第3話 理の外で生きます
「レオ……あなた、本当に一週間で【治癒】を……?」
俺がそれを覚えたのは、ロベルトが出かけていて、いつものようにセルフィが魔法書を書いていたときのことだった。
「うん! たぶんおぼえたよ!」
試しに右手を掲げて、唱えてみる。
「【治癒】!」
頭に思い浮かべた白い魔法陣が宙に描かれていく。
うわぁ……綺麗だ。思わず見とれていて、ふと気づいた。魔法陣は二歳児の俺よりも大きいらしく、下の方が床についてしまっている。
「す、すごい……見たことがないほどの大きさ……」
セルフィが俺の魔法陣に驚いている。
「おおきいといいの?」
「ええ、同じ魔法でも、魔法陣の大きさ次第で威力が変わるの。大きければ大きいほど威力は高くなって、小さければ低くなる。それに、真円に近ければ近いほど体内の魔力が正確に伝わるから、制御もしやすくなるし、魔法陣が完成してから魔法が発現するまでの時間も短くなるの。それでいて、消費する魔力の量は変わらない――つまり、より大きく、より精密な魔法陣を描けるほど、同じ魔法でも威力も精度も発現速度も上がるのよ……って、ごめんなさい。つい興奮しちゃって……二歳のレオにはまだ難しいわよね」
確かに二歳児にする話ではないが、それを言うなら今更だ。
「つぎは、ゆかにまほうじんがつかないようにやってみるね」
「【治癒】!」
が、発動しない……あれ? なんで……?
と思っているうちに、意識が遠のいていく。
あ、これは魔力が枯渇したんだ、とすぐに察する。
魔力は枯渇させれば増える――というのは、地球で読んだ俺の辞書に書いてあった。なんとか頭をぶつけないようにセルフィの腕の中へ倒れ込んだところで、意識が飛んだ。
♢
目を覚ますと、ロベルトも帰ってきていて、二人が心配そうに俺の顔をのぞき込んでいた。
「レオ!? 大丈夫か!?」
「うん、まりょくがこかつしたみたい」
「枯渇? おかしいな……【治癒】を覚えたなら、魔力は『20』になっているはずなんだが……一度、自分を【鑑定】してみろ」
言われた通り、鏡に向かって鑑定。
【名 前】レオン
【年 齢】二歳
【魔 力】11/11
【ギフト】-
おぉ! 『1』だけだが、やっぱり上がってる!
が、ロベルトとセルフィは渋い顔をする。
「おかしい……第一位階魔法を習得すれば、魔力は『10』増えるはずなんだ」
「そうね……どうして『1』なのかしら……」
もしかして、転生者の俺はこの世界の理の外にいる? ……だったら、むしろ当たりじゃないか? 一度だけ魔力が『10』増えるより、魔力を枯らすたびに増える方がいいに決まっている!
二人の不安な表情をよそに、俺は天に向けて右手を掲げる。
「【治癒】!」
純白の魔法陣が宙に幾何学模様を描き、きらめく魔力の残滓が降り注ぐ。
一度見ているセルフィの驚きはそこそこだったが、ロベルトは口をあんぐりと開けている。
「う、嘘だろ……? 魔法陣は、最初は小さいものから始めて、少しずつ大きく、真円に近づけていくのが普通……なのに、レオの魔法陣は今まで見たどの魔法陣よりも大きくて、しかも真円だ……」
やはり、俺が描く魔法陣は特別らしい。
前世で絵を描くのが趣味だったことが、ここで活きた。
そして、もう一度【治癒】を唱えて魔力を枯渇させ、眠りにつく。よし、これで次に起きたときには、魔力は『12』になっているはず……だった。
♢
眠りから覚めると、すぐに自分を鑑定。
【魔 力】11/11
えっ? 変わってない?
そんな馬鹿な!? 俺の辞書には、超絶イケメン金髪男子がMPを使い切るたびにどんどんMPを増やしていき、とんでも美女たちとイチャイチャするという物語があったのに……でも、確かあの物語の結末は……今考えるのはやめておこう。
「レオ、鑑定結果はどうだった?」
「かわってなかった」
「やはり……普通はな、魔法を習得すると、その魔法の消費魔力と同じだけ魔力が増えるんだ。第一位階魔法なら『10』、第二位階魔法なら『20』というようにな。もしかしたらレオは、魔法の習得が早い代わりに、魔力が増えにくい体質なのではないか?」
う、嘘だろ?
「レオ、次は【火撃】を覚えて――」
「だ、ダメよ! 子供に攻撃魔法、しかも火属性はっ!」
「た、確かに……すまん」
「じゃあ、レオ。次は【解毒】の魔法書を渡すわね。これも聖属性の第一位階魔法だから、すぐに覚えられるかもしれないわ」
目の前に、【治癒】と似た魔法陣が描かれた魔法書が置かれる。
そして、一週間後――
俺はまたしても、聖属性魔法の【解毒】を習得した。しかも唱えてみると、魔法陣は【治癒】と同じように大きく、真円を描いていた。
だが、鏡に映る自分を鑑定すると――
【魔 力】2/12
……やっぱり、ロベルトの言う通りだ。俺は普通の人の十分の一しか魔力が増えないらしい。




