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305号室の世界  作者: 三古谷
風舞う向日葵
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10/11

〔呪い〕

セツナの、真っ直ぐな瞳が嫌いだった。

俺の、汚いところを責め立てられて、焼かれるみたいで。

俺の苦しみも悲しみも全部、間違ってる。の一言で吹き飛ばしてしまいそうで。


間違ってても、汚れてても、苦しくても、それも含めて、俺なのに。









「…やぁ」

305号室に入る扉の手前の壁。

そこに背を預ける男から、俺は目をそらした。

アイツの表情(カオ)が嫌いだ。

笑いたくもないのに、無理に目尻を曲げているのが透けていて。


「ああ」

俺はそう返事だけしてさっさと立ち去ろうとした。

コイツ…雷凰(らいおう) 真霧(まきり)が居るってことは神氷(かみひょうり) 懸憐(かれん)はまだ病室に居るんだろう。

俺は、神氷と会うつもりはない。


そう考えてさっさと帰ろうとした…が

「待ってよ。

 二人に会ってかないのぉ?」

真霧の言葉に、俺は相手に聞こえるように舌打ちした。

俺は真霧が嫌いだ。

アイツは話しても居ないのに何でもかんでも知ってる。

俺と菫が双子の姉弟なのも。

俺とももなが友人だったのも。

俺と菫の家族関係も。


誰だって嫌だろ。

そういうの嗅ぎまわれるのは。


文句言おうと後ろに振り返った…

が、俺はそのまま固まってしまった。

真霧がいつもとはかけ離れた恐ろしい顔をしていたからだ。

「小学生に手ぇ出すのはどうかと思うぜ」

真霧の言葉に驚いて、俺は何度も瞬きした。

口調も声の出し方も表情も、いつもとまるで違う。

いつもこんなんなら好感持てるのになぁ…。とか考えていた。


「…まさかセツナのことか?

 いや、あれは手を出すとかそう言うんじゃ…」

真霧に言い訳する必要はないとは思うが…

というか、本当に小学生だったのか…せめて六年生であってくれ。

…え?

つうか俺、小学生のガキ泣かしたの…?

え、本気で落ち込むんだが…。

うわ…、俺、最低かよ……。


「あれは純真なんだ。

 関わんないでくれる?」

純真か。

言い得て妙だな。


セツナは純真(じゅんしん)だろう。

正しいは正しい。間違ってるは間違ってる。

それだけっぽい。

融通が効かなさそうだ。

真っ直ぐって感じだな。


…で?

「嫌だ。」

それがどうした。

何でお前にとやかく言われなきゃならない?

俺とセツナが関わるかどうかは、俺達が決めることだ。


「なんで?

 関わりたい理由でもある?

 離れたくない理由が?

 まさか…小学生相手に好きとかぁ?」

好きって………、そんなこと言われたって解らない。

相手は小学生だろ。

言われなくたってなにもしない。


妙に食い下がるな……。

「お前こそ何々だ?

 セツナが何をどうしようが、お前には関係ないだろう。

 篭にでも閉じ込めるつもりか?」

俺は真霧に向き直って、明確に睨んだ。


純真のまま、あのまま、何も知らせず教えず大人にさせるつもりか?

そんなの無理に決まってるだろう。


お前はセツナに夢見てるんじゃないのか?

夢を押し付けてるんじゃないのか?

お前が今まで、どんな人生を歩んできたかなんか知らない。

お前が、何でそんな笑い方しかできないかなんて知らない。

「セツナはセツナだ。」

小さいサークルで前だけを見ていようと。

新たな世界を知って、砕けてしまったとしても。


「お前を真っ直ぐ嫌いだと言わなくなっても。」

俺みたいに、お前を自分と重ねて嫌悪するようになってしまっても…。


「セツナはお前を慰めるための道具じゃない。」

セツナも、俺もお前も、誰に縛られる存在じゃない。

縛って良い存在じゃない。

お前だって、解ってんだろ?

セツナが純真なだけの子供じゃない。

涙を流しながら、間違っていると感じながら、それでも必死で、俺に嘘を吐くんだ。

「だから、お前も、俺も、アイツ(懸憐)も、

 いい加減自分で呪いを解かなきゃいけない。

 解くのが難しくても嫌でも、片方だけが寄り掛かってるのは…駄目だろ?」


「……何も…知らない癖に…」


そして真霧はギロリと、恨むように、嘆くように俺を睨んだ。

「俺達はどうせお前らの道具なんだ!!!!

 一生を掛けて!自分の子供の、その子供までも!!!

 全部を呪っていかなきゃならないんだ!!!

 呪いは…お前らだ。俺達だ。」


真霧の言ったその呪いは、セツナの嘘の切れ端なんだろう。

お前らが、俺達とは違う…、そう言ってるのか…?

セツナも…そう、思っているのか……?

俺が、お前を呪ってる…?

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