新年の坂東評定、坂東楯と実りの畜産
新年の坂東評定 ― 坂東楯と実りの畜産
新年を迎え、小田城では坂東評定が開かれた。
氏治は評定が始まると、一枚の大きな図面を広げる。
「まずは軍備の話だ。」
図面には縦長の大楯と、それを横に連結する金具、さらに盾兵・坂東筒兵・槍兵・騎兵が一体となって前進する新たな陣形が描かれていた。
「これは兵学館へ出した宿題の答書の中から見つかったものだ。」
氏治は図面を掲げる。
「私はこれを『坂東楯』、そして『銃楯陣』として採用する。」
評定の間がどよめく。
「ただし、この答書には考案者の名が記されておらぬ。」
氏治は苦笑した。
「起案者は不明だ。兵学館には引き続き探させる。」
宍戸政繁が図面を見つめる。
「実戦で試す価値は十分ありますな。」
氏治は頷いた。
「自由都市土浦で版型を作り、金具や寸法を統一する。製造は牛革が最も集まる石岡一帯で進めよ。」
武具の議題が終わると、氏治は笑みを浮かべた。
「さて、次は腹を満たす話だ。」
評定の間に笑いが起こる。
真壁幹久が笠間焼の壺を運ばせた。
「こちらは豚の味噌漬けにございます。」
蓋を開けると、味噌の香りが広がる。
「笠間焼の壺で保存することで長持ちし、兵糧や交易品としても扱えます。」
氏治は一口味わい、満足そうに頷いた。
「遠征にも使える。これは良い。」
続いて弟の幹永が前へ進み、白い器を並べた。
「こちらは朝鮮や北方から伝わった技術をもとに作った品々です。」
器にはヨーグルト、チーズ、乳酒、さらに乳酒を蒸留した酒が並ぶ。
家臣たちは興味深そうに口へ運ぶ。
「酸味が爽やかですな。」
「この固い乳は兵糧にも向きそうだ。」
最後に幹永は小さな器を差し出した。
「乳と卵、それに琉球芋を使った甘味にございます。」
氏治は一口食べると目を丸くした。
「これは美味い。」
評定の間からも感嘆の声が上がる。
しかし氏治は笑って首を振る。
「面白いが、これは足が早い。」
「産業にするなら土浦がよい。市へ来た旅人や商人に食べてもらう名物にしよう。」
幹永も笑顔で頭を下げた。
「承知いたしました。」
ひととおり披露が終わると、氏治は居住まいを正した。
「最後に一門のことである。」
評定の空気が引き締まる。
「笠間家は古くより小田家の分家として坂東を支えてきた。しかし男子に恵まれず、家督を継ぐ者がいない。」
真壁幹久が進み出て頭を下げた。
「恐れながら、弟・幹永を笠間家へ婿入りさせたく存じます。」
笠間家当主も深く礼をした。
「ありがたき幸せ。」
氏治は穏やかに頷く。
「真壁家も笠間家も、共に小田一門だ。家を繋ぐことは、一門を繋ぐことでもある。」
幹永は静かに前へ進み、深く頭を下げた。
「本日より、笠間幹永と名乗ります。笠間の名に恥じぬよう、坂東のため力を尽くします。」
評定の間は大きな拍手と祝福に包まれた。
こうして新年の坂東評定は、新たな武具の採用、畜産と乳製品の発展、そして一門の結束をさらに強める人事という、坂東の未来を形作る実り多き評定となった。




