第三十一話 旅の夜
その夜。
蒼真たちは高松市内の小さな旅館に泊まっていた。
大きなホテルではない。
どこか懐かしい雰囲気の宿だった。
夕食には香川らしい料理が並ぶ。
魚。
天ぷら。
炊き込みご飯。
そして。
もちろん、うどん。
「またうどんだ」
澪が笑う。
「最高じゃん」
陸は嬉しそうだった。
「本当に好きだな」
蒼真も呆れながら笑う。
旅を始めた頃なら。
こんな風に笑い合うこともなかったかもしれない。
凪島。
淡路島。
鳴門。
いくつもの出来事を経て。
四人は少しずつ仲間になっていた。
◇
食後。
宿の大浴場へ行き。
戻ってきた頃には。
部屋には布団が並んでいた。
窓の外では虫の声が聞こえる。
誰からともなく。
雑談が始まった。
「そういえば」
陸が寝転がったまま言う。
「澪って淡路島から出たことあるの?」
澪は少し考えた。
「修学旅行くらいかな」
「意外」
「神社の手伝いばっかりだったし」
澪は苦笑する。
「小さい頃から神話とか祭りとかばっかりだった」
その言葉に。
蒼真は少し親近感を覚えた。
「俺も似たようなものかも」
「おばあちゃん?」
「うん」
神話を聞きながら育った。
祭りへ連れて行かれた。
島の昔話を教わった。
昔はただの思い出だった。
今は全部繋がっている。
澪は少し微笑んだ。
「だからかな」
「何が?」
「蒼真くんと話しやすいの」
◇
部屋が少し静かになる。
陸が目を閉じる。
潮がお茶を飲む。
タケルは窓の外を見ている。
全員。
聞いていた。
蒼真だけが気づいていない。
「そうかな?」
「そうだよ」
澪は少し照れながら笑った。
潮は静かにため息をつく。
「重症」
陸が頷く。
「末期」
「何の話?」
「気にしなくていい」
二人同時だった。
◇
夜も更けていく。
笑い声も少なくなり。
部屋は静かになった。
その時だった。
神代の鍵が光る。
蒼真は飛び起きる。
他の三人も気づいた。
鍵が淡い金色の光を放っている。
文字が浮かび上がる。
今までで最も鮮明に。
――祭り火は島に眠る
――灰の下の願いを探せ
さらに文字が続く。
――神代の道は潮に現れる
――天使の渡る道を辿れ
澪が息を呑む。
「天使の渡る道……」
潮がすぐに気づく。
「エンジェルロード」
タケルが頷いた。
「やはりそうか」
蒼真たちは顔を見合わせる。
次の目的地。
それは――
小豆島。
神話の名残が眠る島。
オリーブの島。
そして。
第三の歌が待つ場所。
窓の外には満天の星。
その光はまるで。
瀬戸内の島々を結ぶ神代の航路のように見えた。




