答えのない仏たち
調べれば、何か分かると思っていた。
少弐は人を分け、ボロブドゥールだけでなく、その周囲まで丁寧に調べさせた。
古い道はないか。
人の住んだ跡はないか。
寺を支えた集落はどこにあったのか。
水はどこから得たのか。
石はどこから運んだのか。
近くの村にも人を送り、老人から話を聞いた。
古い歌。
土地の名前。
山についての伝承。
祖父から聞いた話。
そのまた祖父から聞いたという話。
何でも記録した。
少弐自身も歩いた。
崩れた石を見つければ位置を書き、何か刻まれていれば写させた。
イネスたちがこれまでやってきたように、仏像の姿も一つずつ記録していく。
だが――。
調べても。
調べても。
結局分かるのは、
ここが忘れ去られている
ということだけだった。
誰が最後の僧だったのか。
いつ最後の祈りが捧げられたのか。
最後にこの石段を掃いたのは誰なのか。
なぜ、ある日から人が来なくなったのか。
何も分からない。
戦で滅んだのかもしれない。
王が移ったのかもしれない。
火山かもしれない。
飢饉かもしれない。
信仰が変わったのかもしれない。
すべて少しずつ正しいのかもしれない。
だが、証がない。
少弐はとうとう、
「今日は、もうよい」
と言った。
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人を下がらせた。
スリフォンも何も言わなかった。
少弐は一人、ボロブドゥールの中央へ上がった。
石の上に腰を下ろす。
風が吹いていた。
懐からキセルを取り出した。
火を入れる。
一服。
煙が静かに上がった。
また一服。
これまでなら、ここからだった。
分からないものがあれば考える。
仮説を立てる。
人に聞く。
本を探す。
別の土地へ行く。
麒麟とは何か。
一角竜とは何か。
将軍とは何か。
天下とは何か。
価値とは何か。
少弐冬明は、いつも問いを作って、その答えを探してきた。
だから今回も、
なぜ壊れた。
なぜ捨てられた。
なぜ忘れられた。
そう書いた。
けれど――。
少弐はキセルをふかした。
もう、答えを出そうとは思わなかった。
諦めたのではない。
少し違う。
ボロブドゥールに飲まれてしまった。
目の前に、仏がいる。
一体ではない。
何体も。
何十体も。
さらに向こうにもいる。
傷ついている。
顔を失ったもの。
腕を失ったもの。
崩れかけたもの。
苔むしたもの。
それでも、仏はそこにいる。
少弐は一体の仏像を長く見ていた。
その姿が、なぜか日本の僧侶たちと重なった。
比叡山。
あの山にいた僧たち。
戦に巻き込まれ、傷つき、それでも山に残った者たち。
少弐が知っているのは立派な僧ばかりではない。
欲のある者もいた。
政治に関わる者もいた。
武器を持つ者もいた。
逃げた者もいた。
それでも最後には仏の前へ戻り、手を合わせる者がいた。
目の前の石仏も同じだった。
誰かに傷つけられたのかもしれない。
雨風に削られただけなのかもしれない。
地が揺れたのかもしれない。
もう、それさえ分からない。
だが――。
まだ手を合わせている。
誰も拝みに来ない。
僧もいない。
寺を守る王もいない。
自分を造った者の名前さえ忘れられた。
それでも仏は、手を合わせていた。
少弐はキセルを口から離した。
「……強いな」
誰に言ったのでもなかった。
風だけが通り過ぎた。
少弐は仏像を見つめた。
「お前たちは」
そこで言葉が止まった。
聞いても仕方がない。
なぜここにいる。
なぜ捨てられた。
なぜ壊された。
なぜ、それでも祈っている。
答える者はいない。
だから少弐も、聞くのをやめた。
キセルを置いた。
そして石の上に座ったまま、仏と同じように静かに手を合わせた。
カトリックである自分が、何をしているのだろうとも思った。
だが、その疑問にさえ答えを求めなかった。
ただ、そうしたかった。
しばらくしてスリフォンが上がってきた。
少弐が手を合わせているのを見ると、声をかけずに少し離れたところへ座った。
どれほど時間が経ったのか。
少弐がようやく目を開いた。
「スリフォン殿」
「はい」
「分からなかったな」
「はい」
「何一つ」
スリフォンは少し考えた。
「それでも、見つけました」
少弐は目の前の仏を見た。
「そうだな」
それで十分なのかもしれない。
少弐はもう一度キセルを手に取った。
煙が、傷ついた仏たちの間へ静かに消えていった。
答えはなかった。
少弐も、その日はもう求めなかった。




