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那珂湊城の春

那珂湊城の春

春の潮風が那珂川河口を渡り、白い帆をゆっくりと揺らしていた。

氏治は水戸頼治と鹿島政道を伴い、新たな海の拠点となる那珂湊城の視察に訪れていた。

もとは港であったこの地は、既存の船着場を活かしながら大きく拡張され、城と港が一体となった要害へと姿を変えつつある。

海に面した土塁や櫓、兵糧蔵、武具蔵、船着場はほぼ完成していた。敵船が最も攻め寄せやすい海側には幾重にも防備が施され、上陸できる場所も限られている。

氏治は土塁の上から海を見渡し、小さく頷いた。

「よい。敵に晒される面は、おおよそ完成したな。」

水戸頼治が答える。

「はい。南側にはまだ拡張の余地がありますが、あちらは当面安全です。まずは敵に向く面を優先いたしました。」

鹿島も満足そうに笑う。

「交易港として広げるなら南側が適しております。戦が落ち着けば、町もさらに大きくなりましょう。」

視察を終えた三人は、そのまま那珂湊城内で評定を開いた。

水戸頼治が静かに口を開く。

「殿、佐竹家中より気になる知らせがございます。義昭公のご容体を案じる声が増え、家中では代替わりを意識する者が少なくありません。」

鹿島も続ける。

「見聞方からの報せも一致しております。殿が続けておられる米や塩の買い付けで、佐竹領内の物価は少しずつ上がっております。次の当主が武功を急ぐ人物なら、攻勢へ出るやもしれません。」

氏治は静かに頷いた。

「ならば先手を打つ。」

「坂東楯を緊急配備する。全軍ではない。鉄砲隊へ集中配備せよ。一隊につき二枚を基本とし、戦場では楯を集めて横陣を築く。」

氏治は地図に指を走らせた。

「楯の後ろには鉄砲隊を二列置く。一列は射撃、一列は装填する予備列だ。絶えず鉄砲の火を絶やすな。楯の設置と運搬は工兵隊に任せよ。」

家臣たちは深く頷いた。

氏治は鹿島へ向き直る。

「商販方を動かせ。佐竹領内で米、塩、布、油、鉄など生活に欠かせぬ物資を買い付け、交渉方を同行させよ。見聞方・商販方・交渉方を連携させ、戦わずして敵の力を削る。」

鹿島は一礼した。

「承知いたしました。」

続いて氏治は水戸頼治へ視線を向けた。

「頼治。」

「はっ。」

「そなたは佐竹を知り尽くしておる。旧知の者たちを頼り、小田へ味方する見込みのある者、あるいは戦を望まぬ者を探れ。」

頼治は静かに頷く。

「調略にございますな。」

「うむ。無理に寝返らせる必要はない。情報を流してくれるだけでもよい。戦になれば動かぬだけでも十分な働きとなる。」

頼治は深く頭を下げた。

「佐竹家中の人脈は、必ずや坂東のために役立ててみせます。」

氏治は満足そうに頷いた。

「戦は槍や鉄砲だけで決まるものではない。兵糧、商い、人の心、そのすべてが戦場なのだ。」

その日、那珂湊城からは各地へ早馬が駆け出した。

楯を量産する者。

物資を買い集める者。

敵情を探る者。

そして、佐竹家中で静かに味方を増やしていく者。

春の海は穏やかだった。

しかし、その静かな海風の中で、坂東は来るべき戦に向け、一歩ずつ盤石な備えを整えていた。

この流れなら、水戸頼治は軍師であり調略担当、鹿島は情報・交易・経済戦担当と役割がはっきり分かれ、今後の対佐竹戦にもつながりやすくなります。

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