第二十九話 うどん県の休日
鳴門を発った翌朝。
蒼真たちは高松行きの列車に揺られていた。
窓の外には瀬戸内海が広がっている。
青い海。
浮かぶ島々。
穏やかな景色。
鳴門での出来事が嘘のようだった。
記憶の海。
忘れられた守り神。
失われた神守。
色々あった。
だからこそ。
今日は少し休もう。
そんな空気が流れていた。
「着いたらまず何する?」
澪が聞く。
陸が即答した。
「うどん」
「観光は?」
「うどん」
「神社は?」
「うどん」
潮が吹き出した。
「一貫してる」
「香川に来てうどん食わないのは失礼だろ」
蒼真も笑う。
確かにその通りかもしれない。
◇
昼前。
高松駅へ到着。
駅前には人が行き交い。
活気がある。
しかし。
陸は駅を見る前に。
スマホを見ていた。
「ここだ!」
うどん屋だった。
「調べてたの?」
「当然」
神話より真剣だった。
◇
十分後。
一行はセルフうどん店にいた。
蒼真は驚く。
「安っ!」
うどん一杯。
驚くほど安い。
澪も目を丸くする。
「本当にこの値段?」
「香川では普通」
潮が答える。
そして。
陸のトレーを見る。
うどん大。
ちくわ天。
かしわ天。
紅生姜天。
ゆで卵天。
アジフライ。
いなり寿司。
「買いすぎ」
潮が言う。
「旅は体力」
全員。
同時にため息をついた。
いただきます。
蒼真は一口食べる。
「……美味しい」
思わず声が漏れた。
もちもちした麺。
しっかりしたコシ。
出汁の香り。
澪も幸せそうな顔をしている。
「これは並ぶね」
潮は静かに食べている。
しかし。
少しだけ嬉しそうだった。
陸は。
もう二杯目を検討していた。
食後。
一行は商店街を歩く。
アーケードの下。
雑貨屋。
本屋。
和菓子屋。
旅らしい時間が流れていた。
神代の鍵も静かだ。
勾玉も光らない。
久しぶりだった。
何も起きない日。
その時。
澪が立ち止まる。
「これ可愛い」
小さなガラス細工だった。
瀬戸内の海を模した青い飾り。
蒼真も覗き込む。
「本当だ」
顔が近い。
澪が少しだけ慌てる。
蒼真は気づいていない。
離れた場所では。
潮と陸が見ていた。
「鈍感」
潮が言う。
「重症だな」
陸も頷く。
「もうっ……」
少しむくれて呟く潮を陸は見逃さなかった。
◇
夕方。
高松港。
瀬戸内海が夕日に染まっていた。
四人はベンチへ座る。
特に会話はない。
でも。
不思議と居心地が良かった。
旅の仲間。
そんな言葉だけでは足りない気がした。
風が吹く。
海がきらめく。
その時。
神代の鍵が微かに光った。
蒼真だけが気づく。
鍵に小さな文字が浮かぶ。
――急ぐな
――旅を楽しめ
蒼真は思わず笑った。
神様にも、
たまには休めと言われている気がした。
夕陽がゆっくり沈んでいく。
明日は金刀比羅宮。
そして。
次の旅へ続く一日になる。




