表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第二部 第二章 渦潮の神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/63

第十八話 眠る神の森

「淡路の神が眠り始めてる」

 神崎澪の言葉に。

 蒼真たちはしばらく何も言えなかった。

 境内を吹き抜ける風だけが静かに鳴っている。


 ◇


「眠るって……どういう意味?」

 最初に口を開いたのは陸だった。


 澪は少し考える。

「消えるわけじゃない」

「弱っているわけでもない」

「ただ」

 言葉を選ぶように続けた。


「目を閉じてしまう感じ」


 ◇


 蒼真は眉をひそめる。

「神様が眠るとどうなるんだ?」

「土地の記憶が薄くなる」


 澪は答えた。

「祭りが途絶える」

「伝承が忘れられる」

「人と神を結ぶ道が消える」


 ◇


 潮の顔色が変わる。

「神代の航路……」


 澪が頷く。

「その通り」


 ◇


 三人は顔を見合わせた。

 凪島で見たものと同じだ。

 祭りが失われる。

 祈りが失われる。

 神と人との繋がりが薄れていく。


 ◇


「案内する」

 澪はそう言って歩き出した。


 向かうのは神宮の裏手。

 一般の参拝者はほとんど来ない場所だった。


 ◇


 森へ入る。

 鳥の声が聞こえる。

 木漏れ日が揺れる。

 空気が少しずつ変わっていく。


 深く。

 静かに。


 ◇


 蒼真の勾玉が反応していた。

 小さく脈打っている。

 まるで何かを探しているように。


 ◇


「昔」

 澪が歩きながら話す。


「私の家は神話を語り継ぐ役目だった」

「語り継ぐ?」

「うん」


「神様の物語」

「祭りの意味」

「土地の伝承」

「それを忘れないように残す人」


 ◇


 蒼真は少し驚く。

 祖母も似たことをしていた気がした。


 昔話を語る。

 土地のことを教える。

 何気ない会話の中で。


 ◇


「でも」

 澪は苦笑した。

「今は聞く人が少ない」

 少し寂しそうだった。


 その時。

 潮が立ち止まる。

「……いる」

 声が小さくなる。


 ◇


 森の奥。

 大きな楠が立っていた。

 何百年も生きているような巨木。


 枝は空を覆い。

 幹は何人で囲んでも足りないほど太い。


 そして。

 その根元に。

 誰かが座っていた。


 ◇


 白い着物。

 長い髪。

 少年とも少女ともつかない姿。

 目を閉じている。

 まるで眠っているように。


 ◇


「……あれが?」

 蒼真が尋ねる。


 澪は静かに頷いた。

「淡路の神の一柱」

「森を守る神様」


 ◇


 近づいても反応がない。

 呼んでも動かない。

 眠ったまま。

 ただ静かに座っている。


 ◇


 その時だった。

 蒼真の勾玉が強く光る。

 神代の鍵も共鳴する。


 眠る神の胸元。

 そこに小さな光が浮かび上がった。


 欠片だった。

 星のような。

 水晶のような。

 淡く青い光。 


 潮が息を呑む。

「神代の欠片……!」


 ◇


 すると。

 森全体が震えた。


 ザァァァ――

 木々が揺れる。

 風が吹く。


 ◇


 蒼真の視界の端に。

 黒い影が見えた。

 人の形にも見える。

 霧にも見える。


 影は眠る神を見つめていた。

 そして。

 どこか悲しそうだった。


 ◇


『また来たのか』


 声が聞こえる。

 誰の声か分からない。


 だが。

 神ではない。

 人でもない。


『忘れられることを恐れる者たちよ』


 森の空気が重くなる。

 澪の顔が強張った。

 潮も警戒している。


 ◇


 蒼真だけが感じていた。

 この気配。

 どこかで覚えがある。

 神の泉で出会った忘却の獣に似ている。


 だが違う。

 もっと古い。

 もっと深い。


 ◇


 影は静かに笑った。


『ならば試してみよう』

『お前たちが本当に繋げるのかを』


 ◇


 次の瞬間。

 眠る神の胸元から。

 青い欠片が宙へ浮かび上がった。


 神代の欠片。

 最初の一つ。


 そして。

 蒼真たちの前に、新たな試練の幕が上がろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ