第三十話 石段の先の願い
翌朝。
高松の空は雲ひとつない快晴だった。
蒼真たちは早朝の列車に乗り、
琴平へ向かっていた。
「今日はあそこだよね」
澪がスマホを見る。
「そう」
潮が頷く。
海の神様として知られる、
金刀比羅宮。
古くから航海の守り神として信仰されてきた場所。
瀬戸内を旅する彼らにとって、一度は訪れたい場所だった。
「海の神様なら神代の航路とも関係あるのかな」
蒼真が呟く。
タケルは少し笑った。
「あるとも」
「昔の旅人は海を渡る前に祈った」
「無事に帰れるようにな」
その声はどこか懐かしそうだった。
何百年も前の景色を見ているように。
◇
琴平へ到着すると。
さっそく長い石段が姿を現した。
「……」
陸が固まる。
「どうした?」
蒼真が聞く。
「聞いてない」
「何を?」
「こんなに階段あるなんて」
澪が吹き出した。
「有名だよ?」
「聞いてない」
「二回目」
潮が冷静に突っ込む。
◇
そして登り始める。
最初は元気だった陸も。
百段。
二百段。
三百段。
「まだ?」
「まだ」
澪。
「あとどれくらい?」
「たくさん」
潮。
「帰りたい」
「さっきまで元気だったのに」
蒼真は笑った。
石段の途中。
少し広い休憩所で足を止める。
風が気持ちいい。
町並みが眼下に広がっている。
陸はベンチと一体化していた。
「動けない」
「うどん三杯食べる体力はあるのに」
澪が笑う。
その間に。
蒼真は少し離れた場所へ移動した。
そこへ潮がやって来る。
「考え事?」
蒼真は頷いた。
「失われた神守のこと」
潮も空を見上げる。
「気になる?」
「なるよ」
蒼真は正直に答えた。
「俺に似てた」
「出雲で待つって言ってた」
「祖母ちゃんも何か知ってそうだった」
潮は少し黙る。
「怖い?」
蒼真は少し考えた。
「少しだけ」
正直な答えだった。
「でも」
蒼真は続ける。
「知らないままにはしたくない」
潮は静かに笑った。
「それなら大丈夫」
「何が?」
「蒼真だから」
短い言葉だった。
でも不思議と安心する。
潮は前からそうだった。
背中を押すわけでもない。
無責任な励ましもしない。
ただ隣にいてくれる。
◇
やがて。
一行は御本宮へ辿り着いた。
青空の下。
歴史ある社殿が静かに佇んでいる。
観光客の賑わいはある。
だが境内にはどこか厳かな空気が流れていた。
四人は手を合わせる。
蒼真は願った。
旅の無事を。
仲間たちの笑顔を。
そして。
祖母が繋いだ道の先へ辿り着けるように。
その時だった。
風が吹く。
神代の鍵が微かに震えた。
しかし光らない。
何かを伝えるように。
ただ静かに。
タケルが空を見上げる。
「海の神も応援してるみたいだな」
蒼真も空を見た。
雲ひとつない青空だった。
◇
その夜。
宿へ戻る頃には。
誰もが少し疲れていた。
だが。
心は軽かった。
旅の夜。
少しだけ語り合う時間。
その夜に第三の歌へ繋がる導きが訪れる。




