終わらぬ評定――宇喜多への問い
ひとまず、今いる者だけで話そう。
そう決まった。
清盛館そのものでは手狭だった。
戦の前から人が増えすぎていたため、少弐が清盛館を私的な館として残し、その隣に新しく建てさせた集会所がある。
この日はそこへ移った。
赤松。
宇野。
小寺。
別所。
生き残った播磨諸家。
黒田。
少弐。
スリフォン。
赤井直正。
阿波辺岩蔵。
その他、今後の播磨について話す必要のある者が集まった。
議題はいくらでもあった。
守護をどうする。
兵をどうする。
荒れた田畑をどう戻す。
橋をどう架け直す。
帰る家のない者をどうする。
少弐が最初の話を始めようとした。
「では、まず――」
「お待ちくだされ!」
遮った者がいた。
宇野の者だった。
少弐が口を閉じる。
宇野の者は立ち上がった。
「その前に、決めねばならぬことがござろう」
黒田が嫌な予感のする顔をした。
「なんでしょう」
「宇喜多への制裁はいかに!」
座がざわめいた。
宇野の者は止まらない。
「そもそも羽柴がここまで来たのは、どこを通った!」
誰かが答えた。
「宇喜多領……」
「そうだ!」
宇野の者が床を叩いた。
「宇喜多が羽柴を通したゆえではないか!」
赤松の者もすぐに声を上げた。
「その通り!」
少弐は頭を掻いた。
守護の話をするはずだった。
開始早々、宇喜多問題になった。
だが誰も笑わない。
播磨衆にとっては、それだけ大きな問題だった。
羽柴勢が西から播磨へ入り込んだ。
戦が広がった。
城が落ちた。
村が焼けた。
多くの当主が死んだ。
もちろん原因をすべて宇喜多一人へ押しつけることはできない。
だが、
なぜ羽柴軍を通したのか。
これは聞かなければならなかった。
しかも、もう一つある。
宇野の者が続けた。
「戦の最中にも書状を出したではござらぬか!」
少弐が頷いた。
覚えている。
須磨から羽柴勢を押し戻した際、一部の羽柴兵がそのまま宇喜多領へ逃げ込もうとしていた。
だから少弐は宇喜多へ書いた。
羽柴兵の領内通過を禁じてほしい。
宇喜多領を通って再び播磨へ入ることを許さないでほしい。
だが――。
「返事がない!」
赤松の者が言った。
「戦が終わろうというのに、未だにない!」
確かにそうだった。
少弐も気になっていた。
宇喜多が書状を受け取っていないのか。
受け取ったうえで答えていないのか。
答えられない事情があるのか。
こちらには分からない。
黒田が口を開いた。
「制裁を論じる前に、事情を尋ねるべきでしょう」
宇野の者が黒田を見る。
「官兵衛殿は宇喜多を庇われるか」
「逆です」
黒田は淡々と答えた。
「事情も聞かずに制裁を決めれば、向こうに言い逃れする口実を与えます」
その言葉で少し静かになった。
少弐も頷いた。
「まず聞こう」
宇野の者がまだ不満そうにしている。
少弐は続けた。
「ただし、私一人の名前では出さない」
皆が少弐を見る。
羽柴との停戦でも同じことをした。
播磨は少弐一人の国ではない。
ならば宇喜多へ問いただすのも、少弐個人の名義ではおかしい。
「また連名にしよう」
赤松の者がすぐ頷いた。
「それがよい」
宇野も、
「ぜひそうしていただきたい」
と答えた。
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紙が用意された。
だが、書き始めてすぐに揉めた。
「羽柴を通した罪を――」
「待ってください」
黒田が止める。
「まだ罪と決めてはなりませぬ」
「しかし!」
「だから説明を求めるのです」
書き直す。
まず第一の問い。
羽柴勢が宇喜多領を通過して播磨へ進出した経緯について。
宇喜多が正式に通行を認めたのか。
黙認したのか。
阻止できなかったのか。
羽柴側からどのような要求があったのか。
その事情を明らかにしてほしい。
第二。
戦中、少弐から送った書状について。
羽柴方兵士の宇喜多領通過を禁じるよう求めた書状を受領したのか。
受領しているなら、なぜ返答がなかったのか。
また実際に羽柴兵が宇喜多領へ入った場合、どのように扱ったのか。
そして第三。
ここで黒田が少し筆を止めた。
尼子だった。
出雲で蜂起した尼子残党が敗れ、宇喜多領へ逃れ込んでいる。
毛利はその身柄引き渡しを要求している。
同時に、宇喜多へ立場を明らかにするよう迫っている。
これは播磨とは直接関係しないようでいて、関係している。
赤松の者が言った。
「これも聞くべきだ」
宇野も頷いた。
「西から尼子、東から羽柴。何でも通す国境では困る」
そこで第三の問いが加えられた。
尼子残党が宇喜多領へ入った経緯と、現在どのように処遇しているのか。
保護しているのか。
武装解除したのか。
毛利へ引き渡すのか。
あるいは別の処置を考えているのか。
そして、それが宇喜多の今後の立場とどう関係するのか。
少弐が言った。
「ここは気をつけよう」
「何をです?」
「毛利殿の言い分を、私たちが代わりに聞く必要はない」
黒田が頷いた。
毛利と宇喜多の問題に播磨が介入するのではない。
ただし、播磨と国境を接する宇喜多領へ武装集団が次々と流れ込んでいる以上、その処置について説明を求める。
そこに限定する。
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最後に、宇野の者が言った。
「期限を設けるべきだ」
黒田が見る。
「返答の?」
「そうだ。また返事がないでは困る」
これは皆が賛成した。
ただし恫喝にはしない。
一定の日数以内に、正式な使者または書状によって説明を求める。
それでも回答がなければ――。
そこで初めて、播磨諸家が改めて対応を協議する。
「制裁はそのときか」
宇野の者が尋ねた。
黒田が答えた。
「そのときです」
宇野はようやく座った。
「ならばよい」
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文章が整った。
一人ずつ確認する。
そして署名する。
赤松。
宇野。
小寺。
別所。
その他、この場にいる播磨の家々。
少弐はそれを見ていた。
羽柴との停戦連判状に続いて、また一枚、播磨衆の名前が並んでいく。
ただし今度は約定ではない。
問いである。
宇喜多に説明を求める、播磨からの公開質問に近かった。
最後に少弐も、自分が戦中に送った書状の当事者として名を添えた。
完成した文書を見て、少弐が言った。
「これならいいだろう」
宇野の者はまだ不満そうだった。
「私は制裁まで決めたかったが」
「返事を見てからにしよう」
少弐が答える。
赤松の者が横から言った。
「返事がなければ?」
今度は少弐も少し考えた。
「そのときは、返事がないこと自体が返事なんじゃないか」
黒田が静かに頷いた。
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使者が選ばれた。
一人ではない。
播磨諸家の連名であることを示すため、複数の家から人を出す。
武装は最低限。
戦をしに行くのではない。
説明を求めに行く。
連判状が箱へ納められた。
翌朝、それを携えた一行が兵庫津を出た。
西へ。
宇喜多領へ。
会議場では少弐が皆を見回した。
「では」
今度こそ。
「守護の話を――」
宇野の者が手を上げた。
黒田がすぐに言った。
「宇喜多の話はもう終わりました」
会議場に笑いが起こった。
長い戦の後、播磨には決めなければならないことが山ほど残っていた。
だが少なくとも一つ。
宇喜多に何を問うのか。
それだけは、播磨の家々自身の名前で決められた。




