表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
94/1001

春の臨時坂東評定

春の訪れとともに、小田氏治は坂東諸将へ臨時評定の招集を命じた。

「今回の議題は一つ。」

「水牛である。」

評定の間には宇都宮尚綱、大掾、宍戸政繁、笠間幹久、笠間幹永、鹿島政道、陳猛哲らが顔を揃える。

氏治は開口一番、静かに言った。

「優先事項である水牛について、大きな進展があった。」

一同が身を乗り出す。

氏治は幹永へ目を向けた。

「幹永、皆へ話してくれ。」

幹永は一礼し、北浦での出来事を語り始めた。

新年の評定を終えて北浦へ戻ったこと。

笠間家へ婿入りし、正室の娘・綾乃と北浦を視察していたこと。

その途中、一頭の象が珍しく大きな鳴き声を上げ、自分たちを呼ぶように先導したこと。

象の後を追うと、湖畔の一角だけが大きく掘り返されており、鼻でさらに土を掘り返していたこと。

そして、その掘れた地面から白い湯気が立ち上っていたこと。

「恐る恐る手をかざすと、冬にもかかわらず熱い湯が湧いておりました。」

評定の間がざわめく。

「北浦に温泉か……。」

宍戸が思わず呟いた。

幹永は続ける。

「その日のうちに兄・幹久へ早馬を送りました。」

数日後には坂東農業公社の役人、獣医師団、石工、大工が北浦へ集まり、さらにシャムやルソンから渡来し、今では坂東に根付いた元傭兵たちも工事へ加わった。

湧き口は石積みで固められ、木樋で湯が引かれ、人用と家畜用の湯場を分ける工事が始まる。

調査の結果、草津や箱根ほどではないものの、平地としては豊富な湯量が確認された。

氏治も興味深そうに頷く。

「それで、水牛はどうなった。」

幹永は一冊の帳面を差し出した。

「坂東農業公社では、厳重管理した五頭の水牛で越冬試験を行いました。」

獣医師団が続ける。

「防風林が北風を防ぎ、栗や琉球芋など滋養に富む餌を十分に与えました。」

「さらに、オンドルを応用した牛舎、堆肥の発酵熱、温泉による湯浴み、そして寒さに強い坂東肉牛との混合飼育を行いました。」

幹永は静かに言った。

「その結果、五頭すべてが越冬に成功しました。」

評定の間がどよめく。

「しかも、冬の間は運動を控えさせたにもかかわらず、よく肥える餌を与え続けたことで、春先には越冬前より肉付きが良くなっております。」

宇都宮尚綱が豪快に笑った。

「冬を越えただけではなく、肥えたのか!」

幹永も力強く頷く。

「はい。」

「温泉だけではありません。防風林、飼料、牛舎、獣医学、そのすべてが噛み合って初めて得られた成果です。」

氏治は静かに立ち上がった。

「つまり。」

「坂東は、水牛を育てる基礎を手に入れた。」

評定の間が静まり返る。

氏治は鹿島政道へ向き直る。

「鹿島殿。」

「北浦がこれだけ受け入れられるなら、もう頭数が足りぬ。」

「坂東ガレオン船団を用い、シャム、ルソン、その他南方より良質な水牛を買い付けよ。」

鹿島は深く頭を下げた。

「承知いたしました。」

こうして北浦家畜温泉の発見は、単なる温泉の発見では終わらなかった。

それは坂東が本格的に水牛を増やし、湿地開墾と畜産を飛躍させる、新たな時代の幕開けとなったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ