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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第一章「クマゼコの呪い」
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悪魔の正体①

 監察医によれば、検死をするまでもなく、遺体が首藤医師のものではないことは明白だそうだ。年齢が違う。そういうことだ。

 首藤医師は六十過ぎ、頭部が無くても遺体が六十歳を過ぎていないことは一目瞭然だった。二十代後半から、せいぜい三十代と言うのが監察医の見解だ。

 若い。遺体が首藤医師でないとすると、入田家で殺されていたのは誰なのかという問題が重くのしかかってくる。とにかく住人の少ない村だ。対象となる住人はいない。外部からやって来たとしか思えない。

 それに、遺体が首藤医師でないとすると、首藤医師はどこに行ったのかという問題が出て来る。首藤医師が愛用していた軽自動車は診療所の前に停められたままだ。徒歩で山を降り、行方をくらましたことになる。

 いずれも頭の痛い問題だった。

「どういうことでしょう?」

 隈井さんに意見を伺うと、「被害者が誰だったのかという問題が残るが、遺体が首藤医師のものではなかったとなると、一連の事件の犯人が首藤医師だった可能性が高くなる。三人の遺体のうち、首藤医師と見られる遺体だけ、頭が無かった。何故、犯人は遺体の頭部を切断して持ち去ったのか? 首藤医師が犯人だったとすると、その答えが見えて来る」と答えた。

「他人の遺体を自分の遺体と見せかける為ですか?」

「首を切断し、白衣を着せておけば、遺体は首藤医師のものだと勘違いするだろう」

「でも、監察医に言わせれば、年齢が違い過ぎるので、遺体が首藤医師のものではないことは一目瞭然だそうです。医師である首藤医師がそのことが分からないはずはないと思うのですが」

「良いね。なかなか鋭いな。逃亡の時間を稼ぎたかっただけかもしれない」

 隈井さんの言葉に、広大君が反応した。

――でも、日頃、乗っていた軽自動車を置いて行っている。逃げるのなら、車の方が良かったんじゃないかな。

「今は止めてくれ」と考えたつもりだったが、冒頭の「今は――」が声に出てしまった。案の定、「うん?」と隈井さんが怪訝な表情をした。

――まあ、山に逃げ込んだとすると、車は必要ないか。

 僕は咄嗟に言った。「いえ、徒歩だと移動距離が限られます。中津の町に下りてくれば、探しようがありますが、山に分け入られると、厄介ですね」

「無論、逃げたのなら山だろうな。町に逃げるのなら、車に乗って行ったはずだ」

 隈井さんは分かっている。

「山狩りですかね?」

 噂に聞いていたが、未だに山狩りというものに参加したことがない。体力的に不安だが、好奇心はあった。

「面倒だが、あり得るな」

 七軒屋での事情聴取を終えた僕らは中津に向かうことになった。橋内豊という人物に会う為だ。

 県警本部より連絡があった。

 広大君が発見した「七軒屋の悪魔」というブログについて、ブログの運営会社に管理者名を問い合わせていた。その回答があり、それによると、ブログ管理者は塩市拓谷という人物だった。

「塩市⁉ 七軒屋に所縁のある人物のようだな」

 隈井さんが言うまでもなく、七軒屋にかつてあった宗家、塩市家所縁の人物だと考えられる。住所は中津市在住となっており、隈井さんが旧知の中津署員に調べてもらったところ、塩市拓谷は住民票に記載の住所に住んでいなかった。母子家庭で母親と二人暮らしだったようだが、昨年、母親を病気で亡くし、勤めていた鉄工会社を辞め、アパートを引き払っていた。

「事件に巻き込まれたのでしょうか?」

「勤務先の鉄工所へは、自分から、辞めたいと言ったらしい。アパートの解約も自ら行っている。自らの意思で姿を消したようだ。事件や事故に巻き込まれた可能性は低いと、中津署の刑事が言っていた」

「そうですか。話を聞きたかったのですが残念です」

「なあに。中津署で塩市拓谷と親しかった人間を探しておいてくれた」

 それが橋内豊だ。塩市拓谷の母親と一時期、内縁関係にあったようだ。血のつながりはないが、塩市拓谷は彼をお父さんと呼んで慕っていたという。

「彼が何か知っているかもしれませんね。期待できそうです」

「橋内さんを中津署に呼んであるらしい」

 こうして、僕らは中津署に向かった。

「今日は一番で頼むよ」

 中津署に到着すると、そう署員に声をかけられた。

「分かりました」

 かつての職場だ。「こっちだ」と隈井さんに案内された。一番とは一番取調室のことだった。

 殺風景な室内に、大きすぎる鏡が壁一面に張られている。マジックミラーになっているのだ。取調室には腹の出た中年の男性が一人、椅子に座っていた。橋内豊だ。染めているのか、髪の毛が赤い。下唇が垂れ下がったように見え、男の人相を貧相に見せていた。

 僕らが取調室に入ると、さっと身構えたようだった。

「橋内豊さんですか? 塩市拓谷さんについて、知っていることを教えて頂けませんか?」

 隈井さんの言葉に、「拓谷が何か悪いことでもしたんですか?」と心配そうな顔をした。

「いえ、そうではありません。塩市拓谷さんに話をお伺いしたくて探しているだけです。彼が何処に居るのかご存知ありませんか?」

「さあ、知りません。鉄工所で働いていたのは知っていましたが、辞めたみたいですね。さっき、刑事さんから教えてもらいました」

 中津署で事前に事情聴取を行ったようだ。

「拓谷さんと親しかったとお聞きしました」

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