表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第二部 第二章 渦潮の神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/117

第二十六話 渦底の記憶

 鳴門へ着いたのは午後だった。

 港には観光客の姿も多い。


 土産物店。

 海鮮を扱う店。

 行き交う人々。

 活気にあふれている。


 しかし蒼真の胸は落ち着かなかった。

 船の上で見た幻。

 あの人物の声が頭から離れない。


「蒼真?」

 潮が隣へ来る。

「顔色悪い」

「そんなに分かる?」

「分かる」

 即答だった。


 潮は少しだけ考える。

 そして。

「話したくなったら聞く」

 それだけ言った。


 蒼真は少し救われた気持ちになる。

 潮は昔からこうだった。

 無理に聞かない。

 でも離れない。


 その様子を見ていた澪が少しだけ頬を膨らませる。

 陸は見逃さなかった。

 もちろん蒼真は気づかない。



 宿へ荷物を置いたあと。

 一行は海峡近くの高台へ向かった。

 そこからは渦潮が見える。


 眼下に広がる海。

 白く巻く潮流。

 巨大な渦。

 自然の力とは思えない迫力だった。


「すご……」

 澪が息を呑む。


 その時。

 神代の鍵が強く光る。


 渦潮の中心。

 そこから青白い光が立ち上った。


 周囲の人々には見えていない。

 蒼真たちだけが見ていた。


 ◇


 タケルが静かに言う。

「入口が開く」


「入口?」

 陸が聞く。

「記憶の海への」


 風が強くなる。

 空気が震える。


 そして。

 蒼真の足元から光が広がった。

 潮。

 陸。

 澪。

 全員を包み込む。


 ◇


 世界が反転する。


 目を開く。

 そこは海の底だった。


 だが苦しくない。

 水の中なのに呼吸ができる。


 空のような海。

 海のような空。

 不思議な世界。


「ここが……」

 澪が呟く。

 タケルが頷く。

「記憶の海」


 周囲には無数の光が漂っている。

 小さな灯火。

 人々の記憶。

 神話。

 祭り。

 願い。


 忘れられた物語たちが眠る場所だった。

 蒼真はその光景に見入る。


 その時。

 一つの光が近づいてきた。


 光は映像になる。

 小さな男の子。

 父親に肩車されている。

 祭りの夜。

 楽しそうな笑顔。


 次の光。

 若い夫婦。

 神社で手を合わせている。


 また別の光。

 老人が一人で祭り囃子を聞いている。

 懐かしそうに。


「全部……記憶?」

 タケルは答える。

「忘れられかけた記憶だ」

「完全には消えていない」


 蒼真は胸が熱くなる。

 人は忘れる。


 でも。

 想いそのものは消えないのかもしれない。


 その時だった。

 遠くで鐘のような音が鳴る。


 ゴォォォン――


 記憶の海が揺れた。

 光たちが一斉に流れ始める。

 まるで何かを避けるように。


 蒼真は振り返る。

 そして息を呑んだ。


 海の底の闇。

 その奥から。

 巨大な影が現れる。


 鯨のようでもある。

 龍のようでもある。


 だが。

 全身が黒い霧でできている。


 忘却の影。

 今まで見たどの存在よりも大きい。


 そして。

 その額には。

 青く輝くものが埋め込まれていた。



 第二の歌の欠片。


 潮が呟く。

「まさか……」


 タケルの表情が険しくなる。

「欠片を守っているんじゃない」


 蒼真が振り返る。

 タケルは静かに告げた。

「欠片に縛られているんだ」


 巨大な影が目を開く。

 深い悲しみに満ちた瞳だった。


 そして。

 蒼真へ向かって。

 ゆっくりと近づき始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ