第四十話 天空の鳥居
小豆島を離れたフェリーは、穏やかな瀬戸内海を西へ進んでいた。
甲板に立つ蒼真は、ゆっくりと遠ざかる島を見つめる。
オリーブ畑。
岬の灯台。
祭り火が灯ったあの港。
もう姿は小さくなっていた。
「また来よう。」
誰に言うでもなく呟く。
「来年の祭り。」
澪が隣で微笑んだ。
「約束したもんね。」
蒼真は静かに頷いた。
◇
午後。
香川県西部へ到着した四人は、山道を歩いていた。
目指すのは、瀬戸内海を見渡す山の上。
長い石段が続いている。
陸が空を見上げた。
「……また階段?」
潮が笑う。
「金刀比羅宮で慣れたでしょ。」
「慣れるものじゃない。」
そのやり取りに、澪と蒼真も吹き出した。
旅を始めた頃には考えられなかった。
こんな何気ない会話が、今は心地いい。
◇
石段を登るたび、景色が少しずつ開けていく。
潮風が頬を撫でる。
鳥の声が山に響く。
そして最後の石段を上ると――。
四人は思わず足を止めた。
◇
眼下いっぱいに、瀬戸内海が広がっていた。
大小さまざまな島々。
陽の光を受けて輝く海。
その景色を見守るように、山頂には大きな鳥居が立っている。
ここは、高屋神社。
「……すごい。」
澪が小さく息を漏らす。
陸も珍しく言葉を失っていた。
「写真じゃ伝わらないな……。」
潮は黙って鳥居の向こうを見つめる。
◇
蒼真は鳥居の前へ歩み寄る。
風が吹いた。
その瞬間だった。
神代の鍵が、静かに震える。
今までのような激しい光ではない。
優しく呼びかけるような輝きだった。
海の上に一本の光が伸びる。
さらに一本。
また一本。
淡路島。
小豆島。
瀬戸内に浮かぶ島々が、黄金の線で結ばれていく。
まるで巨大な星座のように。
◇
タケルが静かに語り始めた。
「神代の航路とは、神だけが通る道ではない。」
「人が祈りを運び、祭りを伝え、文化を繋いできた道だ。」
「だから歌も、祭りも、人がいて初めて完成する。」
蒼真は、これまで出会った人たちの顔を思い浮かべる。
凪島の人々。
淡路島の宮司。
鳴門の漁師たち。
ひまり。
祭りを復活させた島のみんな。
神代の航路は、神話だけではできていない。
人の想いが積み重なってできた道なのだ。
◇
その時、鍵から新たな光が空へ舞い上がる。
光は鳥居をくぐり、西の空へと一直線に伸びた。
空中に、古い文字が浮かび上がる。
――四つ目の歌は、水の都に眠る。
――流れを辿れ。
――人の営みが、水と共に息づく地へ。
澪が呟く。
「水の都……?」
潮は地図を広げる。
瀬戸内海を指でなぞり、西へ。
そして、ある場所で指が止まった。
「岡山……。」
「倉敷かもしれない。」
運河が流れ、古い町並みが残る場所。
水と共に栄えた町。
タケルは静かに微笑んだ。
「次の旅は、人の暮らしの中に眠る歌だ。」
蒼真は瀬戸内海を振り返る。
これまで巡った島々が、夕日に照らされて輝いていた。
その景色を胸に刻みながら、四人は新たな旅路へと歩き出す。




