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第1話 転生……そして

 あれ……? 意識がある……。

 確か俺は、通り魔に襲われていた女の子を助けようとして刺されたはずなんだけど……助かったのか?


 そう思って目を開ける……が、視界がぼやけていてよく見えない。声を出そうとしても上手くしゃべれないし、手を動かそうとしても思うように動かない。まぁ、刺されたんだから当然だ。生きているだけで丸儲けだろう。


 そんなことを考えているうちに、だんだんと視界のピントが合ってきた。


 そこに映ったのは――俺を心配そうにのぞき込む西洋風の美男美女。この人たちが俺を助けてくれた医者か?


 周りを見渡そうとしたが、首が動かない。仕方なく目だけを動かしてみると、そこは医療機器ひとつ見当たらない部屋だった。病院特有の匂いもしない。


 ここは……どこですか?

 そう言ったつもりだった。


「おぎゃぁぁぁああああ!!!」


 おぎゃ?

 何を言おうとしても、口から出るのは「おぎゃあ」ばかり。

 しまいには目の前の女にひょいと持ち上げられる始末。


 え? 成人の俺を持ち上げた? 嘘だろ? と思った瞬間、視界に自分の手が入った。それはとても小さな手だった。


 もしかして……転生?

 その考えに行き着くまで、そう時間はかからなかった。


♢


 転生して一年も経つと、だいぶ状況が分かってきた。


 俺は地球ではないどこかに転生したようだ。


 当然、言葉も文字も地球にはないものだ。だから最初は周りが何を言っているのかさっぱり分からなかったが、今では父のロベルトや母のセルフィの会話も、うっすらと分かるくらいにはなった。


「あなた、レオは暇さえあればずっと魔法書を読んでいるのよ」

「さすが俺とお前の子だな。将来は金証魔法師――いや、特級魔法師か」

「宮廷魔法師の方が安泰よ」


 レオというのは俺の愛称。本名はレオン。

 魔法……ロベルトとセルフィの話を信じるなら、この世界には魔法があるらしい。これこそが、俺が地球ではないどこかに転生したと考えた根拠だ。


 もっとも、俺は別に魔法書を読んでいるつもりはなかった。

 そこに描かれている魔法陣をただ眺めていただけだ。


 前世の俺は絵を描くのが趣味の一つだった。特に月のような丸いものを描くのが大好きで、会社から帰ってきては一人で描いていた。その性分が生まれ変わっても抜けていないのか、いつか自分でもこの幾何学模様の魔法陣を描いてみたいと思うようになってしまったのだ。


 趣味といえば、貯金も好きだった。コツコツ貯めて、通帳の残高が増えていくのを眺めるのがささやかな生きがいだった。こんなに早く死ぬのなら、全部使い切っておけば良かったと後悔している。


 そして、最大の後悔といえば――一度でいいから、女性とお付き合いしてみたかった! 女の子と手を繋いだのは林間学校のフォークダンスが最後。俺が反射的に通り魔からあの子を助けようとしたのも、心のどこかにそんな下心があったからかもしれない。


「まま、だぁっ!」


 魔法書を眺めているうちに、なんとなくだが、書かれている文字も分かるようになってきた。


 何度も出てくる形から意味を推測しながら、少しずつ読み進めていく。

 分からないときは今みたいに文字を指さして、百万ドルの笑顔でセルフィを見上げてやればいい。そうすれば、母は嬉しそうに俺を抱きしめて読み方を教えてくれる。


「レオ、それは『視る』と読むのよ」

「だぁ?」


 俺が腕の中から辺りを見回して、「見る」ってこと? と目で尋ねると、セルフィは俺の体を揺らしてあやしながら答える。


「そう。でも『見る』とは少し違うの。『視る』は魔力を介して見ることなの……レオはまだ魔力を授かっていないから少し早いかもしれないけど、いつか役に立つからね」

「だぁっ!」


 魔力というのは、いずれ授かるものなのかもしれない。


「じゃあ、レオ。ママは魔法書を書かないといけないから、そっちの魔法書を読んでいてね」


 セルフィはさっきまで俺が見ていた魔法書のそばに俺を座らせると、自分も執筆に取り掛かる。母はどうやら魔法書を書くのを仕事にしているらしく、毎日のように、こうして俺の隣で作業をしている。


「こっちが癒やしで……そっちが……」


 セルフィはいつも独り言を呟きながら、魔法書を書き進める。だから、その声に合わせて書かれていく文字を見れば、どの字がどういう意味なのかが分かるのだ。


 そして書き終えると、仕上げに必ず、白く輝く手を魔法書に当てる。

 どこか神聖な光。これが魔力なのだと、教えられなくてもすぐに理解した。


♢


 そんな日々を過ごすこと一年――俺が二歳になったころ。

 その日はロベルトも仕事に出ず、家で寛いでいた。


 俺はいつものように、セルフィの隣で魔法書を読み進める。もう眺めるだけではなく、ちゃんと読んでいる。今ではすらすら読めるようになっていて、セルフィに聞かなくとも、この本に書かれている内容は理解できている……つもりだ。


 そして、これもいつものように、魔法書に描かれた魔法陣を眺める。


 すると――


 突然、魔法書のページがひとりでにパラパラとめくれ、中から淡く光る文字が浮かび上がる。


「うわっ!?」


 驚いた俺が声を上げると、ロベルトとセルフィが目を見開く。


「なっ――!? 魔法を習得した!?」

「う、嘘よ! レオはまだ二歳よ!?」

「でも、見ろ……魔法書の……それも特位階魔法の文字がレオに……」


 文字だけでなく、魔法書からは魔法陣も浮かび上がっている。

 どうすれば――!?

 そう思った瞬間、セルフィが背後から俺の肩を抱いた。


「レオ、このまま受け入れなさい」

「ど、どうやって……?」

「何もしなくていいの。あなたは今、特位階魔法【鑑定《アプライズ》】を習得したのよ!」


 その言葉と同時に、浮かび上がった文字が俺の目に飛び込んできた。

 痛っ……くはない。目から入った何かが体の中を巡っていく感じ。

 文字が次々と流れ込み、続いて魔法陣までもが目の中へ吸い込まれていく。


 やがて光が収まり、手元に視線を落とすと、この一年間ずっと読んでいた魔法書は白紙となっていた。

本作は下記タイトルのリメイク版です


『魔力最低の落ちこぼれ魔法師。ギフト【ストック】を得て体外に魔力を貯めることが出来るようになった結果、最強になりました ~【ストック】してれば最強魔法師候補。【ストック】なければ並み以下です~』


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