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潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第二部 第二章 渦潮の神

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第二十九話 うどん県の休日

 鳴門を発った翌朝。

 蒼真たちは高松行きの列車に揺られていた。

 窓の外には瀬戸内海が広がっている。


 青い海。

 浮かぶ島々。

 穏やかな景色。

 

 鳴門での出来事が嘘のようだった。


 記憶の海。

 忘れられた守り神。

 失われた神守。

 

 色々あった。

 だからこそ。

 今日は少し休もう。

 そんな空気が流れていた。

 

「着いたらまず何する?」

 澪が聞く。

 

 陸が即答した。

「うどん」

「観光は?」

「うどん」

「神社は?」

「うどん」


 潮が吹き出した。

「一貫してる」

「香川に来てうどん食わないのは失礼だろ」

 

 蒼真も笑う。

 確かにその通りかもしれない。

 

 

 昼前。

 高松駅へ到着。

 駅前には人が行き交い。

 活気がある。

 

 しかし。

 陸は駅を見る前に。

 スマホを見ていた。

 

「ここだ!」

うどん屋だった。

「調べてたの?」

「当然」

 神話より真剣だった。

 

 ◇

 

 十分後。

 一行はセルフうどん店にいた。

 

 蒼真は驚く。

「安っ!」

 うどん一杯。

 驚くほど安い。


 澪も目を丸くする。

「本当にこの値段?」

「香川では普通」

 潮が答える。


 そして。

 陸のトレーを見る。

 

 うどん大。

 ちくわ天。

 かしわ天。

 紅生姜天。

 ゆで卵天。

 アジフライ。

 いなり寿司。

 

「買いすぎ」

 潮が言う。

 

「旅は体力」

 

 全員。

 同時にため息をついた。

 

 いただきます。

 蒼真は一口食べる。

「……美味しい」

 思わず声が漏れた。


 もちもちした麺。

 しっかりしたコシ。

 出汁の香り。

 

 澪も幸せそうな顔をしている。

「これは並ぶね」


 潮は静かに食べている。

 しかし。

 少しだけ嬉しそうだった。

 

 陸は。

 もう二杯目を検討していた。


 食後。

 一行は商店街を歩く。

 

 アーケードの下。

 雑貨屋。

 本屋。

 和菓子屋。

 

 旅らしい時間が流れていた。

 神代の鍵も静かだ。

 勾玉も光らない。

 

 久しぶりだった。

 何も起きない日。

 

 その時。

 澪が立ち止まる。

「これ可愛い」

 小さなガラス細工だった。

 瀬戸内の海を模した青い飾り。

 蒼真も覗き込む。

「本当だ」

 

 顔が近い。

 澪が少しだけ慌てる。

 蒼真は気づいていない。

 

 離れた場所では。

 潮と陸が見ていた。

 

「鈍感」

 潮が言う。

「重症だな」

 陸も頷く。


「もうっ……」

 少しむくれて呟く潮を陸は見逃さなかった。


 ◇


 夕方。

 高松港。

 瀬戸内海が夕日に染まっていた。

 

 四人はベンチへ座る。

 特に会話はない。

 でも。

 不思議と居心地が良かった。

 

 旅の仲間。

 そんな言葉だけでは足りない気がした。

 

 風が吹く。

 海がきらめく。

 

 その時。

 神代の鍵が微かに光った。

 

 蒼真だけが気づく。

 鍵に小さな文字が浮かぶ。

 

 ――急ぐな

 ――旅を楽しめ

 

 蒼真は思わず笑った。

 神様にも、

 たまには休めと言われている気がした。

 

 夕陽がゆっくり沈んでいく。

 明日は金刀比羅宮。

 そして。

 次の旅へ続く一日になる。

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