第2話 鑑定を覚えました
「れ、レオ……【鑑定】を唱えてみろ」
「【鑑定】をとなえる?」
「そ、そうよ。こうやって……【治癒】!」
セルフィが右手を掲げて【治癒】と唱えた瞬間、その手の先に魔法陣が描かれはじめた。やがて幾何学模様が完成すると、癒やしの光が宙に漂う。
これが魔法……綺麗だ。
魔法がじゃない。魔法陣がだ。
どこか月に似ている。俺もこの魔法陣を描きたい。
セルフィを真似るように右手を掲げ、詠唱する。
「【鑑定】」
……何も出ない。
「レオ、魔法を唱えるときは、魔法陣を描く必要があるんだ」
なるほど。じゃあ、頭の中で魔法陣を描いて――
「【鑑定】」
……やっぱり何も出ない。
「まさか、習得できていないのか?」
「そんなことないわよ。【鑑定】の魔法書は白紙になったのよ?」
「じゃあ、どうして何も出ないんだ?」
「どうしてって……あっ!?」
セルフィが何か思いついたように手を叩く。
「レオ、右手を掲げて魔法陣を描くのではなく、目に魔法陣を浮かべるつもりでやってみて?」
「め?」
「そう! 普通は魔法を覚えると、文字や魔法陣は体に吸収されるのだけど、【鑑定】は目に吸収されたじゃない? だからもしかしたら、目の中に魔法陣が浮かぶのかもしれないわ」
一理ある。とりあえずやってみるか。
にしても、どうやって目に魔法陣を描くんだ?
試しに、【鑑定】の魔法書に描かれていた魔法陣を思い浮かべながら、セルフィに焦点を合わせ、目に力を込める。
「【鑑定】」
すると――
【名 前】セルフィ
【年 齢】二十歳
【魔 力】242/252
【ギフト】聖の心得
おぉ! 目の奥に情報が流れ込んでくる! ってかセルフィって今二十歳なのか!? ってことは、俺を十八歳で産んだのか……ヤンママなんだな。まぁ、息子の俺から見ても、誰にでも自慢できる綺麗な母だし、良しとしよう。
「まま、みえたよ!」
「本当? なんて視えた?」
「はたちで、まりょくが『242/252』で、ぎふとがせいのこころえ。あとはとってもきれいってかいてある」
もちろん綺麗とは書いていない。リップサービスだ。
「本当!? 確かに合ってるわね! 特に綺麗だってところが!」
なかなかノリがいいな。
次はロベルト。
【名 前】ロベルト
【年 齢】二十歳
【魔 力】332/332
【ギフト】火の心得
二人は同い年か。
「ぱぱもはたちで、まりょくは『332/332』。ぎふとはひのこころえ。いけめんともかいてあるよ」
俺の言葉に、二人は俺を取り合うようにして抱きしめ、大喜びする。
「次はレオの番ね。自分を鑑定してみなさい」
セルフィに言われて鏡の前に立ち、【鑑定】を唱える。
すると、鏡に映った右目に魔法陣が浮かんでいるのが見え、そのまま目の奥に情報が入り込んでくる。
【名 前】レオン
【年 齢】二歳
【魔 力】10/10
【ギフト】-
魔力が『10』……少ない。
しかも、ギフトの欄には何も書かれていない。
ところが、それを伝えると、なぜかセルフィが喜ぶ。
「二歳にして魔力を授かっているなんて……八歳になったらまた授かると思うから、本当に将来が楽しみね!」
「確かに! これで、十二歳でギフトを授かるなんてことがあれば……」
期待に胸を膨らませる二人。
本来、魔力は八歳になったときに授かるものだという。
だったら六年後、さらに魔力をもらえるのかもしれない。
ただ、それまで何もせずに待つつもりはない。
セルフィの魔力が『242/252』だったのは、さっき【治癒】を使って『10』減ったからだろう。つまり、魔法陣を描くには魔力が必要ということだ。俺の魔力は『10』しかない。これでは一回描いただけで空っぽになってしまう。
いっぱい描きたいから、今のうちに魔力を上げておきたい。やり方は分かっている。こういうのは、魔力を枯渇させれば上がると相場が決まっているのだ! 地球で読んだ辞書にもそう書いてあった!
と、考えてから気づく。
あれ? 【鑑定】は何度使っても魔力が減っていない。これじゃ、どうやって減らせばいいんだ?
考えに考え抜いた結果……ひらめいた。俺も【治癒】を使えるようになればいいんだ!
そうすれば、魔力を枯渇させることができる!
セルフィがさっき見せた【治癒】の魔法陣。あれは、母がいつも魔法書に描いているものと同じだ。ということは、その魔法書を読めば俺も……そう思って、仕上がった魔法書の一冊を手に取ると――
「レオ? もしかして【治癒】を覚えようとしている?」
「うん」
「うーん……人には適性があって、皆が皆、どんな魔法でも覚えられるというわけではないの。例えばママには――」
セルフィの言葉を遮るように、ロベルトが彼女の肩に手を置く。
「まぁいいじゃないか。やらせてみよう」
「……でも、もし聖属性のギフトを授かるなら、それから覚えた方が……」
「大丈夫だろ。十年後に覚えるよりも、今覚えられる方がいい」
「……そうね。じゃあ、レオ。少し待ってて」
セルフィはそう言うと、俺の手から魔法書を取り上げ、大切な本をしまってある本棚から、別の【治癒】の魔法書を持ってきた。
「こっちは特に気合を入れて書いた本だから、さっきのよりも覚えやすいと思うわ」
そう言って、その魔法書を俺の前に置く。
へぇ、魔法書は全部同じわけじゃないのか。同じ魔法が描かれていても、出来栄えによって覚えるまでの期間が変わるということね。
「通常、その属性の才能がある人でも、第一位階魔法を覚えるには一か月かかるの。ママみたいに【聖の心得】などのギフトを持っていると、もう少し早くなるんだけど」
じゃあ、ギフトのない俺は、才能があったとしても一か月はかかるということか。
「よんでみるね」
まずは、一か月以内にこの魔法書を読み解くのが目標だ。
才能がなければ諦めるしかないが、なぜだか俺には覚えられるという予感があった。
そして、その予感は的中する。
一週間後――【治癒】の魔法書は白紙となった。




