表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第二部 第二章 渦潮の神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/57

第二十一話 国生みの使い

夕暮れの庭。


 白い狩衣の青年は静かに立っていた。

 風が吹くたびに長い黒髪が揺れる。

 人の姿をしている。

 だが人ではない。

 蒼真にははっきり分かった。

 

 「祖母ちゃんを知ってるのか」

 蒼真が尋ねる。


 青年は少しだけ笑った。

 「知っている」

 「ずいぶん世話にもなった」

 

 その言葉に。

 神崎家の老婦人が驚いた顔をする。

 「まさか……」

 

 ◇


 青年は軽く頭を下げた。

 

 「お久しぶりです」

 「語り部殿」

 

 老婦人は目を細めた。

 懐かしい人に会ったような顔だった。

 

 「まだおったのかい」

 「おりますとも」

 

 青年は肩をすくめる。

 「神は人より少し長生きですので」

 

 陸が小声で蒼真に言う。

 「少しどころじゃなくないか?」

 「俺もそう思う」

 

 青年は聞こえていたらしい。

 少し笑った。

 

 ◇

 

 「私はタケル」

 「国生みの使いと呼ばれている」

 

 その名を聞いた瞬間。

 潮が息を呑む。

 

 「まさか……まだ残ってたの?」

 「失礼だな」

 タケルは苦笑する。

 

 「消えそうにはなったがな」

 

 蒼真には意味が分からない。

 だが。

 潮の反応を見る限り。

 かなり古い存在なのだろう。

 

 タケルは蒼真へ近づく。

 勾玉が共鳴する。

 まるで再会を喜ぶように。

 

 ◇

 

 「それが神守の勾玉か」

 「知ってるのか」

 「もちろんだ」

 

 タケルの瞳が少し遠くを見る。

 何百年も前を思い出すように。

 

 「お前の祖母も持っていた」

 「え?」

 

 蒼真は目を見開く。

 祖母も。

 同じ勾玉を。

 

 「正確には先代の勾玉だ」

 「神守が代々受け継ぐものだからな」

 

 タケルは空を見上げた。

 夕焼けが少しずつ夜へ変わっていく。

 

 ◇

 

 「お前たちは八つの欠片を集めようとしている」

 「うん」

 蒼真は頷く。

 

 「だが」

 タケルの表情が変わる。

 真剣になる。

 

 「欠片を集めることが目的ではない」

 静かな声だった。

 しかし重みがあった。

 

 ◇

 

 「どういうこと?」

 澪が尋ねる。

 

 タケルはゆっくり答える。

 「神代の航路は道だ」

 「人と神を結ぶための」

 「欠片は鍵ではある」

 「だが本当に必要なのは」

 「人の想いだ」

 

 ◇

 

 蒼真は凪島の祭りを思い出す。

 確かにそうだった。

 欠片を見つけたから祭りが戻ったわけではない。


 人が集まり。

 願い。

 行動したから戻ったのだ。

 

 ◇

 

 タケルは満足そうに頷く。

 蒼真の考えを読んだようだった。

 

 「最初の欠片も同じだ」

 「試練を越えねば手に入らない」

 

 その時。

 神代の鍵が再び光る。

 

 空中へ文字が浮かび上がった。

 蒼真だけでなく。

 今度は全員に見えていた。

 

 ――眠る神の夢を辿れ

 ――失われた歌を見つけよ

 

 ◇

 

 澪が呟く。

 「歌……?」

 

 老婦人の顔色が変わった。

 何かを思い出したように。

 

 「まさか」

 「春呼びの唄かい」

 

 部屋が静まり返る。

 タケルだけが頷いた。


 「そうだ」

 「森の神を目覚めさせる歌」

 「かつて淡路で歌われていた祈りの唄」

 

 「今は失われている」

 澪が小さく言う。

 

 老婦人は神守録を見つめた。

 

 そして。

 震える手で一つのページを開く。

 

 そこには。

 若き日の蒼真の祖母の筆跡が残されていた。

 

 『春呼びの唄は完全には失われていない』

 『歌の欠片は三つに分かれ』

 『島の記憶の中に眠る』

 

 蒼真たちは息を呑む。

 三つの歌の欠片。

 それを集めなければならない。

 

 ◇

 

 タケルは微笑む。

 どこか楽しそうに。

 

 「さあ」

 「最初の旅の始まりだ」

 

 夜の風が庭を渡る。

 森では今も神が眠っている。

 その夢の中で。

 遠い神代の歌を待ちながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ