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潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第二部 第二章 渦潮の神

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第三十話 石段の先の願い

 翌朝。

 高松の空は雲ひとつない快晴だった。

 蒼真たちは早朝の列車に乗り、

 琴平へ向かっていた。


「今日はあそこだよね」

 澪がスマホを見る。

「そう」

 潮が頷く。


 海の神様として知られる、

 金刀比羅宮。

 古くから航海の守り神として信仰されてきた場所。

 瀬戸内を旅する彼らにとって、一度は訪れたい場所だった。


「海の神様なら神代の航路とも関係あるのかな」

 蒼真が呟く。


 タケルは少し笑った。

「あるとも」

「昔の旅人は海を渡る前に祈った」

「無事に帰れるようにな」

 その声はどこか懐かしそうだった。

 何百年も前の景色を見ているように。



 琴平へ到着すると。

 さっそく長い石段が姿を現した。


「……」

 陸が固まる。

「どうした?」

 蒼真が聞く。


「聞いてない」

「何を?」

「こんなに階段あるなんて」


 澪が吹き出した。

「有名だよ?」

「聞いてない」

「二回目」

 潮が冷静に突っ込む。


 ◇


 そして登り始める。

 最初は元気だった陸も。


 百段。

 二百段。

 三百段。


「まだ?」

「まだ」

 澪。


「あとどれくらい?」

「たくさん」

 潮。


「帰りたい」

「さっきまで元気だったのに」

 蒼真は笑った。


 石段の途中。

 少し広い休憩所で足を止める。


 風が気持ちいい。

 町並みが眼下に広がっている。


 陸はベンチと一体化していた。

「動けない」

「うどん三杯食べる体力はあるのに」

 澪が笑う。


 その間に。

 蒼真は少し離れた場所へ移動した。

 そこへ潮がやって来る。


「考え事?」

 蒼真は頷いた。

「失われた神守のこと」

 潮も空を見上げる。

「気になる?」

「なるよ」

 蒼真は正直に答えた。


「俺に似てた」

「出雲で待つって言ってた」

「祖母ちゃんも何か知ってそうだった」


 潮は少し黙る。

「怖い?」

 蒼真は少し考えた。

「少しだけ」

 正直な答えだった。


「でも」

 蒼真は続ける。

「知らないままにはしたくない」

 潮は静かに笑った。

「それなら大丈夫」

「何が?」

「蒼真だから」


 短い言葉だった。

 でも不思議と安心する。


 潮は前からそうだった。

 背中を押すわけでもない。

 無責任な励ましもしない。

 ただ隣にいてくれる。


 ◇


 やがて。

 一行は御本宮へ辿り着いた。


 青空の下。

 歴史ある社殿が静かに佇んでいる。


 観光客の賑わいはある。

 だが境内にはどこか厳かな空気が流れていた。


 四人は手を合わせる。

 蒼真は願った。

 旅の無事を。

 仲間たちの笑顔を。


 そして。

 祖母が繋いだ道の先へ辿り着けるように。


 その時だった。

 風が吹く。

 神代の鍵が微かに震えた。


 しかし光らない。

 何かを伝えるように。

 ただ静かに。


 タケルが空を見上げる。

「海の神も応援してるみたいだな」

 蒼真も空を見た。

 雲ひとつない青空だった。


◇ 


 その夜。

 宿へ戻る頃には。

 誰もが少し疲れていた。


 だが。

 心は軽かった。


 旅の夜。

 少しだけ語り合う時間。


 その夜に第三の歌へ繋がる導きが訪れる。

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