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潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第二部 第六章 海と空のあいだ

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第四話 橋の真ん中で

翌朝。


 空は雲ひとつない青空だった。


 宿を出ると、おばあさんが縁側から手を振っている。


 「あ、おばあちゃん!」


 陸が大きく手を振り返す。


 「おにぎり、おいしくいただきます!」


 「慌てて歩いたらだめよ。」


 「橋の上は風が強い日もあるけんね。」


 「はい!」


 四人は深く一礼し、再び歩き始めた。


 振り返ると、おばあさんの姿は小さくなっていた。


 それでも、手はずっと振られていた。


 ◇


 大三島橋とはまた違う表情を見せる橋を渡り始める。


 潮の流れは少し速く、海面には白い筋が幾筋も描かれていた。


 「潮が走ってる。」


 潮が身を乗り出すように海を見る。


 タケルが静かに言う。


 「瀬戸内海は穏やかに見える。」


 「だが、その海の下では、絶えず潮が動いている。」


 蒼真は欄干にもたれ、海を見つめた。


 表面は静かでも、見えないところでは力強く流れている。


 それは、人の心にも少し似ている気がした。


 ◇


 橋の中ほどまで来たときだった。


 向こうから、小学生くらいの男の子とお父さんが歩いてきた。


 男の子は大きなリュックを背負い、一生懸命歩いている。


 「こんにちは!」


 元気いっぱいの声が響く。


 「こんにちは。」


 蒼真たちも笑顔で挨拶を返した。


 すれ違う、その瞬間。


 男の子が立ち止まる。


 「あの!」


 「はい?」


 「これ、見つけたんです!」


 小さな手を開くと、中には丸い石が一つ。


 白い地に、細い青い線が一本入っている。


 「きれいでしょう?」


 澪がしゃがみ込む。


 「本当だ。」


 「海みたい。」


 男の子は嬉しそうに頷いた。


 「ぼくね、橋を全部歩くんです。」


 「お父さんと約束したから。」


 お父さんは少し照れくさそうに笑う。


 「小学校を卒業した記念なんです。」


 「中学生になる前に、一緒に歩こうって。」


 ◇


 「疲れない?」


 陸が聞く。


 男の子は首をぶんぶん振った。


 「疲れる!」


 みんなが笑う。


 「でもね。」


 男の子は胸を張る。


 「橋を渡るたびに、『できた!』って思えるんだ。」


 その笑顔は、朝日に負けないくらい輝いていた。


 ◇


 別れ際。


 男の子はその石をポケットへしまう。


 「これね。」


 「全部の島で一つずつ拾うんだ。」


 「最後に並べるの。」


 蒼真は目を細めた。


 「素敵な思い出になるね。」


 「うん!」


 男の子は元気よく頷いた。


 「お兄ちゃんたちも、いい旅してね!」


 「ありがとう。」


 「君もね。」


 ◇


 親子の姿が小さくなっていく。


 澪がぽつりとつぶやく。


 「石を集める旅かぁ。」


 潮が笑う。


 「私たちは言葉を集めてる。」


 陸は胸ポケットを叩いた。


 「僕は写真かな。」


 蒼真は旅日記を取り出した。


 「僕は全部かな。」


 「景色も。」


 「言葉も。」


 「人も。」


 「全部、この一冊に。」


 ◇


 橋の中央には、小さな表示板が立っていた。


 『ここから大島』


 蒼真はその文字をしばらく眺める。


 島が変わる。


 景色も変わる。


 でも、この旅で出会う人たちの温かさだけは、どの島でも変わらない。


 タケルが空を見上げる。


 「蒼真。」


 「はい。」


 「島は違っても、空は一つだ。」


 蒼真も空を見上げる。


 どこまでも青く、どこまでも続く空。


 その下で、人は橋を渡り、船を漕ぎ、誰かを迎え、誰かを送り出してきた。


 神代の航路とは、きっとそんな営みが幾重にも重なって生まれた道なのだろう。


 四人は新しい島へ向かって、また一歩、歩き出した。

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