23.縮まる距離、縮まらない秘密
前回のあらすじ。
蝶花を救った直後、気がついたそこは
目的としていた魔王城だった。
魔王である結は、意味深な言葉を残し、
彼らをまた違う地へ飛ばしてしまうー
草の匂いがする。
目を開けると、そこはどこかの草原だった。
さっきまでいた禍々しい魔王城とは似ても似つかない、穏やかな風が吹いている。
体を起こすと、近くにみんなが倒れていた。
「いっ……てぇ……みんな、無事か?」
「ああ、なんとかな……しかし、さっきのは一体……」
「魔王の魔法で、城じゃないどこかにとばされたみたいだね」
火野先生が、困ったように笑う。
言われて初めて、魔王城がすごく遠くに見えることがわかる。
ついさっきまであそこにいたのに……
「にしてもだいぶ飛ばされたなぁ。魔王城がもうあんな遠くになってるし」
「かなみ達、お話しできなかったねー」
「……また、あそこに戻らないといけないんですね……」
「それより、今は話すべきことがあるだろ」
低い、怒りに満ちた声が響く。
無論、火野君だ。大きい斧を今にも構えそうな勢いで、彼を見ている。
その視線の先には、静かに土を払ってる土屋君がいてー
「おい慎。魔王とどう言う関係だ?」
「……なんの話だ?」
「とぼけんな!! あいつのことを名前で呼んでただろ! 行く前も、敵だと決めつけるなとか言って……! まさかとは思うが、魔王のスパイなんじゃねぇのか!?」
「……それは……」
「あいつは魔王、姉さんを危険な目に合わせた元凶だぞ!! それと一緒に逃げようとか、頭おかしいんじゃねえの!?」
「りょう、やめろって! 喧嘩してる場合じゃねぇだろ!?」
あまりの喧騒に、柏木君が割って入る。
それでも火野君は、殴りかかろうとする手を止めない。
男の子の喧嘩に、私も阿南さんもただ見てることしかできなくて……
「そもそもなんなんだよ、仮面とか秘密とか!! 帰れねえとかふざけんなよ!!」
「だからって慎にあたるのはちげーだろ! 少しは落ち着けって!」
「本音を言えば帰れるのか!? だったら言ってやるよ! 僕は……僕は……姉さんが好きだーーーー!!」
草原に、彼の叫び声が響き渡る。
みんながみんな、きょとんとした顔で彼をみる。
いわれた本人である火野先生だけは、おおー、と感心の声をあげていたけど。
「お、おう。それは知ってたけど、どうした急に」
「うっさい! 結婚したいとすら思ってましたが、何か問題でも!!?」
「開き直ってるんだか、なんなんだか……」
「姉さんは僕の全てだ! 僕の宝だ! 姉さんさえいれば何もいらない! 1人で十分だったのに……あんたらのせいで、何もかもめちゃくちゃだ! 隠し事されてるってだけで腹が立つ!! 言えよ、ちっさいことでも! それが仲間ってもんじゃないのかよ!?」
肩で息をする彼の姿は、今まで見た誰よりも必死で、そしてかっこいい。
すごいな、こんな風に堂々と言えるの。
そう思ってるのは私だけじゃないようで、土屋君は力が抜けたように笑ってー
「……ははっ、亮輔には敵わないな。そこまで言われちゃ、俺も黙ってるわけにはいかないか」
土屋君は、掴まれた手をそっと外す。
そして静かにうなずくと、穏やかな声で口を開いた。
「前の学校の先生、だったんだ。ちょっと事情があってな、家に行き来してたことがあって。彼女は、悪者じゃない。俺にとってはかけがえのない恩人なんだ」
「恩人……」
「だから俺は、彼女が敵だとはどうしても思えない。亮輔が蝶花先生を思うのと同じように、俺も彼女を救いたい。そう思ったら、体が勝手に動いてた。ごめんな、みんな」
二人の視線が、ぶつかり合う。
家族を想う愛と、恩師を想う愛。
形は違っても、その熱量は同じでー
「……チッ。それなら早く言えよ。ったく、怒った僕が悪いみたいじゃん」
火野君が、バツが悪そうに視線を逸らす。
すると彼は、ため息混じりに彼を見てー
「そーゆーことなら、あの人もついでに助けてやってもいい。本人から訳を聞いて、納得できたらだけどな。姉さんを巻き込んだ文句は、その時にたっぷり言うから、そのつもりで」
「……ありがとう、亮輔」
「ほら、こいつは言ったぞ。あんたらもい……」
「わーーい、慎とりょーちん、仲良しぃ! かなみ、嬉しい!!」
「ちょっ、いちいちひっつくな!! つーかはぐらかすなよ!!」
「だって、かめん? とかひみつ? とか、よくわかんないもん! かなみには、ないよ! ……ん、そんなのない」
あれ、気のせいかな……今、阿南さんの顔が暗くなったような……
それに気づいたのか、火野君は何か言おうと口を動かす。
が、その直前。柏木君が、彼の肩に覆い被さってー
「お前の男気、じゅーーぶん受け取った!! 話はまとまったし、まあ秘密はボチボチ話すってことで許してちょ♪」
「なっ!! あんた、ずっる!!」
柏木君が、いつものように笑う。
笑っているはずなのに、一瞬だけどこか影があるように目を伏せてしまう。
それだけで、わかった。私と彼は同じだと。
仮面を外す。その言葉の意味は、よくわからない。
それが本当の自分を晒すことなのだとしたら、私達はいつか自分のことを話さないといけない。
私はギャルを演じていただけ、そう言うだけなのに言葉が出ない。
怖いんだ、本当の自分を、知られることが。
元の世界に戻りたいはずなのにー、どうしてこんな気持ちになるのだろう……
「そんなに、焦らなくてもいいんじゃないかな? 少しずつ前に進めば、何か見えるかもしれない。大丈夫だよ、みんななら。またあそこに戻ろう?」
火野先生の優しい声が、私の迷いを遮る。
飲み込んだ言葉は、苦い味がした。
$
彼らの距離が、縮まってゆく。
結は、それを見つめていた。
ずっと、見守るようにして。
仮面を剥がす。
それがどんなに彼らにとって難しいか、自分は知っている。
彼らの問題はそれだけ大きく、不安なものばかりなのだからー
「素晴らしいね……あんなに一致団結して君の罪も知らずに……仮面を剥いだところで、君はここに縛られたままなのに」
声が、する。
同じように、彼らを見ている者の声。
自分はこの声を、何度も聞いてきた。
愛しくもあり、二度と聞きたくないとさえ思ってしまった、この声をー
「……別に、あたしが帰りたいわけじゃないわ。これは、あの子達に必要なこと。ただ、それだけ」
「君は、優しいね……さすが、僕の恋人」
影が、ねっとりと結の髪を撫でる。
この感触、この温もり、全然変わらない。
忘れたくても忘れられない、あの人の温もりー
「わかってる、あたしはここを離れたりしないわ。……これはあなたを殺してしまった、あたしの罪だから」
彼女は、目を伏せる。
その視線の先ー影の向こうには、大きな何かが蠢いていたー
(つづく!!)
おまけの小ネタ
慎「亮輔、今回はありがとう。おかげで、俺もふっきれたよ。まさか、あんなに堂々とシスコン宣言するとは」
亮輔「うるさいな。あれくらいいわなきゃ、お前ら何も言わねーだろ」
慎「ははっ、らしい答えだな。そこがお前の良さってことか」
晃「それにしちゃぁ度がすぎてる気もするけどなぁ。蝶ちゃんに彼氏できたら、すんげーことになりそうかも、なんて」
慎「……はぁ? 彼氏?」
晃「だってそーじゃん? 蝶ちゃん可愛いし、普通にいい人だし。その辺歩いてればきっと……」
水帆「か、柏木君、あの。火野君がすごい勢いで、斧を振り回し始めてます……」
晃「あくまで可能性の話なのに!? こいつどんだけだよ!!」
慎「案外、亮輔は重たいタイプなのかもな。仮に好きな人ができたら、どうなることやら……」
金愛「ねーねー、りょーちんどうしたのー? 大丈夫ー?」
シスコンこそ正義。




