絶たれた退路
目の前の怪物の目玉が斜視めいてグリグリと動く。
てんでばらばらの方向を見つめていたそれはやがて焦点を合わせ、わたしたちを睥睨し睨みつけた。
「……ヒヒヒ……あー、いい……遥かにいい……最高の気分だ。力がみなぎる……。この力さえあれば、ボクを追放した大学の奴らを皆殺しにできる!ヒヒ!おまけに吃音まで治ってるじゃないか!」
怪物の口元がパックリと三日月型に裂け、薬物酩酊者めいた薄ら笑いを形作る。
頬はだらけすっかり弛緩しきっているが、そのくせ目だけは奇妙に笑っていない。
その瞳にはわたしたちに対する冷めた怒りと、無機質な嘲りだけが篝火のように燻っている。
「自ら魔力電池になることで壊死した細胞を強制復活させるとは、なんと愚かなまねを……!ただの人間でしかないお主では、細胞を再活性化させることはできても、すぐにスライムに魔力を吸い尽くされて死んでしまうぞ?」
しかし髑髏男……いや、スライム巨人は、そんなアリスさんの指摘に対してまるで動じることはなかった。
それどころかまるで嘲るようにニタニタ笑い、こちらを見下ろしているではないか。
「ヒヒ……!たしかにオマエの言うとおりだ、魔族の小娘。このままではあと十分ももたずにこのカラダは崩壊してしまう。このままじゃ大学の奴らに復讐することもできない。……しか〜〜し‼︎‼︎」
スライム巨人が拳を天高く掲げ、ググッと握り拳に力を込めていく。
「ここから外に出て、新しい魔力電池を定期的に補給すれば良いだけのハナシだ!ホラホラ、すでにそこに三人もいるじゃないか?新鮮な魔力電池が!ダークエルフにハーフエルフ、それに魔族の女!三人まとめてボクの贄になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
ドッゴォォォォォォォン‼︎‼︎‼︎
スライム巨人が激昂し、握り拳を振り下ろす!
わたしたちは咄嗟に散開し、それを回避する。
地面に衝撃波が走り、周囲にあるオベリスクが放射状に破砕されていく。
なんて凄まじい破壊力だろう!
「ご主人、はやくここから逃げるロボ!」
ロボ丸の言う事はもっともだ。
相手は衝撃波だけでオベリスクを砕く、異常なまでの怪力の持ち主だ。
それに加え、こちらは衰弱した少女を背負いながら戦わなければならないというハンデがある。
とてもじゃないが、この状態で戦うのは無理な話というものだ。
それならばいっそのこと、ここから奴の手の届かないところまでまっすぐ逃げ出して仕舞えばいい。
わたしたちが洞窟から抜け出している頃には、奴は時間切れで自壊しているだろう。
「残念じゃが、それは無理なようじゃな。あれを見てみぃ。」
わたしはアリスさんが指さす方を見た。
そこにあったはずの出口は、大小の岩石で塞がれていた。
おそらく先程の地震で崩落した天井の破片が出口を塞いでしまったのだろう。
頼みの綱の退路は完全に絶たれてしまった。
もはや戦って勝つしか道は残されていない。
「クソッ、こうなったらやるしかないか!いくよ、みんな!」
「了解ロボ!」
「任せて、マスター!」
ロボ丸が顔の前で拳を打ち鳴らし、ステラがブラスターを構えた。
戦が始まる!
_続く




