〔相思相嫌〕
廊下の向こうから見える、病室の扉にもたれ掛かる姿に、葵さんを見た。
「あ、あお…」
けれど、それは葵さんとは全く違っていた。
金とも思える黄色がかった髪と、同じように黄色く光る眼。
すべてが雷の家の者たるものの象徴だった。
「やぁ、セツナ。
待ってたよ」
その方は、その眼を薄く長く細め、不自然に広角のみをあげる。
そんな笑い方をするのは私の知り合いでは
「マキリさん…」
ただ一人。
特段、悪い人じゃない。
何の罪も犯してないし、問題行動も、赤点すら取ったことはない。
ただ、嘘を纏ってる人。
「あからさまに嫌そぅ~」
「えっ、あ、すみません!」
そんなつもりはなかったけど、思ってることが表に出てしまっていたみたいだ。
不快にしてしまったと思う。本当にすみません!
「たはは
まあどうでも良いや。」
マキリさんはそう不自然に笑いながら目を反らした。
「どうして嘘を吐くんですか?」
何か思ったのに、何故そんな嘘を吐くのか。
始めてあった日から、私にはずっと理解できない。
きっとこれからも。
そしてマキリさんはまた一瞬私を睨み付けては無理に笑みを浮かべる。
「言葉 葵。」
「葵さんが、何か」
名字では知らなかったので、菫さんと同じ名字なことに少し驚いた。
離婚したからと言って、子供の名字までは変えないと言うことなのでしょうか。
いえ、葵さんと言う名前が変わることはないので、どちらでも構わないことなのですが。
「彼は一般人だ。」
「知っていますが」
葵さんが能力者じゃないことなど知っている。
だからこそ、菫さんは被害者で、私は、葵さんに親族に嘘を吐き続けなければならない。
「別にさぁ、一般人と付き合いを持つなぁ~、何て言わないよ?
けど、お前の場合はどーなのさ?」
「話が見えてきません。
単刀直入にお願いします。」
マキリさんは少し眉を潜め、そして扉に体を預けるのをやめた。
「お前、アイツの事好きだろ」
「……は」
い?
私の理解がまだ追い付いてないまま、尚もマキリさんは言葉を発する。
私に詰め寄る。
「アイツは一般人だ。騙す相手だ。
お前はレジティーマだ。戦い、殺し、受け継がせる義務がある。
俺も、お前も、」
気付けば私が壁際に追い詰められていた。
マキリさんは決して触れようとはしないし、手を伸ばすこともないけど、その薄く長い目が、私を睨んでいた。
けれど私はそれを睨み返す。
「何の話ですか!
仮に私が葵さんを好きとして、貴方に何の関係があるのですか!
私は」
「風峰 伊吹」
まるで雷に打たれたように、いや、火山が地上へ昇るように、途端に頭が熱くなった。
思考なんて置き去りにして、肉体が勝手に動き、短い腕をこれでもかと伸ばし、マキリさんの胸ぐらを掴む
「何故貴方がそんなことまで!!!!」
驚き、よろけたマキリさんをそのまま押し、尻餅をついたマキリさんを見下ろす。
「貴方に何の関係があると言うのですか!
葵さんも伊吹さんも私の大切な方です!
貴方が容易く触れて良いような方じゃない!!!」
そう力の限り叫んだ。
「解ってます、解ってますよ、そんなこと…!!
でも…、真似事くらい…したって良いじゃないですか…」
やけに驚いた顔をするマキリさんの顔に、何か雫が落ちた。
それが自分の涙と理解しても、肉体は言うことを聞いてくれなかった。
「誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんて糞食らえです!!!
そんなことなら皆等しく不幸に成った方がマシでしょう!!!
こんなの平和だなんて…」
言えない。そう言い掛けてやっと肉体が止まった。
マキリさん以外の人の現れた風がしたから。
「……セツナ?」
「葵さん?」
横を見ると、眉を潜める葵さんがそこにいた。
その視線を追っていくと、私の下にマキリさんが居て、そのマキリさんの胸ぐらを私が思いっきりつかんで、そしてここは病院で
まるで風の如き速さで私はマキリさんの上から退いて、速攻でマキリさんに土下座した。
「すみませんすみません!!
つい、つい、頭に血が昇ってしまって本心が!!!」
「あー、うん。うん。本心か…。」
マキリさんは言いながら片膝に顔を埋めると体を震わせた。
「あ…、あの?マキリさん?
大丈夫ですか、あの」
心配になってよくよく耳を済ませると、違った。
くつくつと笑っているだけでした。
泣いているわけでも怒っているわけでなく安心しましたが…、何故?
「そうか」
とだけ言って立ち上がると、また私の方へ来て不格好に笑った。
「お前、俺の事嫌い?」
マキリさんの言葉に私は首をかしげた。
何故そんなことを聞くのか解らないけど、
「もちろん」
言うまでもなく、始めてあった日から、ずーっと嫌いです。
きっと、これからも。
「俺も」
それだけ言うとマキリさんは振り向き、葵さんも通りすぎた。
ずっと知ってましたが…けれど、面と向かって言われたのは初めてでしたね。
マキリさんは葵さんから一歩離れたあとでまた口を開いた。
振り向かず、けれど私に聞こえる声で
「それでも俺達とコイツは違うよ。
真似事で終わることを俺は推奨するね。」
とだけ言って今度こそ去っていった。
「セツナ?どうした、何が」
「訂正します。」
私はマキリさんのことが嫌いではありません。
「え?」
「マキリさん、私は貴方の事大っ嫌いです。」
それはもう不条理にぶん殴ってしまいたくなるくらいには!!
「どう思いますか葵さん!
態々あんなこと言いますか普通!?!
しかも去り際に!!
解ってることを再三言われることがどれだけ腹立たしいか!!
嫌みですか!嫌味なんですか?!」
んー!!!と行き場のない怒りを地団太で床にぶつけた。
すみません床さん、貴方に罪はないのです、けれどけれどこの怒りをどうしたらいいのかぁ!!
「おう。おう。まあ、落ち着け。」
「む…ぅー………」
マキリさんが去っていった先を睨み付けながら、葵さんに撫でられる頭から怒りが抜けていくのを感じていた。
でもやっぱりマキリさんの言葉を思い出す度に、怒りはわいてきた




