第四十六話 朝市の笑顔
翌朝。
港町は、朝日に照らされながらゆっくりと目を覚ましていた。
宿の窓を開けると、潮風が部屋へ吹き込む。
どこからか、魚市場の威勢のいい声が聞こえてくる。
「もう始まってるんだ。」
蒼真は大きく伸びをした。
昨日の灯籠流しが夢だったような、穏やかな朝だった。
◇
朝食を終えた四人は、女将に教えてもらった朝市へ向かう。
港には、新鮮な魚や野菜がずらりと並び、人々の笑顔が行き交っていた。
「いらっしゃい!」
「今朝、水揚げされたばかりだよ!」
店先から元気な声が飛んでくる。
陸は興味津々で見回した。
「見たことない魚がいっぱいだ。」
店の主人が笑う。
「瀬戸内は宝の海じゃけぇ。」
「季節ごとに、違う魚が並ぶんよ。」
潮は魚の名前を一つひとつ教えてもらいながら、熱心に話を聞いていた。
◇
澪は干物を並べるおばあさんの店で足を止める。
「きれいですね。」
「毎朝作っとるんよ。」
「昔は港中がこんな店だったんじゃけどねぇ。」
少し寂しそうに笑うおばあさん。
「若い人が少なくなってきてね。」
その言葉に、蒼真は胸が少し痛んだ。
旅をしていると、美しい景色だけではなく、土地が抱える現実にも出会う。
それでも、この町の人たちは笑っていた。
だからこそ、この笑顔を未来へ繋ぎたいと思えた。
◇
市場の一角で、小さな男の子が笛を吹いていた。
まだ幼い手つき。
音も少しかすれている。
それでも、一生懸命だった。
源蔵が目を細める。
「祭りで吹く笛の練習じゃ。」
「昔は子どもがたくさんおった。」
「今は少ないが、それでも受け継ごうとしとる。」
男の子は四人に気づくと、照れくさそうに笑った。
「来月のお祭りで吹くんだ。」
「まだ上手じゃないけど。」
陸はしゃがみ込んで親指を立てる。
「絶対うまくなるよ!」
その一言に、男の子の顔がぱっと明るくなった。
◇
その様子を見ていた蒼真の胸元で、神代の鍵がほんのりと温かくなる。
光は誰にも見えないほど淡い。
けれど、それで十分だった。
タケルが小さく笑う。
「神は、大きな奇跡ばかりを望んではいない。」
「こうして誰かが誰かを励ます、その心にも宿る。」
蒼真は静かに頷いた。
この旅で集めているのは、歌だけではない。
人の優しさもまた、神代の航路を照らす灯なのだ。
◇
朝市を後にすると、源蔵が声をかける。
「午後、少し船を出そうと思う。」
「沖から見る港は、また違う顔をしとる。」
四人は顔を見合わせ、笑顔で頷いた。
「ぜひお願いします!」
瀬戸内の海は、今日も穏やかだった。
その青い海の向こうには、まだ見ぬ島々と、新しい出会いが待っている。




