体だと言ったのだとしたら、きっとそのことだと思います。そして、そんなクマゼコ伝説最後の犠牲者が、拓谷の母であった塩市晴美なのです」

 橋内さんはそう言って目を伏せた。

 晴美さんは孤児だった。どういう経緯か分からないが、壱の屋こと入田家の先代、入田直道に引き取られた。昭和の世となり、流石に他村から子供をかどわかしてくることが出来なくなっていた。村の男たちの花嫁候補として、見目良い孤児の女の子を引き取るという方法を取っていたのだろう。

 やがて美しく成長した晴美さんは、宗家である塩市家の嫁となった。

「晴美が嫁いだ時の塩市家の嫡男を塩市宗谷と言いました。親同士、家同士で決められた結婚でしたが、夫婦仲は良かったようです。晴美は宗家の嫁として村中の尊敬を集めました。満ち足りた生活だったことでしょう。当時のことを話す時、晴美はあの頃が一番、良かったと口癖のように言っていました」

「ほう~その頃は宗家がまだ村にあったのですね」

 そんな七軒屋にも、過疎化の波が押し寄せる。

 戦後となり、高度経済成長期となると、農村の価値観が崩壊していった。七軒屋では村を捨て、都会に働きに出る若者が相次いだ。

 塩市家は平地の少ない村で貴重な畑を所有し、小作人に耕作させることで潤って来た。だが、その小作人が村から離散してしまったのだ。人手不足となり、せっかくの畑が荒地同様となった。

 折りしも、宗谷の父母が相次いで亡くなり、宗谷が跡を継いだ。だが、跡取り息子として温室栽培された宗谷に、激動期を乗り切って行く器量などなかった。畑は益々、荒れ放題となった。

「拓谷が生まれた頃には、宗家の暮らしはにっちもさっちも行かない状態だったようです。宗家は困窮し、旦那は酒に溺れるようになった。そして、溜め込んだ鬱憤を晴らかのように、酒を飲んでは暴れるようになりました。家庭内暴力の始まりです」

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