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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第一章「クマゼコの呪い」
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あなたのせい④

 こちらの意図など、お見通しだった。頭ははっきりしている。

「それじゃあ、遠慮なく」と隈井さんが部屋の中を見て回り始めた。

 必然、僕が芦刈さんの話し相手となった。

「刑事さん、順さんたちを殺したやつを見つけてくれ。あれがクマゼコの仕業なら、由紀さんもあきらめがつくだろう。人の仕業となると、何で、順さんが殺されなきゃならなかったのか、由紀さんは知りたがるだろう。わしもだ」

「全力を尽くします。ところで芦刈さん、殺された三人に恨みを持っていた人物に心当たりはありませんか?」

「恨み? 藪医者の首藤先生と偏屈者の孝道さんはともかく、順さんは良い人だ。人から恨まれることなんてなかった。だから、わたしは、クマゼコの仕業だと思っている。化け物なら順さんが良い人だと分からないからな」

「今のお話だと、首藤医師と入田さんは誰かの恨みを買っていたのですか?」

――おっ、良いところを突くじゃない。

 広大君がひやかす。うるさい!と頭の中で怒鳴った。

「はは、言葉のあやだよ。首藤先生は藪医者だったし、身勝手な性格だったから、患者の恨みを買うことがあったかもしれない。孝道さんは人付き合いの悪い人だったから、誤解されることがあっただろう。それでも、二人共、殺されるほど憎まれていたとは思えない」

「首藤医師にご家族はいなかったのですか?」

「いないはずだ。大昔には村のおなごと良い仲になったことがあるが、ずっと一人だった」

「入田さんはいかがです?奥さんを亡くされたばかりだとお聞きしました」

「ああ、由香里さんは旦那と違って愛想の良い人だった。子供はおらんかったが、入田は再婚で、前の奥さんとの間に女の子が一人いた」

「前の奥さんは事件のことを知っているのでしょうか?」

「さあ、どうだろう。孝道さん、由香里さんと結婚する時に、前の奥さんと子供を家から追い出してしまったからなあ~今、どこで何をしているのやら。誰も知らない。ひょっとしたら、孝道さん自身も知らなかったんじゃないかな」

「そうですか。服部さんのご家族は? 奥さんがいることは分かっていますが――」

「順さんとこには順一郎君と言う一人息子がいる。今は・・・たしか・・・博多で働いているはずだ。仕事が忙しいみたいで、なかなか村に帰って来ない。由紀ちゃん、ちゃんと連絡を取っているのかな」

「それじゃあ、黒枝さんは? お一人で暮らしているようですが、ご家族はいらっしゃらないのですか?」

「幹江さんかい」途端に芦刈さんは気の毒そうな顔をした。

「まったく、気の毒な話だ。昔はな、加志崎という家が村にあって、馬廻と呼ばれていた。分家と合わせて、結構な人が住んでいたんだが、加志崎の先代が亡くなった頃から、一族で村を捨てるもんが相次いでな。あっという間に、誰もおらんようになってしまった。

 まあ、加志崎のもんに限ったことじゃない。とにかく、加志崎のもんは、あんま畑を持っていなかったからな。よその畑の手伝いをしたり、豚を飼ったりして、しのいでおった。戦後、一時期、豚は良かったんだが、オイルショックの頃から値段が下がり出してな。加志崎のもんは生活に困るようになってしまった。食べて行けなくなって、村を捨てたって訳だ。幹江さんは加志崎の分家から黒枝に嫁いで来た。裕紀さんと一緒になってから、実家が無くなってしまって帰る場所がなくなってしまった」

「夫婦仲が悪かったのでしょうか?」

「裕紀さんは無口なお人だった。ちょっと癖があったが、悪い人ではなかった。夫婦仲は悪くはなかったと思う」

「旦那さんは確か・・・」

「ああ。あの年はイノシシが仰山、山に出て畑を荒し回っていた。こりゃあ、どうにかせにゃならんという話になって、裕紀さんと公正さんが駆除に当たった。それがあんなことになってしまった」

「猟銃の誤射事件ですね」

 隈井さんが担当した事件だ。

「公正さんも可哀想だった。裕紀さんを撃ち殺してしまってから、夫婦仲がぎくしゃくし始めて、あっちゃんは、子供たちを連れて、家を出て行ってしまった」

「あっちゃん?」

「ああ、奥さんの敦子さんのことだ。あっちゃんと息子さんたちが出て行ってしまってから、公正さん、村に居づらくなってしまったのだろうなあ~色々、言うやからがいたからな。ある日、突然、村から姿を消してしまった。なんもかんも残して、突然、いなくなった。何時またひょっこりと戻って来るか分からないから、屋敷だけは管理してやっている」

「奥さんやお子さんたち、今は中津にいるそうですね?」

 隈井さんが中津で長男と会ったと言っていた。

「そうらしいな。村のもんは町に出ても、うまくやって行けないものが多いから、あっちゃんたちも苦労しているだろう」

「それで、黒枝さん夫婦に、お子さんはいらっしゃらないのですか?」

「子供。おったよ。大紀君だ。裕紀さんが亡くなったのは、大紀君の事件の後だったから、幹江さんの悲しみようは、そりゃあ、端で見ておれんほどだった」

「大紀君の事件?」

 まだ何かある。これは隈井さんも初耳のはずだ。

「裕紀さん夫婦には大紀君と言う一人息子がいた。早うに亡くなってしまったからなあ。本当に気の毒なことだった」

「何があったのですか?」

「自殺したんだ。休みの日に仕事しておって、会社の窓から飛び降りた。大人しい子だったから、色々、人に言えん悩みを抱えていたんだろう。可哀想に」

 都会に憧れた若者が休日出勤の最中に、会社の窓から飛び降りて自殺した。そういうことらしい。

「自殺ですか・・・旦那さんを事故で無くし、息子さんまで亡くされた。本当にお気の毒です」

 そう答えた時、隈井さんが戻って来た。

「何かあったかな?」

「いいえ。何もありませんでした。少なくても、今日のところは」

 隈井さんはまだ芦刈さんのことを疑っているのだろうか?

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